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冒険者カップル

お久しぶりです。修正を加えて投稿になります。

 

 俺のダンジョンで不法に寝泊りをした冒険者達は一人残らず、スライムキングに撃退される事になった。


 三十五レベルというそんなに高くもないレベルのはずだが、スライム召喚と水浸し作戦が結構効いたのか、どのペアも「スライムに負けるなんて!」という屈辱に塗れた表情をしながら逃げ帰っていった。特にエルフの荒れようが凄く笑えました。


 スライムキングも自分で嫌な事を見つけるのが楽しくなってきたのか、アシッドスライムに酸を吐き出させて攻めていったり、ポイズンスライムを冒険者に投げつけたりと中々楽しそうにやっている。スライムってやっぱり万能だな。もっとダンジョンにスライムを増やそうかと考えている程だ。


 特に相手に触れれば状態異常を引き起こすスライムが素晴らしいな。


 これはダンジョンの罠にでも活用ができそうだ。例えば天井にスライムが張り付いてきて、上から落ちてくるだけでも冒険者は上へと意識を持っていかれる。そこに魔物との戦闘、罠と冒険者達はどんどんと神経をすり減らしていく事になるだろう。やばい、スライム万能! 罠の幅が広がるぜ。


 宝箱を設置するついでにスライムも各階層に配置しておこうか。


 今日もじっくりとダンジョンを作っていくか。




 ◆



 大変な事が起こった。ダンジョンに憎き奴等が現れたのだ。口にするのもいまいましく思える者達。


 ――そう、カップルだ。


 奴等は一階層へと至る階段という道のりの中で手を繋ぎ始めたのだ。


「お前らダンジョン舐めてんの? ここは男女がいちゃこらしにくる場所じゃねえんだぞ? ああああああああっ! そういうそばから身を寄せ合ったりしちゃって! もう許さん! ダンジョンンという俺の聖域を荒らす輩にはお仕置きだ!」


 俺はダンジョンに侵入した憎き輩のステータスを確認する。




 名前 ジョン

 種族 人間

 性別 男性

 年齢 二十二

 職業 戦士

 レベル 二十五

 称号 なし



 名前 クリス

 種族 人間

 性別 女性

 年齢 十九

 職業 盗賊

 レベル 十八

 称号 なし



 ふむ、大した奴等ではないな。どうせ戦士の男がカッコいいところでも見せたくて、盗賊娘を連れてきたんじゃないだろうか。女も女だ。こんないやらしい笑みをする男のどこがいいのかさっぱりわからんな。


 さて、こいつらをどう料理してやろうか。


 とりあえず、コイツらを調子に乗らせるために四階層までは罠や魔物を緩くして進ませるか。


「いやー、なんか噂で聞いていたよりも難易度は低そうな感じだね。魔物もたいしたことないし、罠も少ないし」


「あたしのスキルのお陰よ。なんせあたしは盗賊なんだから!」


「さっすが俺のクリス! 頼りになるなぁ」


「えへへへへ」


 なあにが、あたしのスキルのお陰だよ。お前が見抜いた罠なんて一つしかないだろうが。


 気持ちの悪い猫なで声を出しやがって。今すぐそこに高位の魔物を配置してやろうか。早くこいつらの顔を絶望という名の海に叩き落してやりたい。


 このままだと見ているこっちがイラつくので嫌がらせをしてやることにする。


 コンニャク転送。


「ひゃあああああんっ! なになに!? スライム!? 何かヌルヌルしているのが、背中に当たったよ!?」


「落ち着いてクリス。スライムなんてどこにもいないよ?」


「でも、何か背中に当たって……」


「ひょっとしてこの地面に落ちているコレかな?」


「なにこれ? 見た事がないよ。魔物かな?」


「わ、わからない。見た事のないやつだ。魔物かもしれん」


 この男生真面目な顔をして、コンニャク相手にびびっているんですけど。食材相手に剣なんか構えちゃってダサい。


 二人はコンニャクから距離を取り、警戒した様子で見つめている。


 女がちゃっかりと男の背中に隠れているところが腹立たしいな。こら裾とか掴むな。


 男は自分の剣を片手にコンニャクを突いている。


「……っ! コイツ動くぞ!」


 違います。あなたが剣で突くからプルプルと震えただけです。ただの弾力です。


「もう斬っちゃえば?」


「いや、とびかかってくるかもしれない。こういうカウンター型タイプは強烈な攻撃を仕掛けてくる時があるから、襲って来ないのならば放っておこう」


「さっすがジョン! 物知りね!」


「いや、クリスの安全を第一に考えたまでさ」


「嬉しい!」


 何故かコンニャクから逃げただけなのに、いい雰囲気を作り出す二人。いや、ジョンお前は我が身が大事ゆえに逃げたのだろう? 大体、女の心配をするならダンジョンなんかに連れて来るんじゃねえよ!



