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仲間を見捨てた後悔

HJノベルス様より書籍化決定!

6月22日に発売!

 

 ダンジョンコアのあるマスタールームにイビルウルフが戻ってくる。


 その顔はとても晴れやかで尻尾をブンブンと振っており機嫌が良さそう。


 エルフやハンス、ディルクをからかって遊ぶのが相当楽しかったようだ。


『ヴォッフ!』


 イビルウルフは部屋に戻るなり、一番に俺の方へと駆け寄ってくる。


 そのどこか得意そうな顔立ちと褒めろと言わんばかりの声に、思わず俺もにっこりと笑う。


「よくやったなイビルウルフ。見ていて楽しかったぞ」


『ヴォッフ!』


 俺が頭を撫でながら褒めてやると、イビルウルフがもっと撫でろとばかりに頭を擦り付けてくる。


「おーおー、よしよし」


 こいつはどこかにいる大きな猫と違って愛嬌もあるし、素直だから可愛いものだ。


 そのどこかにいる猫の方に視線をやると、ベコ太は興味なさそうに欠伸を漏らしていた。


 まあ、今さらあいつが愛嬌を出してきても何が狙いだと疑ってしまいそうだけどな。


 イビルウルフを散々撫でまわした俺は、お菓子あげる。


 通路に座り込んで凹んでいた聖騎士だが、五分くらい経過すると心が持ち直してきたのかゆっくりと立ち上がる。


 しかし、聖騎士の表情は険しい。


「……どうしよう。戻るべきか? とはいえ、私は仲間を見捨ててしまった。今更戻ったとしても受け入れてもらえるのか……」


 不安や罪悪感という感情を垂れ流す聖騎士。


 自分が悪いことをしたという認識を持ちながら、垂れ流す感情の中に微かな期待という感情が混ざっている。


 今さらながらに本当に都合のいい奴だ。


 とはいえ、罪悪感と言った感情は非常に引きずり、長引く傾向があるのでダンジョン的には嬉しい収入。


 そもそも罪悪感とは責任感や正義感が強い者ほど抱きやすいもの。


 罪悪感を抱く者の過去を突いてやれば、その度に猛烈な罪悪感という負の感情を吐き出す、効率の良い電池になってくれる。


 ふむ、今の状況次第だが今後はここを突いて心を疲弊させるのも悪くないな。


「よ、よし、ここは真実を話して謝ろう。それが最も誠実だ。あいつらならわかってくれるかもしれない」


 仲間の危機を見捨てておいて今さら誠実だとか笑わせてくれる。


 それに自分の危機的状況を話し、同情を誘っておいてボックルの討伐を手伝ってもらう気満々じゃないか。


 個人的にボックルに弱みを握られて、迂闊に動けないならまだしも、アレクシア法国とダンジョンの関係まで話したらどうなるか。そこは後で釘を刺しておいた方が良さそうだな。


 そんなことを考えながら、エルフと別れた地点まで戻ろうとする聖騎士。


「ボックル。そろそろ最後の仕上げだ」


『ノフォフォ! 了解です。では、私も向かいます』


 俺がそう伝えると、中年神官の姿をしたボックルが転移陣の中へ。


 ボックルの姿が部屋から消え、エルフ達の倒れた七階層に現れた。


 ボックルは影移動を繰り返し、瞬く間に影から影へと伝って移動。


 十秒とかからない内にエルフ達が倒れ伏している地点へとやってきた。


 ボックルはエルフの姿に変身すると、白目を剥いて倒れている本物のエルフを抱えるように引きずる。


 エルフがエルフを引きずるというシュールな場面。


 にしても、残念エルフは気絶までも残念だ。仮にも女なのだから、もうちょっとマシな気の失い方はできないのだろうか。


『おっ? 何だ!? まな板エルフが二人いるぞ!?』


 一瞬、もう聖騎士が戻ってきたのかと焦ったが、やってきたのはデュラン。


 その手に抱える蛍光色のペンを見る限り、気絶している冒険者に気付いて悪戯をしにやってきたのであろう。


『ノフォフォ! 私ですよデュランさん』


『何だボックルか。ところでその冒険者達をどうするつもりなんだ? 俺はいつも通り落書きしようと思うんだが?』


『申し訳ありません。今はマスターと作戦中なので、もう少しお待ちを。ああ、この残念なエルフさんでしたら好きにして構いませんよ』


『……こいつかぁ。まあ、いいや。んじゃ、こいつで遊ばせてもらうぜ』


 台詞だけ聞けば、山賊が女を手に入れて欲望の捌け口にしようとしているように思える。しかし、この二体はそんなことに微塵の興味のない魔物。文字通り、玩具にして遊ぶことしか考えていない。


