第四回邪神会議
活動報告にてキャラデザとカラーイラストを公開しております。よろしければ、確認どうぞ!
『『『きたきたきたー!』』』
禍々しい力で満ち溢れる邪神界で、邪神達の雄叫びが上がった。
『また負のエネルギーが来たぞ! もう三回目だ!』
『今や負のエネルギーの供給源はゼルド、魔王エルザガンと増えたものの、幸助のダンジョンが一番多くて早いな』
そう、普通であれば負のエネルギーというのは時間をかけて集めるもの。ましてや従来のやり方では殺人による負のエネルギー集めや信仰が主であったために、それほど多く集まらなかったのである。
信仰心による力は微々たるもので、当然数が揃わないと一定の供給にならない。かといって殺人といった手段を使うと戦争などを起こさねば大規模に集めることはできず、かといって、戦争を継続的に起こし続けられるほど生き物は強くない。
『にしても、幸助の嫌がらせによるエネルギー集めがここまで上手くいくとは』
『幸助から送られる負のエネルギーには様々な感情が入り混じっていていいよな。今までは怒りや絶望、憎悪とかばっかりだったし』
『そういう動物的な感情も好きだが、こういう人間らしい醜い感情も好きだな』
肉が大好きであっても、毎日同じものばかり食べていると飽きてしまうもの。
幸助から送られる負のエネルギーには恥辱、怒り、後悔、絶望、嫉妬、不安、執着、苛立ち、憐憫、自己嫌悪、色欲、恐怖などと似たようでも微妙に違った数々の負の感情が混じっているのである。
それらは邪神達にとって、すべての大好物が万遍なく詰め込まれた夢の料理のように思えるのだ。
『殺しや破壊といった災いを振りまくのよりも、こういう方向がいいのか?』
『いや、だからといって全部をそちらに寄せるのは良くないだろう。それでは世界が面白くならないし、我々も面白くない』
『『『確かに!』』』
リーダー格の言葉に、他の邪神は納得するように声を上げた。
幸助のように悪戯だけで、人間やその背後にいる女神アレクシアたちを追い詰めることはできない。
彼等は世界の混沌を目指しているのであって、そのためにやり方を変えては本末転倒だ。
『というか、誰もがああいう嫌がらせをできるとは思えねえけどな』
『特に魔族は最初から身体能力も含めて高いからな』
邪神が言うように魔族という種族は生まれながらにして強靭な肉体や魔法の才能を所有しているものが多い。強い者に従う傾向が強いので、幸助のようなやり方を進めたところで上手くいくかは難しいところだ。
『さて、お喋りはここら辺にして本題に入ろう』
リーダー格の邪神がパンと手を叩くと、他の邪神達はピタリと会話を止める。
『集まってきたエネルギーをどう使うかだ』
リーダー格の邪神がそう言うと、一柱の邪神が手を挙げる。
『邪神官のゼルドにつぎ込もうぜ! あいつ地道に信者を増やしているみたいだしよ!』
『いや、ゼルドに力を与えるのは早い。女神リンスフェルトの加護をすぐに与えられると思ったら困る。彼にはまだ成果が足りない』
『だったら、その成果を上げる後押しをしてやればどうだ?』
『……後押しとは?』
否定されても即座に次の改善案を出す邪神に、リーダー格も興味を示す。
『今、ゼルドはニッチな変態ばかりを信者にしているが、それだけじゃクソビッチの力を崩すことはできねえ。だからこそ変態以外にも信仰心を植え付けることが重要だ!』
『目的はわかりましたが、その方法は?』
リーダー格が問いかけると、熱弁を放っていた邪神がニヤリと笑い笑みを浮かべる。
『いつだって神の信仰が認められたのは人々を闇から救い上げる時。ゼルドが向かう村や町の近くにいる魔物に負のエネルギーを与えて襲わせる! それをゼルドがリンスフェルトより賜りし奇跡で人々を救うのだ! つまり――』
『『『マッチポンプか!』』』
『先に言うなよ!』
自身の最も言いたかった台詞を皆に取られて嘆き悲しむ邪神。
しかし、周りの邪神達は、その嘆きすらも大好物というようにニヤニヤと笑っている。
『マッチポンプでリンスフェルト教の信者を増やす……採用だな。負のエネルギーの一部はこれでいこうと思う』
『『『異議なし』』』
反対意見がないのでこれで一部の負のエネルギーの使い方が決まった。
『いっひっひ、負のエネルギーがこんなにもあるだなんて嬉しいことだねえ』
『ああ、今まで考えていた悪だくみができるとなると楽しくて仕方がねえな』
『まったくだ』
邪神たちは、幸助を召喚するまでは負のエネルギーをロクに所持していなかった。必死に作戦を練っては機を伺うことを何十年、何百年と繰り返してきた。
