予期せぬ発見
6月22日にHJノベルス様より書籍第一巻が発売!
『うわあああああああああっ! 酷いっすよマスター! 底なしの外道で小心者でレベル一で童貞だとは思っていたっすけど、これはあんまりっすよー!』
スラちゃんを討伐すると、配下が倒されたことに気付いたのかスライムキングが俺の部屋に乗り込んできた。
小さな魔石と化したスラちゃんを抱きしめながら悲しみの声を上げるスライムキング。
「おいこら。誰が底なしの外道で小心者でレベル一で童貞だ。悲しみの中にシレッと人の悪口を混ぜるんじゃねえ!」
『だってだってマスターがああああああああっ!』
どういう原理かわからないが涙を流しながら叫ぶスライムキング。
大声で叫ぶと耳にキンキンと響くのでうるさい。
ソファーで寝転がっているベコ太も、これにはうるさそうに顔をしかめている。
「たった一匹のスライムが死んだくらいで大袈裟な。いくらでも召喚できるじゃねえか」
別にスライムなど希少な魔物でも何でもない。いつもバカみたいに召喚しているのだ。いなくなったらまた召喚すればいいじゃないか。
『そうっすけど、スラちゃんは一匹しかいないんすよ!』
だというのに、スライムキングはそのようなことをのたまう。
まるで自分に子供でもできたかのような言葉だな。
「はいはい、お前がスライムを大事に思う気持ちはわかったから帰れ」
『ちょっとボックル! 何か言ってやってくださいっすよー! マスターが酷いんすー!』
俺が取り合わずに帰れというと、スライムキングが中年神官の姿をしているボックルに泣きつく。
すると、ボックルは中年神官の身体をどろりと溶かして、瞬く間にスライムへと姿を変えた。
『ノフォ! 私がたまにスラちゃんとして振る舞ってあげますから機嫌を直してください!』
『あ! これは確かにスラちゃんっす! いや、でも中身はボックルっすから何も解決していないっすよ!?』
俺には判別はつかないが、どうやらボックルはスラちゃんへと変身したらしい。
俺が討伐する前にタッチして変身できるようにしておいたのだろう。いつの間にやったのやら。相変わらず抜け目のないやつだ。
『マスター! スラちゃんを返して欲しいっす!』
どうしてもスラちゃんを返して欲しいのか、スライムキングがしつこく声を上げる。
強制的に命令したり、転移で送り返してやってもいいのだがそれをしたら拗ねてしまいそうだな。
あー、もう。たかがスライム一匹でここまでうるさくなるとは。
これならゴーちゃんの配下のゴーレムを借りればよかった。自ら召喚したゴーレムを即座に解体してジェンガにしてしまうくらいだ。あいつなら面倒なことを言ってごねることもなかっただろうに。
『マスター!』
あーもう、目の前で駄々をこねるスライムキングがうるさい。
『ぶにゃっ』
それはベコ太も同じように感じていたのか、騒ぎ立てるスライムキングへと尻尾を伸ばして叩いた。
『あっ、スラちゃんの魔石が!? このデブ猫! 何をするっすか!』
ベコ太の尻尾に叩かれて、スラちゃんの魔石がコロコロと俺の足元に転がってくる。
このまま踏み潰してしまえばスライムキングの絶望が見られるとするが、それをすると本当に拗ねてしまいそうなので止めておこう。
俺はスラちゃんの魔石を拾い上げる。
鈍い紫色をした魔石。レベルや魔力が低かったからか、スラちゃんの魔石はとても小さくて純度も低い。
魔石はレベルや魔力が高いほどに大きさと透明度を増していくからな。
レベルの低いスライムだとこんなものだろう。
スラちゃんの魔石を眺めて鼻息を鳴らすと、目の前にある水晶が僅かに光るのが見えた。
気になったので注視してみると、そこにはこんな文字が。
『スライムの魔石を確認。魔石をベースにスライムを召喚しますか?』
魔石をベースにスライムを召喚? これはどういう意味なのか。
『ちょっとマスター! スラちゃんの魔石を返してくださいっす!』
俺がスラちゃんの魔石を所持していることが不満なのか、スライムキングが手を伸ばしてくる。
俺はそれに構わずに水晶を操作して、魔石をベースに召喚を選択。
すると手の平に収まっていたスラちゃんの魔石が消失して、水晶が輝き出した。
『あー! スラちゃんの魔石が消えたっす! マスター、今度は何をしたんすかー!?』
うるさく喚くスライムキングをスルーして待つと、ダンジョンコアの近くで光が集まる。
それは徐々に丸みを帯びた形となっていき、そしてスライムとなった。
『これはスライムですかね?』
『スラちゃんが死んだからって、別のスライムを渡そうってつもりっすね! 俺はそんな軽い奴じゃ――あれ? スラちゃん?』
