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穴は花の咲き乱れる丘にあった。
花と草に囲まれた穴は昼間だというのに、奥が見えないほどに深い。
そんなに大きな穴ではないのだが、誤って堕ちてしまえば、戻ってくるのも骨が折れるのだろう。
私はどうにかして、奥をのぞき見ようと、少しずつ身を乗り出していく。
きらり。
太陽に反射してか、穴の奥でなにかが光った。
ゆっくりと手を伸ばしていく。
指先に触れる。
あと、少し。
胸の下まで乗り出した私は、穴の奥から吹いた風に驚いてあろうことか、手を滑らせてしまったのだ。
上半身の半分以上、穴に入っていた私は、ずるりと滑ったまま、まっさかさまに穴へ堕ちていった。
パニエで膨らんだスカートが風でバタバタと揺れる。
セミロングの髪はぶわりと上がり、体もうまく動かせなかった。
ずいぶんと穴を下っただろう。
しばらくそのまま落ちていると、少しずつスピードが落ちていき、ゆっくりとつま先から地面に降りることができた。
ぺたり。
地面に足をつけると、長く落下していたためか、うまく立つことが出来ず、そのまま腰をおろしてしまった。
そのままで辺りを見回す。
水色と黒の市松模様の床に、黄色の扉がひとつだけの、狭い部屋だった。
私は上をみあげてみたが、まっすぐに落ちてきたはずが、もう穴の出口は見えない。
上るための階段や、はしごも見当たらないので、他に出口を探すしかないようだ。
私は立ち上がると、黄色の扉へと近づき、ノブを回した。