負のエネルギー奉納 三回目
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ボックルとデュランの心のない言葉に深く傷ついた俺。
だとしても、今の俺にはやらなければいけないことがある。
傷心中の俺は部屋から閉じこもることをやめて玉座に座り、健気にも己の役目を全うするべく水晶を操作する。
すると、デュランやボックルが気絶したエルフたちで遊んでいるのが見えた。
『デュランさん、今回もいつものように悪戯ですか?』
『おお! 悪戯をするとこいつらの次の反応が面白くなるからな! とか言いつつ俺が楽しいからやってるんだけどな! ゲハハハ!』
『結構結構。良いではないですか。世の中自分さえ楽しければ他のことなど些細なものですから』
『違えねえ!』
ボックルとデュランの会話には俺も酷く共感する。
人間という生き物は自分さえ幸せであるならば他のことなど大して気にしないからな。
にしても自己中な台詞もここまで堂々と言い放つと清々しく思えるから不思議だ。
人間のように本質を隠したりせず、開けっぴろげに言うからこそそう思えるのだろう。
『さーて、今日はどうすっかな――おおおおおおおっ!?』
どこから出しているのか不明な鼻歌を出していたデュランだが、倒れているディルクとハンスに近付くなり驚きの声を上げた。
『急に大声を上げてどうしたのです?』
『お、おい! いつの間にこいつらの股間はこんなに立派になったんだ!? この間までボーンククリとダガーくらいのサイズだったはずだぞ!?』
信じられないとばかりに腕を震わせながらハンスの股間を指さすデュラン。
以前股間ソムリエのデュランが審査をした時、彼はダガーと評価された。
しかし、それが今は打って変わり見事なマグナム――いや、剣で例えるのならばグラディウスのようになっていた。
『あー、それなら股間攻撃の対策としてタオルを詰めていただけですよ。実際のサイズとしては恐らく変わっていません』
『お? そうなのか?』
ボックルの口から真実を聞くや否や、ハンスとディルクのベルトを外し、即座にズボンを下ろすデュラン。
そこにはボックルの言う通り、大量のタオルが敷き詰められていた。
『んだよこれ! 本当にタオルばっかじゃねえか! 驚かすなよな!』
「うっ!」
タオルなどという道具で騙されたことが許せなかったのか、デュランはタオルをしならせてハンスのダガーを思いっきり叩いた。
これには気絶していたハンスも思わずうめき声を上げる。顔はどこか苦しそうであるが、起きる様子はなかった。
うわー、今の絶対痛いよな。タオルが鞭のようにしなってビシッて音がしていたし。
でも、布を使って人を叩くのは楽しいから俺も少しやってみたくある。中学生のことは体操服を使ってよくやったものだ。
『けっ、こっちもタオルで包みやがって。バナナかっての』
「おっ!」
同じように嘘を吐く輩であるディルクにも鉄槌を下すデュラン。徐々にタオルの扱いに慣れてきたのか、その一撃は先程のものよりもしなっており鋭い音がした。
これにはさすがにボーンククリもうめき声を上げる。心なしか口の端からは白い泡のようなものが漏れている気がした。
ビービー弾、ゴム弾と続いて災難だな。こいつらが俺の部屋にくるまで果たして股間がもつかどうかが一番の心配だな。
『まったく、詰め物で嘘をつくような奴等はこうだ』
いつもの如し、油性のマジックペンを下腹部へと躍らせるデュラン。
キュッキュとペン独特の嫌な擦れる音が響くと、ハンスの下腹部にはこう書かれた。
→見栄っ張り
おお、怒りゆえに書き殴ったのだとは思うが、道中エルフや聖騎士にいじられてしまったハンスにこの言葉は堪えるだろうな。
ハンスが終わると次はディルク。
デュランは同じようにディルクの下腹部へとペンを躍らせる。
→ミニバナナ
『ふん、二人とも外を立派にしてみせても肝心の中身がお粗末だぜ』
まあ、いくら外を強化しても本体が変わることはないしな。
いくらタオルを詰めて大きく見せてもボーンククリはボーンククリ。ダガーはダガーなのである。
『こちらのエルフはどうしますか?』
エルフの姿をしたボックルが白目を剥いているエルフを指さす。
『ひっでえ顔してるな。にしても、こいつの身体は自己主張がなさすぎるよな。性格はあんなに自己主張が激しいのに』
『ここは私達が手伝って自己主張させてあげますか?』
『おん? さすがにまな板を膨らますのは――おお、ここでこそタオルか!』
『いえ、それでは詰めが甘いです。どうせなら起きたエルフが巨乳になったと勘違いするような仕掛けにしてあげましょう』
ボックルの意見に感心した俺は、いくつか使えるべきものが浮かんだのだ。道具倉庫で魔力と引き換えに風船と手押し式の空気入れを召喚。
ガチもののパッドなどでもよかったのだが、それはエルフにとって千金の価値があるように思えたのでやめておいた。
「でも、ここにおびき出すための宝として用意するのもいいな」
エルフには日頃お世話になっているし、ここはパッドをお宝として排出すべきか。
それを胸に仕込むものだと理解した瞬間のエルフの反応も気になる。確かシンのパーティーの魔法使いも貧乳だったからあいつも喜ぶか……。
『マスター、エルフの胸を大きくするために道具ってありますか?』
俺がそんなことを考えていると、ボックルから念話が入る。
「あるぞ。今すぐ送ってやる」
『ノフォフォ! さすがはマスター、迅速な対応ありがとうございます』
手元にある風船と手押し式空気入れを転送。
すると、ボックル達がいる七階層の通路にそれらが現れた。
『おお! 風船ですね。しかもちゃんと肌色をしていますね』
