ぷろろーぐ
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僕の冒険者としての一日目は、僕の人生史上、最悪の日だった。そう、災厄の日。
パパーン!! 『リューリ、15歳おめでとう!!』
その日、街の一角にある小さな冒険者ギルドで、僕の誕生日会が催されていた。
『誕生日会』といってもただの誕生日会ではない。『新たな冒険者誕生の会』である。
この世界では、15歳になると、様々な権利を得ることができる。要するに成人だ。今日は成人式でもある。
様々な権利。
例えば、ギルドの正式メンバーになることができる。冒険者ギルド、商業者ギルド、生産者ギルドなどなど、ギルドの種類は多々あるが、とにかく15歳。15歳になれば、どんなギルドでも入ることができる。もっとも、ギルドの加入にはギルドマスターの同意は前提となるのだが。
正式メンバーになると何ができるようになるのか。以下のとおりだ。
1、ダンジョンに行くことができる。
2、武器や防具を装備できる(購入できる)。
3、スキルを身につけることができる。また、スキルの使用が認められる。
4、人を雇うことができる。
5、人に雇われることができる。
6、お酒が飲める。
他にも細々としたものがいくつかあるが、これで十分である。特に冒険者であれば、最初の3つが特に重要になってくる。冒険者はダンジョンに行ってこそ冒険者たりえるからだ。
僕の所属している冒険者ギルド〔蒼碧玉〕には8人のメンバーがいる。そのうちの一人、『ルミーユ』はまだ15歳になっていない女の子だから、正式メンバーは僕を含めて7人だ。
ギルドマスターの名は『シュージ』。本人曰く『王国最強』だそうだが、実際に戦っているところを見たことはないため、真偽の程は定かでない。しかし、他のギルドメンバーに聞いた話では、どうも病を患っているようで、全盛期はとうの昔に過ぎてしまったようだ。
「いやいや、これでこのギルドも安泰だな!」
「そりゃあそうさ。しかも、リューリはなかなか強いぞ! なんたってこの俺が直々に鍛えているんだからな」
「ばか! お前が教えてることが実戦で役に立つわけがないだろう」
「そうそう、お前の戦い方は特殊すぎるんだよ!」
「何を言うか! 俺は『王国最強』とまで言われたことがあるんだぞ!」
「はー! 何年前の話をしてるんだお前はー!」
「つい三日前、下9階層で死にかけてたのはどこのどいつだっけなあ」
「あはははっははは。そうそう、あの時はやばかった! やばかった!」
「笑い事じゃねえよ! こっちまで冷や汗かいたんだからな!」
「あっははっはははー!!」「ぶぁっはははっは!」
「あははははー、ほら、リューリも飲め飲め!!」
僕は、人生初のビールを一口、無理やり飲まされる。
「……あんまりおいしくないです……」
「そうかそうかー、おいしくないかーあはははっはー」
昼間から騒ぎ散らして、酒を飲む。それはもう、うるさすぎる程に。
しかし、このギルドはこれが平常運転。近所からもうるさいと評判のギルドである。みんな、常に酔っ払っているといっても過言ではないくらいだ。
「バタンッ」
突然にギルドの扉が開く。そこから勢いよく入ってきたのは一人の小太りな男。名は分からないが、顔は見たことがある。商業者ギルドの男だ。その男は息を荒げながら言った。
「昼から飲んでるところすまないが手を貸してくれ! 俺たちのギルドの植物採取班が魔物に襲われた。雇っていた用心棒の冒険者は全滅。他に頼れる冒険者ギルドが、お前たちしかいない!! 報酬はちゃんと払う!!」
急にギルドの中は静かになり、みんなが酒を置く。最初に口を開いたのはギルドマスターのショージ。
「何階層だ?」
「下13階層だ!」
「とすると、敵は火蛇族の魔物か。よし、全員、火傷対策に寒草軟膏を持っていけ! 今すぐに出発だ!」
僕も慌てて、寒草軟膏を棚から取り出そうとする。すると、ショージは僕を止めた。
「お前はまだ、ランク0だろう? 明日から、俺と一緒にランク上げに行こう。ダンジョンに行くのはそれからだ。今日は留守番を頼むぞ。 ルミーユと一緒に、ここで待っていなさい」
「……うん……」
僕には頷くことしかできなかった。
もしも、無理を言ってでも、付いて行っていれば……。
いや、そのときはきっと、僕は足を引張ることになっただろう。
……全滅の知らせを聞いたのは、彼らが出発してから僅か7時間後のことだった。