 ――そして四階層に辿りついた二人。


 いつもならば二十レベルもあれば問題なく進めるであろう階層だが、今回は憎きカップルが来たが故に結構なハードモードへと変わっている。


 この二人をはめるべく、俺が丹精込めて調整した階層だ。


 おおいに楽しんでもらえる事間違いなしの階層だと思う。


 トラウマの一つや二つを、是非抱えて帰ってもらおう。


 そうとは知らずに、呑気な様子で歩く二人。ダンジョンを歩くには近すぎる距離感で相変わらずのバカップルぶり。そんな近くにいて歩きにくくはないのだろうか?


 いや、別に羨ましいとかじゃないし。


「……何かこの階層、雰囲気が違うような」


 男がこの階層の違和感に気付いたのか、訝しんだ表情をする。


 ちょっと、気合を入れ過ぎたであろうか。撤退とかされたら、俺の苦労が水の泡となるのでちゃんと進んでほしい。


「えー? なーに―? ちょっと暗いだけでしょー? まだ四階層でしょー?」


「そうだね。気のせいだったよ。先に進もう」


 ナイスだ女。男に媚びを売るしか能のない奴かと思ったが使えるじゃないか。


 気を取り直して、薄暗い石造りの通路の奥へと進んでいく二人。


 まずは弱めのゴブリンを投入して油断を誘う事にする。


「ジョン! 敵よ! 私の気配察知に反応した。数は一よ」


「わかった」


 盗賊である女が早速投入したゴブリンに気付いた模様。


 斥候役をこなす盗賊なら、これくらいのゴブリンに気付くのは当たり前だしな。


 戦士である男が両手剣を構えて、盗賊の女が短剣を構える。


「ギイ!」


 通路の奥から現れたゴブリン。ゴブリンも冒険者確認したのか、だらりと下げていた棍棒を持ち上げる。


「ゴブリンだね」


「一匹なら楽勝よ。私の経験値になってもらうわ!」


 レベルも練度も低い生まれたてのゴブリンは、二人がかりで攻められあっけなく倒れた。


 レベルも低く、訓練もしていないゴブリン単体ならこの程度である。


 奴等は集団戦でその真価を発揮するのだ。こうなるのが普通。


 二匹ペアにしてこうして散発的に襲わせること四回。気を張っていた男もようやく肩の力を抜いたらしい。


「四階層も問題なさそうだね」


「私とジョンにかかれば当たり前よ」


 女の猫撫で声が大変腹立つ。グーで殴ってからマウントを取って、思いっきり引っぱたいてやりたい。


 密着されて少し嬉しそうな男が羨ま……腹立つな。


 レベル七十とかの魔物投入してやろうか。いや、今はダンジョンの階層を増やしているせいかそんな余裕はないんだけれど。


 そろそろ、そういう魔物がひしめく階層を造ったほうがいいのかもしれない。もし、高レベルの冒険者や勇者なんかが来たら、すぐとは行かないが突破されてしまうかもしれない。


 うん、そう考えたら凄く不安になって来た。これが終わったらすぐにでも取りかかろう。




 気付くと男達は少し広めの区画へと辿り着いていた。


 その部屋の中心にはあからさまに宝箱を置いており、道が十字路に別れている。


「宝箱よ!」


「もうかい? 噂通りなら金貨くらい入っているかもしれないね」


 部屋に魔物や罠がないかを確認しながら、二人はゆっくりと宝箱へと近付いていく。


「魔物はいないみたいだね」


「宝箱を開けるのは盗賊の仕事だから、任せて!」


「わかった。魔物が来ないか見張っとくよ」


 男が周囲を警戒するなか、盗賊の女が宝箱を触らずにじっくりと眺める。


 一応、いきなり開かないくらいの常識はあるようだ。


 と言っても、その宝箱はミミックだったり爆発したりする仕掛けなんてない。


 そんな一瞬で死ぬような罠は面白くないしな。


「ミミックじゃないようね」


「このダンジョンの罠は意地汚いって聞いているから、気をつけなよ?」


 どこが意地汚いだコラ! ゴーちゃんを転送するぞコラ!