『この黒いのは何だ?』
バラエティ番組を観ているせいか風船は知っているが空気入れは知らないらしい。
「そこにある風船に空気を入れるんだ。その黒っぽいやつのレバーを引いて、押せば空気が出る」
俺が教えてやるとデュランとボックルは興味深そうに風船と空気入れを手に取る。まるで原始人に高度な文明機械を与えているような気になるな。
エルフの姿をしたボックルが手押しポンプのレバーを引いたり、押したりする。
すると、シュッシュッと空気が漏れ出した。
『なるほど、これで風船を膨らますのですね』
「そういうことだ」
相変わらずボックルは理解が早くて助かる。
『これで人間の尻に空気を入れたらどうなるんだ?』
「とんでもないことになるからやめとけ。それはいつもの悪戯じゃ済まずに、怪我をしたり病気になったりするだけだから」
純粋な魔物だけあってとんでもないことを考えるやつだ。まるでカエルのお尻に爆竹を突っ込むような発想だ。
人間はそこらの生き物よりも面白いのでもう少し大事にしてあげろ。
使い方がわかれば後は簡単。デュランとボックルは協力して風船に空気を吹き込んでいく。
シューシューと空気が風船に注入されてエルフの希望が膨らんでいく。
『このくらいでいいでしょう』
しかし、ボックルは風船がお碗ぐらいのサイズになると膨らますのはやめた。
『いやいや、まだまだ膨らむし、もっと膨らましてやれよ』
『女性というのはリアルな思考を持つ生き物。現実的に考えてちょっと育ったかなと納得して、希望をみるくらいがちょうどいんです。あまりにも大きな夢は返って、猜疑心を抱かせるでしょうから』
ボックルの意見に賛成だな。まな板と言われ嘲笑され続けたエルフは胸に対してはデリケートで繊細だ。だからこそ、一時の幸せな夢を見させてあげるためにリアルな感じの膨らみにするべきだ。
『なるほど、じゃあ、こんくらいにしとくか』
そういってエルフの胸倉に構うことなく風船を詰めていくデュラン。
元が何も入っておらずスペースが余っているだけに簡単に入るな。
そして、詰め終わったエルフの胸を見ると確かに女性らしい膨らみがあった。
大きさで言うとちょうど手に平にすっぽりと収まるくらいか。
普段は平らになっているのが当たり前であったので俺達からすれば違和感しかないが、これなら本人も現実として受け入れて喜んでしまいそうだ。
『ハハハハ! エルフに胸があるってだけで笑えるな!』
ペシペシと風船を詰められた胸を叩くデュラン。
『ノフォフォ! あまり強く叩いてはダメですよデュラン? エルフには希望を見てもらったところで、私がこっそりと針を飛ばして割るのですから!』
『胸も希望も割っちまうのか!』
なんて会話をしながら高らかに笑う二体。
コンプレックスというのは人の心が抱える弱点ということ。
その弱点を探り、傷口をいじくるのは楽しくてしょうがないな。
『さて、最後はこの聖騎士ですね』
『おお、そうだな』
そうだ。聖騎士にはこのダンジョンのことを口外しないようにきちんと釘を刺しておかないといけない。
俺は聖騎士の裸写真にダンジョンのことを口外しないようにと言葉を書き綴る。
「とりあえず、そいつには口止めだ。この写真を腹にでも貼っておいてくれ」
『ノフォフォ! 了解です! 今回のことで聖騎士はパーティーからの信頼を失いましたからね。自分の素性や目的を話してしまう可能性があるので、これはぜひ貼って釘を刺しておきましょう!』
嬉しそうに笑うボックルだが写真を貼ろうとして手が止まる。
「どうした?」
『いえ、どこに貼ったものかと。迂闊に貼って周りのメンバーに気付かれたり、ポケットなどに入れて落とされるのも困りますから』
確かに。この写真は聖騎士一人だけが抱え込み、心を苛ませることが目的だ。ふとした表紙に懐から落ちてエルフが拾い上げたりすれば、聖騎士は自棄になって話してしまう可能性がある。
『なら、股間に貼ろうぜ。そこなら聖騎士だけが見るだろうし、パンツも回収できてマスターも喜ぶ』
『なるほど。股間がスース―するとなれば聖騎士も気付いて手を伸ばしますし、場所が場所だけに他のメンバーも迂闊に見ないですからね! それにマスターも嬉しいですから』
さも納得とばかりに聖騎士からパンツを剥ごうとする二人。
理屈はわかるのだが、そこに最後にサラッと俺が欲しがる、嬉しいなどと付け足さないで欲しい。明らかにバカにされているような気がするから。
でも、嬉しいのは確かなので俺は何も言わないことにした。
さて、これで後片付けは大体終わったし、後は負のエネルギーを転送するだけだな。
俺の目の前にある水晶は紫色の光を放って点滅しており、先程からそれを幾度となく繰り返していた。
まるで邪神達が負のエネルギーを催促しているような、そんな気さえする。
水晶を見るとマックスになったゲージが表示されており、その横には、
『負のエネルギーが一定値を満たしました。邪神界に転送しますか?』
と、いつもながら問いかけが。
三回目になると慣れたもので迷わずに転送をタッチすると、ゲージが勢いよく減っていき空になった。
『転送が完了しました』
水晶は眩い文字を浮かべると、徐々に光が落ち着いていつもの落ち着のある状態へと戻った。
ふう、これで負のエネルギーは邪神に送れたな。
これで俺がやるべき義務は終えた。後はあの力を使って邪神がどうするかだ。
今度は変な邪神官とかではなく、もうちょっとマシな還元をしてくれると助かるな。
これで三章の本文は終わりです。少し詰め込みすぎて長くなってしまいましたね。
次はもう少し短くします。
さて、次はエピローグ。
短めですが、多分邪神と新しいキャラになるかと。




