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後戻りのできない戦い

HJノベルス様より書籍化決定!

発売は6月22日です。

 

 エルフ、ハンス、ディルクがゴブリン部隊にやられている一方で、聖騎士は遂にボックルを壁際へと追いやっていた。


「ふふふ、これでお前も逃げられん。お前さえ倒せば、私はこのように冒険者としてダンジョンに潜らなくて済むのだ」


『いいのですか? 私を殺してしまったら聖剣の行方がわからなくなりますよ?』


 ボックルの脅迫を追い詰められたが故と勘違いしているのか、聖騎士はニヤリと笑みを浮かべる。


「聖剣がないのは大問題だが、お前が私に変身して悪さをすることに比べたら大したことはない!」


『……それは仲間を見捨ててもですか?』


「黙れ!」


 ボックルの皮肉のような言葉に聖騎士はぴしゃりと言い放つ。


 もはや後戻りできない状況だとはわかっているが、そこを突かれると痛いというのが本音か。どうせ後戻りできないというのに、いつまでもつまらない正義心を引きずるとは馬鹿なやつだ。


「お前さえ討伐すれば私は何も問題ないのだ!」


 聖騎士は自分に言い聞かせるように叫ぶと、腰に掃いた剣を抜いて駆け出す。


『ノフォフォフォ! 仕方がないですね。少し遊んであげるとしましょう』


 聖騎士と同じ姿をしたボックルも同じく剣を抜いて、走り出す。


 ボックルが剣を振り下ろすと、聖騎士がそれに合わせるように剣を合わせる。


 薄暗い階層内に刃から飛び出た火花が飛び散り、淡く灯す。


「はあっ!」


 つばぜり合いになったがレベル差のせいか、ボックルが聖騎士に力で押される。


 ボックルが慌てて後退すると、聖騎士はそのタイミングを計っていたように瞬く間に距離を詰めて一閃。


 ボックルが変身していた聖騎士の胸部鎧に一筋の傷が入る。


 ちっ、しっかりと鎧なんて着こみやがって。これがアニメや漫画のヒロインだったら、もっと防御力の薄そうな服を着ているから、ポロリとかあったんだろうな。


『ノフォフォフォ! もし、鎧がもっと薄ければマスターが喜んだでしょうに』


 俺が非常に残念に思っていると、ボックル笑い声を上げながらそんなことを言う。


 確かにそうだが、ボックルなんぞに趣向と思考をトレースされているのが非常に腹立つ。


 間違ってないし、そうなればいいなとか思ったけどお前に言われたくない。


「ホーリースラッシュ!」


 聖騎士がそう叫ぶと、剣に光が収束し、振るった軌道に光の斬撃が飛んでいく。


 悪魔族であるドッペルゲンガーに有効な聖属性の技だ。


 しかし、それは以前に聖剣で放ったものに比べると、光も威力も貧弱だ。


 撃ち出された光の斬撃をボックルは身体をそらすことで回避した。


『おやおや? それは以前にも見た技ですが、前に比べると貧弱なものになっていますね? やはり聖剣ではないと十分な威力が発揮できないのでは?』


「黙れ。お前などこの剣でも十分だ!」


『なるほどなるほど、では聖剣は必要ないんですね』


「…………聖剣は必要だ。だが、それはお前を倒してからじっくりと探せばいいだけのこと!」


 とか勇ましく言う聖騎士だが、そこの答えにたどり着くまで結構な時間のタイムラグがあったな。


 それにボックルに言われて一瞬、後悔といった負の感情も発せられたし。その微妙な迷いが実に人間らしくて面白い。


「くたばれ!」


 実に怒りの感情がこもった声と共に聖騎士から剣が振り下ろされる。


 それに対してボックルも応戦するように剣を振るって防御。


 しかし、圧倒的なレベル差と経験の差があるせいか、ボックルが応戦するも追い付かず、聖騎士が剣を振るう度に次々と身体の鎧が傷ついていく。


「はははは! 私と同じ身体になればいい戦いになると思ったか! 私達人間は、お前のような害をまき散らす魔物を退治するために日々研鑽を積んでいる。その蓄積をお前なんぞに真似できるはずもない!」