それが今や負のエネルギーが集まり、思うが儘にできて信仰心も増えているのだ。
邪神達によって今は堪らない楽しさだ。
考えていることはかなりあくどいが、邪神達の表情には一種の清々しさ感じられる。
もっとも一般人から見れば、恐ろしく醜悪な顔で笑い合っているようにしか見えないだろうが。
『では、次の使い道を決めようか。とはいえ、次の使い道は私が提案したい』
『いいぜー』
『次は力をどう使うんだ?』
『魔王エルザガンの配下に信仰者も増えてきたので、ここらで力を与えようと思う』
『まあ、あいつの方がゼルドよりも信者を増やしているし、いいんじゃねえか?』
魔王エルザガンは邪神に力を貰い勇者を撃退した。その勇者四人に囲まれるという窮地から逆転したエルザガンは、魔族の間で勇者のように崇められている。
そこでエルザガンはカリスマ性を生かし、邪神存在説を説いて回り信者を増やしているのだ。お陰で邪神達には魔族からの信仰心が日々集まっているのである。
『きちんと成果を出している奴には褒美を与えなければいけない。それを怠ればクソビッチのような哀れな道をたどるからな』
信仰といっても、それは信仰する側に何かしらのメリットがあればこそ続くもの。
女神アレクシアは多くの信者を抱えてはいるものの、本人の管理の怠惰さによって加護はほとんど与えられていないし、救いも与えられていない。
『ああはなりたくねえぜ』
『へへへ、今回は俺達とゼルドがそこを突いてやるよ』
そう、邪神達はマッチポンプの件で、そこを突いて切り崩すつもりだ。
縋っても助けてくれない神などいないものと同じ。
人々の心を叩いて絶望させた隙に、自由の女神リンスフェルトが取って代わるという作戦。
『ということで、魔王エルザガンと見込みがあり信仰心が深い魔族に力を与えることにしようと思う』
『『『異議なし』』』
リーダー格のもっともな主張をされたお陰か、すんなりと他の邪神も頷いた。
『残りの負のエネルギーはどうする?』
『うーむ、残りの量を計算するとあまり気前よく与えられるものではないな』
『だったら、幸助でも強化しとくか? 前回、幸助には何も与えてねえし』
そう、前回はゼルドを邪神官にしたり、邪神器の創造、定期的なお告げという風に還元をしたが、直接的に幸助に還元はしていない。
『そうだな。クソビッチの加護をもった聖騎士がやってきたことから、クソビッチたちも幸助のダンジョンに目をつけているのだろう』
『あいつは使えるし、大事な負のエネルギーの供給源だ。力を与えて強化してやるか』
などと建前を述べているが、邪神達の心の九割は余ったらとりあえず幸助につぎ込むみたいな感じだ。
『では、残りは幸助の加護を強化することにしよう』
『『『異議なし』』』
『では、すぐに終わりそうな幸助の加護から手をつけてしまおう』
そう言ってリーダー格の邪神が、地上世界にいる幸助へと加護を送る。
それをボーっと見ていた一柱の邪神がハッと我に返る。
『ん? ちょっと待て。幸助って、まだレベル一じゃなかったか?』
『馬鹿を言うな。人間がベースとはいえ、ダンジョンマスターに君臨する魔王だぞ? 自衛のために三十くらいには上げているだろう?』
『さすがにレベル一はねえだ――レベル一だ!?』
へらへらと笑いながら念のために地上世界にいる幸助を覗く邪神。
邪神の全てを見通す眼には、幸助のレベル一というステータスがはっきりと見えていた。
『えっ?』
これには力を与えていたリーダー格も驚き、間の抜けた声を上げてします。
こればっかりは彼にも予想外で、当然幸助のレベルは三十くらいはあると思っていたのだ。
『これヤバくね?』
『レベル一で加護の強化に堪えられるか?』
幸助には既に邪神の加護(中)が備わっている。この時、幸助はレベルの低さ故に邪神の加護で死にかけた。しかし、幸助は邪神の加護が痛いものと認識をしているので、特に深く事態を考えていない。
(小)から(中)で死にかけたのに、その先にある(大)を受ければどうなってしまうか……。
『このままじゃ、幸助死ぬんじゃね? とりあえず力を送るのやめたら?』
そう言われて、リーダー格の邪神が慌てて送っていた加護の力を中断する。
しかし、中断するまでにいくばくかの量が送られてしまった。
『幸助……どうしてお前はまだレベル一なのだ』
やってしまったとんばかりに頭を抱え込むリーダー格。
幸助が微量な邪神の加護の強化に堪えられるかどうかは邪神にもわからなかった。
書籍第1巻は6月22日発売です!




