ドMの称号を持つ男
6月22日HJノベルス様から小説一巻発売です!
「『ライトニングペイン』ッ!」
俺が右腕を突き出すとバチバチとした黒い雷が迸り、前方にいるゴーレムへと突き刺さる。
黒い雷に貫かれたゴーレムは、内部で爆発でも起きたかの様に爆散した。
『……どうですか?』
「経験値が入ったような感触はしないな。やっぱり、自分が召喚した魔物の配下では、倒しても経験値は得られないみたいだな」
スライムキングとスラちゃんを十階層へ戻した俺は、念のためにゴーちゃんの配下であるゴーレムも貰って実験をしてみたのだ。
結果は見てわかる通り失敗だ。どうやら自分が召喚した魔物の配下では、倒しても経験値を得られないようだな。
『どうやらそう上手くはいかないようですね』
まあ、経験値というシステムの穴をついて楽ができれば儲けものくらいの気持ちでいたので、さほど落ち込むことではない。
「じゃあ、次の方法を考えるとするか」
『ゴーレムを一撃で倒せる魔法があるのですよ? 思い切って外に出て戦ってみては?』
「却下。外の情報もわからんのに迂闊に出ていけるか」
レベルの低い冒険者がここにたどり着けていることから、そこまで高いレベルの魔物が跋扈しているわけではないのだろう。
とはいえ、俺の魔法はゴーレムとスライムに通用したが、他の魔物に効かない可能性もある。
それに破壊力があるとしても、それは当たればの話。実際の魔物は動き回るし、死に物狂いでこちらを襲ってくるだろう。
とてもじゃないが戦える気がしないな。
『では、私が変身して周辺の魔物を調べてきましょうか? そうすれば安心して外でも戦えるでしょう?』
俺がきっぱりと告げると、ボックルがため息混じりに言ってくる。
中年神官の顔でそのように言われるととても腹が立つのであるが、今はそんなことよりも素晴らしいことを考えついた。
「待て。外にいる魔物を倒しに行くのではなく、逆に外にいる魔物をこちらにおびき寄せたらいいんじゃないか?」
わざわざ情報もない場所へ飛び込んで大きなリスクを犯す必要はない。
何しろ俺はダンジョンマスター。罠や魔物と自分の意のままに操ることができる城塞を持っているのだ。別に不利な場所へ飛び込む必要などはなく、自分に有利なところで魔物を迎え撃てばいいじゃないか。
『……なるほど、考えてみればその方が良さそうですね。ここであれば地形や罠、召喚した魔物の力を自由に使う事もできますし、楽に安全に魔物が討伐できるかもしれません。問題はどうやって魔物をここにおびき寄せるですが……』
「お前なら変身して仲間のフリをして誘導できるんじゃないか?」
『なるほど。そして、マスターは私が連れてきた獲物をダンジョンの罠で一網打尽というわけですね?』
「そういうことだ」
どこかのスライムの王と違って察しが良くて助かる。
致死性の罠を使って仕留めるもよし、落とし穴などの拘束系の罠で動きを止めて魔法でとどめを刺すもよし。ここにおびき寄せる方法であれば、いくらでも安全な作戦が思い付くな。
『了解いたしました。では、一階層にいる信者がいなくなる夜に試してみましょう。それで経験値が得られるのであれば、多くの魔物を引き込むことにします』
そうだな。今は一階層の大広間でパンツを崇めるリンスフェルト教とかいう信者がいるからな。あいつらがいなくなる夜になってからゆっくり実験するとしよう。
「わかった……ん? 冒険者か?」
俺が鷹揚に頷くと同時にダンジョンに何者かが侵入してきたのが感じられた。
水晶を操作してダンジョンの階段を降りてくる存在を確認する。
名前 ビアージュ
種族 人間
性別 男性
年齢 二十四
職業 格闘家
レベル 三十三
称号 ドM
黒髪に黄色い瞳をした男性。頬から顎の輪郭はシャープであり、顔立ちはとても整っている。目元にある泣き黒子がとても印象的で、その切れ長な瞳はどこか色香さえも漂わせる。
身長は百八十センチくらいあり、黒いスーツのようなものを着込んでいる。突出すべし格好はスーツには不釣り合いと思えるほどの大きなガントレットだろうか。
拳から肘までを包み込む金属の塊は鈍い光を放っている。
職業は格闘家と書いてあるので、この男は腕や足を使って魔物と戦うタイプなのだろう。
あらゆる身体的能力を上回る魔物を相手に、己の肉体だけで戦うと酔狂な人間である。
感心と同時に呆れのようなものを感じていた俺だが、ステータスの称号に気になるものを見つけた。
「……ドM……だと?」
思いもよらない称号を見て、俺の口から漏れ出た言葉が掠れる。
この衝撃はディルクがマグロ滑りの称号を獲得した時以来だろうか。ただのMとは違って、ドが付いているところがこいつの業の深さを感じられるな。
『ドMとは、マスターが隠しているエロ本やAVにある、いじめられることに喜びを感じる人のことですね?』
「ああ、そうだ。俺の大好きなジャンルの一つで――って、お前また盗ったのか?」
『盗っていません。この間、マスターの部屋を漁っていたらデカデカとドMとドSの文字が書かれている物をいくつか見つけたので印象に残っていただけです』
「お前……」
盗ってはいないけど、堂々と人の部屋に侵入していやがる。
こいつは何なのだ? 人の性癖を暴いて、それを暴露することがそんなに楽しいか?
……いや、楽しいな。俺も高校の時によくやっていたわ。だから、ボックルの楽しさもわかるな。
とはいえ、それをやられて受け入れられるかは別だ!
今度からはボックルが侵入できないように鍵をつけてやろうか。いや、こいつスライムにも変身できるし、隙間から余裕で入ってきそうだ。
くっそ、母親のいない異世界にやってきたというのにどうしてエロ本の隠し場所に悩まなければいけないのか。
『変態的性癖をお持ちのようですが、レベルの方はしっかりとしているようですね』
ボックルの言う通り、このビアージュとか言うドM男のレベルは三十三と高めだ。聖騎士に比べれば低いが、ボックルの言う通りにしっかりとした実力はもっているようだ。
……というかレベルまでMなんだな。
レベルを漢数字ではなく数字に直して33にしてみるとMが二つ並んでいるように見える。
そんなしょうもないことを言っても仕方がないので言いはしないが。
「まあ、聖騎士のように俺達を滅ぼそうとしているわけでもないし、いつものように弄んで追い返すか――ちょっと待て。ドMのこいつにいつもの嫌がらせが通じるのだろうか?」
『……もしかすると、逆に喜びを覚える可能性もありますね』
ボックルの言う通り、ドMのこいつに嫌がらせをしても喜んでしまう可能性がある。
ドMだから。
「まあ、ドMといって様々な種類があるから何とも判断ができんな」
言葉で罵倒されるのが好きだったり、理不尽な痛みに晒されるのが大好きだったり、放置されるのが大好きだったり。または夜のプレイでだけそういうことを嗜むのが大好きな変態かもしれない。
どこのドMなのかわからない以上、ここは様子見をするのが一番であろう。
『マスターのレベル上げをするために夜までに帰ってくれるといいですね』
ボックルのこのセリフが、俺にはフラグのように思えて仕方がなかった。
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