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今日タイトルの変更をしました。
内容の変更は一切ございませんので、引き続き読んでいただければと思います。
よろしくお願いします。
顔を上げると教室には誰もいなかった。
教室は、燃え上がるような夕日に照らされ、一面赤に埋め尽くされていた。
魔力の炎に包まれたらこんな感じなのだろうか。
どうやら俺は寝てしまっていたらしい、時間を見ると完全下校時刻が迫っている。
誰か起こしてくれはしなかったのか……
ふと足音に気付き出入り口の方を見ると、そこにはひとつの人影があった。
「あ、やっと起きたね」
手をハンカチで拭きながら歩いてくる少女、それは永久之だった。
「待ってようと思ったんだけど、なかなか起きないから退屈したよ」
なら起こしてくれれば良かったのに、でもこればっかりは自分が悪いので文句は言えない。
「悪かった」
「じゃあ帰ろっか」
そう言って永久之は俺の前まで来ると、自分のカバンを整理し始める。
そんな彼女を見ていると、昼間の光景が思い出される。
永久之は襲いかかるアンクルに、怯むことなく立ち向かっていた。
「おい、ひとつ聞きたいことがある」
しかし永久之は、俺の声など聞こえていないと言わんばかりに何も答えない。
「おいお前、聞こえてるだろ」
「べーだ」
永久之は目に人差し指を当て小さな舌をぺろっと出し、そして帰ろうと歩き始める。
なんだっていうんだ、俺が何かしただろうか、待たせたのが悪かったのだろうか。
「おい永久之!」
彼女は止まり、さっとこちらを振り返った。
「やっと名前呼んでくれたね」
彼女は、俺の方に歩いてくると自分の席にドスンと座った。
そして椅子の背に腕を置き、その上に自分の顔を乗せ見つめてくる。
なんだったんだ?
「聞きたいことって何?」
俺は永久之の切り替えの早さに、置いてけぼりをくらったようだった。
「昼間、アンクルと戦ってただろ?」
「うん、見てたんだね」
俺の教室はグラウンドに面している、余程授業に集中してるか寝ているかしない限り、嫌でも目に入ってしまう。
「その……怖くないのか?」
「怖いって何が?」
「敵と戦うことがだ」
俺の問いに彼女は、何を言っているのか、と言うような顔をしている。
「怖くないよ」
怖くない、そうかそうだよな、そうでなかったらあの男をたおそうなどと考えないか。
「今は、ね」
「どういうことだ」
永久之は、教室の外を眺めると何かを思い出すように話し始めた。
「初めはすごく怖かったよ、怪我したら痛いし、苦しいし、死んじゃうかもしれないからね。でもいつの間にかそんなこと忘れてたよ、今はただ強くなりたいってことだけ。それにそんなこと言ってたら火守ヤトをたおせないじゃん」
そうかこいつは単純でバカだからじゃなくて、心が強いからいろんな事をすっ飛ばしても平気でいられるんだ。
「お前、いや永久之は心も体も強いな……」
「何言ってるの?」
永久之はまたもや呆れたような顔をしている。
「あなたの方が強いでしょ? なんたってあの<絶対>の息子だもんね。怖いものなんてないんでしょ?」
そう笑いながら言う永久之。
俺はその言葉に夕日の赤より濃い全身の血が、沸き立つような気分だった。
「俺をあいつの子って言うな!!」
俺の突然の大声に永久之は身を震わせた。
「どいつもこいつもそうだ! あいつの子だから強いんだろ凄いんだろって!」
俺を一人の人格として見てくれない、あの男の子供として見やがる。
それが許せない、気に食わない、そして悔しい。
「……フーガ君?」
「でも! 俺には……力が、魔力がまったくないんだ!」
少女は信じられないというように目を見開いた。
「そんな……ごめんなさい、私何も知らないで」
その言葉に俺は我に返った。
「いや、急に大きな声を出して悪かった」
知らず知らずのうちに、浮いていた腰を下ろし謝罪した。
いいんだ、知らなかったのだから仕方がない。
高等部に上がったばかりの頃はよく怒っていた、あの男の子供扱いされるたびに怒り狂い、怒声を放ち。
でもいつしかバカらしくなって、最近は周りに何をい言われようと、無視するようにしていた。
だが今日は無視しきれなかった、この少女ならそんなことは言わないと、俺を俺として見てくれると、勝手に心のどこかで期待してしまっていたのかもしれない。
勝手に期待して、勝手に裏切られた気分になって、最悪だ。
「あの、魔力がないってホント?」
永久之は、真っ直ぐに俺の目を見つめ問いかけてくる。
「聞きたいか?」
「教えてくれると、嬉しいかな」
彼女は笑っているのだろうか、夕日に照らされた永久之の微笑みはすごく切ない顔をしているような気がした。
「ほんとだ、黒い炎は愚か、赤い炎でさえ俺には出せない」
世界最強から生まれたのが魔力を持たない一般人とは、とんだ笑いものだ。
「だから……俺は戦いたくても、戦うのが怖い」
だから戦闘系カリキュラムから守備系カリキュラムに移った。
もちろん俺だって努力はした、小さい頃から母に魔法について教わり、父のように強くなると言って、トレーニングをしたり父と組手をやったりしていた。
だが一向に魔力を操れるようにはなれなかったのだ。
落ち込む俺にあの男は言った、『いつかお前に心から愛する者が出来た時、自ずと力は現れる』と。
だが俺は、愛などまったく信じない、テッタのように永遠の愛など信じることなどできない。
だから俺は一生このまま、だいたい父の言うことが本当かも分からない。
「そっか、教えてくれてありがとう」
「どうだ、失望したか? お前が一緒に戦おうとしていた奴は、最弱の臆病者だ」
永久之は目をつむり、そしてかみしめるように首を横に振る。
「確かに一緒に戦うってことはできなくなるかもしれないね、でも戦うことが強さじゃないよ」
戦うことが強さじゃない……か。
だが俺はあの男をたおしたい、そして俺の存在を認めさせたい、だから強くなりたい、力が欲しい。
「フーガ君にはフーガ君のいいところがあるよ」
取り繕うためにそう言っているのだろうか。
だがよく考えるとこいつは始め、俺が火守風雅だと知らずに近づいてきた。
それなら俺を(父の子)、としてではなく(火守風雅)単体の個人として見ていてくれているのかもしれない。
だいたいこいつは単純なやつだ、永久之の言動には、裏もなければ、悪気もないないのかもしれない。
だったらもう色々と深く考えるのを止めよう。
「たとえばどこだ?」
俺はわざと意地悪く聞いてやる。
「えーっと……ちょっと待ってね」
すると永久之はすごく困った顔をして、額に汗を浮かべ始めた。
ほらこいつは単純でわかりやすい、『フーガ君にはフーガ君のいいところがあるよ』なんて考えなしに言ったに違いない。
「5、4、3――」
「わーああああああ、ちょっと待ってよ、まだあまりあなたのこと知らないし、これからゆっくり見つけていくから」
永久之は慌ててカバンを手にかけ、逃げるように教室から出て行く。
俺はそれ以上何も言わず、彼女をゆっくりと追いかけ、そして一緒に帰った。