これはこれで山賊よりも質が悪い気がする。


『ああ、ここで遊ばないでください。もうすぐエルフの仲間である聖騎士がやってきますから』


『ここで罠に嵌めるんだな。わかった! それなら離れた場所で見とくぜ』


 ボックルにそう言われたデュランは、素直に返事をするとエルフを肩に抱えて去っていく。


 どうやらデュランはエルフに落書きせずに、遠くから見守ることにしたようだ。


 エルフの落書きシーンもじっくり見たい俺としては好都合だな。


 デュランと本物のエルフが遠ざかると、ボックルは次なる仕込みのためにハンスとディルクへと近付いた。




 ◆




「ボックル、聖騎士が近くまで戻ってきた。問題ないな」


『問題ありません』


 ボックルの念話に耳を傾けながら、俺は戻って来る聖騎士を監視。


「……確かこの辺りだったな」


 辺りを確かめるように見渡しながら独り言を呟くエルフ。


 ああ、間違いない。そこは聖騎士が仲間であるエルフ達を見捨てた場所だ。


 間違いはないから早く仲間の元へと向かってやるといい。きっと皆快く受け入れてくれるはずだから。


 俺が心の中で嘲笑っていると、聖騎士の視界に人影が映り込む。


「れ、レイシアっ!?」


 エルフ達が自分を待ってくれていた。そんなめでたい勘違いをしそうになった聖騎士であるが、そのような考えは即座に吹き飛ばされる。


 何故ならば、聖騎士が見捨てた場所ではエルフ、ハンス、ディルクといったかつての仲間が血に塗れて倒れていたからだ。


 衝撃的な光景を見た聖騎士は顔を青くし、身体を硬直させる。


 そして二回ほど瞬きをして、これが夢でないことを確認すると二歩三歩と歩いてから、走り寄る。


「お、おいっ! レイシア! ハンス! ディルク!」


 聖騎士の口からこれまでにない程に緊迫感のある悲鳴が漏れる。


 聖騎士は一番近くで倒れているレイシアを抱き起こす。


 エルフであるレイシアは身体の至るところに切り傷があり、その薄い胸部分にはまるで大きな牙で噛みつかれたように穴が開いていた。


 クリッとした大きな瞳は虚ろのようで、肌の色は青白くなっていた。


 この状態で生きていると思う訳がない。


 しかし、聖騎士は現実を認めたくなかったのか、わざわざ手首に指を当てて脈を計る。


「みゃ、脈がない……」


 当然だ。エルフは死んでいるのだから。


「う、嘘だ。ここは冒険者が死なないダンジョンなのだろう? そうでなければ、私は……私は……」


 聖騎士は呆然と呟くと、ゆっくりと視線を動かす。


 そこに入ってくるのはエルフと同じように血に塗れた仲間。


 ハンスは蹲るように倒れ、ディルクは……なぜか手足をピンと伸ばしてマグロ滑りの体勢だった。


 ……どうしてお前だけシリアス感が台無しな倒れ姿なんだ。


 色々とおかしい奴が一人転がっているが、聖騎士は仲間が死んだという動揺のお陰か気にすることもなかった。


 それどころか血に塗れて物を言わぬ二人を見て、ようやく事態を理解し始めたようだ。


 聖騎士の身体から沸々と負の感情が湧き出す。


 それは小さくて薄いものであったが、時間が経過する度に大きく濃厚なものへとなっていく。


「……あ、ああ、あああああああああああああああっ!?」


 聖騎士の目を大きく見開いて、悲痛な声を漏らす。


 それと共にダムが崩壊したように負の感情が流れ出た。


 ふははははははは! 負のエネルギーのフィーバータイムだ!


 聖騎士から溢れ出る濃密な後悔と罪悪感という負の感情。それを俺のダンジョンがここぞとばかりに吸収して、喜ぶようにゲージを明滅させる。


 凄い勢いだ。今までにない程に濃密な負のエネルギーだ。


 それもそうだろう。自分が仲間を見捨てたせいで仲間が死んだのだ。


 責任感が強い聖騎士からすれば、それは途轍もない罪のように思えるだろう。


「わ、私がっ! 私が見捨てたせいでレイシアが! ハンスが! ディルクがぁっ!」


 聖騎士が涙を流しながら嘆く。


 聖騎士が大きな感情を発露させる度に、負の感情が溢れ出してウハウハだ。


 もっと、もっとだ。もっと己の感情をさらけ出してくれ!


「どうして私はあの時、仲間を優先しなかったのだ。どうしてあいつを追いかけたりしたのか……っ!」


 そこはボックルが精神魔法で心を捻じ曲げてしまったから仕方がない。


 でも、俺はボックルが精神魔法など使わなくてもこういう結末になっていたと思う。


 だって、いくら高潔なる人間であっても最後に大事なのは自分だからな。


 俺が冷めた視線で聖騎士を見つめていると、目の前にある水晶が紫色の光に包まれた。


 おお、これは負のエネルギーが満タンになった合図。


 どうやら聖騎士の濃密な負のエネルギーによっていっぱいになったらしい。


 聖騎士が嘆く姿も面白いが、これ以上やっても負のエネルギーは回収できないし、冷静になって嘘がバレるのもつまらん。


 ここら辺が丁度いいのであろう。


「ボックル、そろそろやれ」


『ノフォフォ! 了解です』


 俺が念話で命じると、ボックルがウキウキとした声音で返事。


「うう、レイシア! 起きてくれぇっ! 頼むから!」


 聖騎士がそのような嘆きの言葉を吐いた瞬間、聖騎士の腕の中にいたエルフの首がぐるりと動く。


「えっ?」


『ノフォフォ! 残念! エルフではなく、ドッペルゲンガーでした!』


「んなぁっ!? へぶっ!?」


 聖騎士が呆気にとられた顔をした瞬間、エルフに変身していたボックルが鋭いジャブで聖騎士の顎を打ち抜く。


 人体の急所を打ち抜かれたからか、さすがの聖騎士も一発で気絶した。


 どさりと床に転がる聖騎士と、立ち上がりそれを見下ろすエルフの姿をしたボックル。


 そう、当然エルフとハンスとディルクは勿論死んでいない。


 何て言ったってここは俺のダンジョン。このような一時的なエネルギー回収のために人を殺すなんてあり得ない。


 どうせならカモにして、二回も三回も美味しくしゃぶる方がいいに決まっているだろう?




ディルクのマグロ滑りの挿絵が手元にきました。どうやら本当にイラストになるようです。


正直、予想以上に面白くて挿絵を見た瞬間にふきました。


これはもう書籍を買うしかないですよ。Amazonでも予約開始されてますので、よろしくです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 所謂外道物と違って、あくまで悪戯と言い張れなくもない一線をギリギリで超えない感じが痛快でした
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