レベルアップのための実験
『ノフォフォフォフォ! ということは、マスターは邪神様から貰った加護で死にかけたということですね? これは傑作です! こんな滑稽な話は聞いたことがありませんよ!』
さっき起こった顛末を教えると、ボックルが高笑いしながらからかってくる。
こいつ、自分の主が死にかけたというのに遠慮なく笑っていやがる。こういう時に心配したり優しい言葉をかける奴ではないと知っているが、笑われると腹が立つ。
特にそのむさ苦しい中年神官の顔を近づけるのをやめろ。
「うるせえな! あっちに行けよ!」
『ノフォフォ! 危ない危ない』
俺がグーパンチを繰り出すもボックルは悠々とそれを回避して、離れていく。
『とはいえ、これはレベルを上げるのをさぼったマスターが悪いのですよ? レベルさえ上げれば、苦しむことなく強化できたでしょうに』
「まあ、そうだが……」
『レベルアップをすれば肉体は強くなり、ダンジョン経営の要である魔力も上がる。いいこと尽くしですよ? マスターがその利点に気づいていないはずはないですよね?』
言い淀む俺にボックルが珍しく真面目に問いかけてくる。
それはそうだ。魔物を倒して経験値を得ればレベルが上がる。そうなれば俺の肉体も今よりも強化され、身体に内包される魔力量も増えるだろう。
それは魔力を必要とするダンジョンマスターとして非常に嬉しいこと。
罠を作り、魔物を召喚し、維持をする。さらには階層の追加や魔物のレベルアップ、大掛かりな罠、より凶悪な魔物の召喚。
ダンジョンを運営するのには何をするにも魔力が必要だ。あればあるほど嬉しい。
「ああ、レベルを上げることの利点には勿論気付いている」
『では、どうしてレベルを上げないのです?』
レベルアップをして魔力を増やそうとしない、俺が不思議でしょうがないのだろう。
ボックルが首を傾げる。
俺だって客観的な位置から見れば、そんなことを思う。
だけど、ダンジョンマスターとして君臨し、魔物の恐ろしさを知っている俺は思う。
「だって、魔物怖いじゃん」
『……それだけですか?』
「それだけって何だよ! こっちはレベル一で戦闘経験もないんだぞ!? 魔物と戦って死んだらどう責任とってくれるんだ!」
こっちは強靭な身体を持っている魔物でもないし、元は平和な世界で暮らしていたただの男子高校生。そんな奴が恐ろしい魔物と戦えるわけないだろう。
『マスターには魔法があるじゃないですか』
「レベル一の魔法なんか信用できるか!」
例え黒くて強そうな炎や雷撃が出せようが、所詮はレベル一の魔法。そんなものがあるからといって俺は過信したりはしない。
俺がきっぱりと弱気な言葉を吐き出すと、ボックルが呆れた視線を向けてくる。
どうせ魔王の癖に情けないとか思っているのだろう。情けなくても結構。それでも俺は安全な道を突き進みたいのだ。
「しかし、レベルというシステムもケチだぜ。自分で生み出した魔物を倒しても経験値が入らないんだからな」
ダンジョンマスターの能力で生み出した魔物であるなら俺に従順だ。だから、俺に黙って殺されろと命令すれば嫌がりはするが殺されるしかない。
そして、俺は無抵抗な魔物を一方的に倒して安全に経験値を獲得できる。そんな方法を過去に試したのだが、経験値が入ることはまったくなかった。
『自分で生み出した魔物を倒すとは中々に外道なことをしますね』
「外道だろうが知ったことじゃねえよ。当時はそれが最もリスクがなくて、効率のいいレベルアップ方法だと思ったんだ。まあ、そんな都合よくはいかなかったけど」
『それはそうでしょう。マスターが生み出した魔物はマスターの魔力によって構成されたものですから』
「本人はダメで、赤の他人である冒険者はレベルアップできるのかよ」
『それもダンジョンに潜る冒険者の利点ですからね』
俺の魔力を食い物にして勝手にレベルアップしている状況は少し気にくわないが仕方ない。これも冒険者をダンジョンにおびき寄せる売りの一つだと思えばいい。
『それにしても安心しました。マスターにもきちんとレベルアップする意思がおありで』
ホッと安心するように息を吐くボックル。
お? こいつがこんな風に心から俺を思いやるだなんて珍しいな。
何だかんだと言いながらレベルの低い俺を心配していたのか?