 二十階層にいるゴーちゃんを確認しようとしたら――いなかった。


 また十階層で遊んでいるのか? と水晶の画面をタッチして別画面に十階層を映し出す。


『いけー! スライム!』


『進め! 俺の軍団!』


 そこではスライム召喚をしたスライムキング、ゴーレム召喚をしたゴーちゃんの軍勢がぶつかり合っていた。


 まーた、こいつら遊んでやがる。まあ、わりと召喚した魔物の操作の練習にもなるから、割と有意義だな。


 数の方はスライムの方が多いのだが、ゴーレムの方が一体一体の力は強い。


 そのせいか、色とりどりのスライムがちぎっては投げ、ちぎっては投げで蹂躙されている。


『うわああ! スライム達があ!』


『まあ、所詮はスライムだしな。俺の軍団には敵うまい』


 それにしても、ゴーレム相手にポイズンスライムやパラライズスライムをぶつける意味がわからない。ゴーレムに毒や麻痺なんて効かないだろうに。


「おい、どうせならアシッドスライムを使えよ」


『『ひゅおおおお!?』』


 毎回思うけど何だよその声は。


 突然の俺の声に驚いたスライムキングとゴーちゃんが天井を見上げ、それぞれの軍団もそれに倣う。


『マスター! いつから見てたんすか!? のぞき見なんて趣味が悪いっすよ!』


「違うわ! ゴーちゃんの様子を見ようとしたらいなかったから確認しにきただけだ」


『ゴーちゃんではありません。エレメンタル――』


「それよりスライムキング。ゴーレム相手にポイズンスライムやパラライズスライムなんて使ってどうする?」


 ゴーちゃんの抗議は却下して、スライムキングへと問いかける。


『え? だって冒険者にはコイツらが効いたっすから』


 ポンポンとポイズンスライムとパラライズスライムを撫でるスライムキング。ちょっと、それ俺もやりたい。後で自室に普通のスライムでも召喚するか。


 それにしても、こいつはスライムなせいか、どうも頭の回りが足りない気がする。


「あほか。ゴーレムに毒も麻痺も効くと思うか? 石や鉱石だぞ? 効くわけがないだろ」


『ええ!?』


『今更気付いたか。阿呆め』


『こ、コイツ、ムカつくッス』


 ゴーちゃんが『やーいやーい』と挑発をして、スライムキングが拳を震わせる。俺がいなかったら喧嘩しているだろうな。


「だからアシッドスライムを使え」


『げっ!』


 弱点を把握していたのか、ゴーちゃんの動きが止まる。


『アシッドスライムっすか?』


「そうだ。アシッドスライムだけで足に取りついてやれ。後は間接部分とかにも潜り込ませるんだ。硬い奴ならじわじわと溶かしてやればいい。後は動けなくなった所でなぶってやれ」


『うわあ、鬼畜のマスターっすね! 勝てるイメージしか湧いてこないっす!』


 スライムキングは早速とばかりに大量のアシッドスライムを召喚しはじめる。室内は黄色い蛍光色のようなスライムで埋め尽くされた。


『いくっす!』


『ちょちょ、やべえ!』


 ゴーレムはアシッドスライムを振り払おうとするが、数が多く、瞬く間にあちこちに取りつかれる。


 最初はちぎったり、ぶん投げていたがアシッドの吐き出す酸により、指が溶け、片足も溶けていき動けなくなる。


 そうなると一気にアシッドスライムに埋もれて、溶解していった。


『あああああっ!?』


 瞬く間に蹂躙され、石塊へと成り果てるゴーレムを見てゴーちゃんが頭を抱えた。


『これ凄いっすね! 無敵じゃないっすか!』


「いや、広範囲の魔法で焼き尽くされたら終わりだ」


『なあっ!?』


 だってスライムって物理には強いけど、魔法攻撃には滅茶苦茶弱いしな。


「まあ、相手によって使う戦法を変えろって事だな。戦士の冒険者の武器を溶かしに行くのも一つの手だ」


『なるほど! わかりやすいっすね! 人間の体内にアシッドスライムを侵入させるとかも面白いっすね!』


 うわ、純粋な奴って怖ええ。こいつなら水路にポイズンスライムをぶち込むとかやりそうだな。


 楽しそうにするスライムキングの奥では、ゴーちゃんがグレードの高いゴーレムを召喚していた。恐らくアシッドスライムの酸が効きづらい奴だろう。


 イタチごっこになるだろうなーと思い、水晶に映る十階層の映像を遮断する。


 そして冒険者がいる四階層では、盗賊の女がタイミングよく、宝箱を解錠したところであった。





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