つんとした態度で腕を組んでいたスライムキングだが、召喚されたスライムを見るなり態度を変える。
「魔石をベースに召喚してみたんだが、そいつはスラちゃんなのか?」
『は、はいっす! レベルはちょっと下がってるみたいっすけど、この体のツヤと粘り気、そしてこの仕草と純粋な心は間違いなくスラちゃんっす!』
スラちゃんをぎゅっと抱きしめながら嬉しそうに言うスライムキング。
スライムに心なんてあるのか? と、問いかけようとしたが、機嫌を直したっぽいスライムキングに水を差すことはないか。
とはいえ、本当に一度死んだスラちゃんを召喚することができたというのか。
試しに水晶でステータスを覗いてみる。
スラちゃん (スライム) レベル一
ふむ、確かにダンジョンコアである水晶もきちんとスラちゃんだと表示している。
この水晶はドッペルゲンガーであるボックルの変身でさえも見破る高性能な物。今までステータスを間違ったこともないし、召喚主であるスライムキングもスラちゃんだと断定している。
ということは例え魔物がやられたとしても、後に残った魔石さえ回収すれば同じ個体を召喚――いや、蘇らせることが可能というわけか。
『……マスター、これは例え私達が死んでも、魔石さえ無事であるならば生き返ることが可能というわけですか?』
「断定はできないけど多分そうだろうな」
スラちゃんの魔石を使って召喚したら、レベルダウンした状態で同じスラちゃんという個体が召喚された。これはもう一種の蘇りといって問題ないだろう。
『ノフォ! マスターのレベル上げの実験をしていると思わぬ発見をいたしましたね』
ボックルがこれ以上ないほど満面の笑みを浮かべて言う。
確かに魔物であるお前達からすれば、これ以上ない程の発見だろうな。
なんせ死んでも魔石さえ無事なら、俺が魔力を注いでやる限りいくらでも復活できるのだからな。まさにアンデッドもびっくりの蘇生力だ。
『何すか何すか! ひょっとして俺達死んでも魔石さえ無事なら生き返れるんすか!? 凄いじゃないっすか! それって無敵じゃないっすか!』
俺とボックルの会話を横で聞いていたのか、スライムキングが喜びの声を上げる。
しかし、それとは反対に俺とボックルの視線は冷めきったもの。
「お前バカか? 無敵な訳ないだろう?」
『えっ?』
俺が指摘してやるも、スライムキングは嬉しさのあまり頭が回らないのか、元より気付いていないのか首を傾げる。
「お前は十階層を守る階層主なんだぞ? 倒されたら当然魔石は冒険者に拾われるに決まってんだろ」
『あっ……』
俺がきっぱり言い放つとスライムキングが間抜けな声を上げる。
死んだからといって、必ず魔石を回収して蘇生できる訳ではない。
魔物を倒した冒険者は素材や魔石を持ち帰り、売り払ったりすることで生計を立てるのだ。レベルもまあまあある階層主の魔石を持ち帰らない訳がない。
『持ち帰られれば街に戻って売り払われ、武器や防具、魔法具の燃料にされる。最後の最後まで人間に使い潰される運命ですね……』
『そ、そんなぁっ!』
ここぞとばかりダメ押しの言葉を言うボックル。スライムキングが弱々しい声を吐きながら震えているのを見て笑っている。
相変わらず悪趣味な奴だ。
「まあ、魔石による蘇生はあくまでも最後の希望と思うだけで、過度に期待はしないことだな」
『あっ! でも、マスターなら何だかんだ言って、魔石を取り返すために頑張って――』
「あー、どうだろうな? 俺ってば、底なしの外道で小心者でレベル一で童貞だからスライムキングがやられたとしても魔石を取り返さないかもなー」
『うわああああああああああっ! マスター、ごめんなさいっす! 誠心誠意謝るっすから、どうか俺が倒されて魔石になったら取り戻してほしいっす!』
俺がわざとらしい声を上げながら言うと、スライムキングが俺の足に縋りついてくる。うはは、絶対的な弱みを握った瞬間の心地よさに勝る優越感はないな。
「ははははは、どうしよっかなー。別に俺としてはスライムキングがいなくなっても、また別の魔物を召喚するだけだし。この際お前よりももっと使える魔物を召喚してもいいな」
『それだけは勘弁してほしいっすー!』
レベル一であるが、これで上司としての安定的な地位は得られたも当然だな。
さあ、今週の金曜です!
アニメイト、とらのあな、メロンブックス、wondergoo様などの書店が買うと特典として書き下ろしストーリーがついてきます。
幸助とベコ太の日常、スライムキングの日常、ゴーちゃんの日常などです。
モノクロ挿し絵も一分公開しているので、活動報告をお確かめください。