『マスターが死ぬと、私達まで死んでしまう可能性がありますから。だから、危険の少ない方法でレベルアップしましょう』
あー、はいはい。どうせお前のことだからそんなことだろうと思ったよ。一瞬でもボックルの思いやりを嬉しいと思った俺がバカだった。
「……そうだな。危険が少なくて楽なレベルアップの方法を考えよう」
まずダンジョン内の魔物を倒して楽に経験値を得る方法は無しだな。それでは経験値が得られず無駄に魔力を消費するだけだ。
「ん? ちょっと待てよ? 俺が生み出した魔物ではなく、生み出した魔物が召喚した魔物を倒すのはどうだ?」
『……相変わらず発想が酷いですね。配下のさらに配下まで取り上げる気ですか。とはいえ、それもマスターの魔力をベースにしているので無理ではないかと……』
それもそうか。召喚したスライムキングには配下としてたくさんのスライムがいるが、スライムキング自体が俺の魔力をベースとして召喚されたもの。そこから召喚されたスライムも、俺の魔力を利用して召喚されたものか。
「とはいえ、試して損はないな」
これが成功すれば俺は安全にレベルアップすることができる。
俺は水晶を操作してスライムキングのいる部屋を覗く。
『よーし、次! 走るっす!』
スライムキングが号令を上げるとスライム達が一斉に跳ねる。
スライム達は、その柔らかい体を使ってピョンピョンと跳ねて部屋の端まで移動。
それが終わると同じようにスライムキングが号令をして、また次のスライム達が跳ねる。
どうやら自分の召喚したスライムに訓練を施しているようだ。
自分が上位者になるのが楽しいのか、ゴーちゃんとの戦争ごっこに負けないためか。いずれの理由にしろ、ダンジョン内の魔物が強くなるのはいいことだな。
俺はスライムキングに感心しながらも、適当なスライムを選択して転移させる。
すると、スライムキングの部屋にいたスライムが消えて、ダンジョンコアの傍にスライムが現れた。
スラちゃん (スライム) レベル十
スライムは俺の部屋が物珍しいのかキョロキョロと体を動かしている。
『ああああああっ!? スラちゃんが消えたっす!? マスターの仕業っすね!』
バレないように端っこにいる個体を選んだのだが、召喚主であるスライムキングにはバレバレのようだ。
『ちょっとマスター! うちのスラちゃんを勝手にとったっすね!? どうするつもりっすか!』
俺が感心していると早速とばかりにスライムキングから抗議の念話が。
相変わらず声が高いので脳に響いてくるとキンキンしてうるさい。
「ちょっと借りるだけだ。用が済んだらスライムを戻す」
『ちゃんと返してくださいっすよ?』
「ああ、わかってる」
俺がそう説明してやるとスライムキングは納得したのか念話を切る。
「よし、これでバカは静まったな」
『そんな嘘をついていいのですか? このスライムを使って討伐実験をするというのに……』
「俺は嘘なんて言ってないぞ? 用が済んだらスライムを戻してやると言っただけだ。このスラちゃんを討伐したら、約束通りに適当に召喚したスライムを戻す」
『スライムキングも気の毒に……』
勝手にスラちゃんが返ってくると勘違いしたあいつが悪いのだ。勉強料と思えばスライムの一匹くらい安いものだろう。
「それでは実験をしてみるか。『ライトニングペイン』ッ!」
俺が腕を突き出してそう唱えると、バチバチと黒の雷が迸りボーっとするスライムに直撃した。