 ドッペルゲンガーであるボックルは、あらゆる生物に変身でき、技や特性を再現することはできるが、経験や記憶といったものを手に入れることはできない。


 なので、レベルも低く戦闘経験も少ないボックルが、剣術を極めてきた聖騎士に剣で勝つことはできないのであろう。


 にしても、聖騎士も悪い顔で笑うようになったな。


 今まで散々痛い目に遭わされたボックルを追い詰めている状況が楽しくて仕方がないのであろう。聖騎士の表情は興奮で目が見開き、頬も赤くなっている。子供には見せられない表情だ。


 ……こいつは本当に聖騎士なのだろうか。


「くたばれ! ホーリー!」


 聖騎士が剣を打ち合わせる最中に、自分を中心に光のオーラを広げる。


 剣を打ち合わせており迂闊に動けば斬られ、このままでいれば聖なる光によって大きなダメージを負う。


 これは流石にボックルもピンチか?


 そう思った瞬間、聖騎士の姿をしていたボックルがどろりと崩れ落ちる。


 黒の塊となったボックルは地面に沈み込むことで、光のオーラを回避。


 聖騎士から十メートル離れた通路の影から浮かび上がってきた。


 どうやら影移動で回避したらしい。聖騎士の姿では移動はできないのか、久しぶりに本来の姿を晒している。


「ちっ、後一歩のところで逃げたか……」


『ノフォフォフォ! さすがの私も少しだけヒヤリとしました!』


 舌打ちする聖騎士の言葉に、ボックルは楽しげな声で言う。


 ヒヤリとしたと言ったが、ボックルがやられるイメージがつかないんだよな。


 上司である俺としては頼もしい部下であるが、敵になるとここまで面倒な奴もいないだろうな。


「黒いワインドウルフといい、逃げるのだけは得意だな」


『ノフォフォ! では、逃げるだけではないことをお見せしましょう!』


 聖騎士の言葉に答えるように、ボックルは姿を変えてレイスに変身する。


 影のような体から朧げな骸骨の姿に一転。


 おや? ここで聖騎士と死闘を繰り広げる予定などないのだが……まさか、聖騎士の安い挑発に引っかかったというのか? あのボックルが?


『ノフォフォフォフォ。私がどこにいるか見破れますか?』


「ふん、レイスの透過など怖くない。近づいてきた瞬間に即座に斬り捨ててやる!」


 聖騎士が意気込みの言葉を吐き、正面に剣を構える。


 すると、レイスとなったボックルはそれを見てカタカタと笑い、ゆっくりと地面へと消える。


「…………」


 通路内では剣を構えた聖騎士だけが残り、緊張した空気が漂う。


 わざと時間をかけて聖騎士の精神を削りにいっているのだろう。


 聖騎士は視線を巡らせて全方位を警戒。


 しかし、一分ほど時間が経ってもボックルは襲ってくることはない。


 これはおかしいと思ったので水晶で階層内のマップを確認。


 すると、ボックルは聖騎士からかなり離れた場所にある、階層主だけが知る転移陣に入っていた。


『ノフォフォ! ただいま戻りましたマスター!』


 そして俺の後ろで、中年神官の姿をしたボックルが笑いながらやってくる。


 どうやら通路にいる聖騎士は完璧にボックルに逃げられたようだ。ボックルが真面目に戦うなんておかしいと思っていたよ。


「お前本当にいい性格をしているな」


『私の役割は時間稼ぎと聖騎士をおちょくることなので。マスターも楽しんで頂けましたか?』


「最高だよ、お前は」


『ノフォフォ! お褒めに預かり光栄です』


 そして三分も経過して、ボックルの気配がないことに気付いた聖騎士は……。


「……もう、本当にあいつ嫌いだ」


 通路に座り込んでいじけていた。




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