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翌朝、今日は目覚ましをかけ忘れることなく、ベルに叩き起された。
俺はいつもどおりベッドの上に立ち上がると、眠たい目をこすりながらカーテンを開ける。
「んー……はぁ」
そして大きく伸びをして、パッと目を開けた。
「うわっ!」
すると窓の外に見えたのは、同じくのびをする少女の姿だった。
水色のパジャマはめくれ上がりおへそが見えてしまっている。
その姿はものすごく小動物のように見えた。
永久之はこちらに気付くと、慌てて服の裾と髪の毛を手で整えた。
そして少し気まずそうに手を振っている。
「くそ、忘れてた」
幸いあいつものびをしていたので、俺の情けない姿は見られてはいないかもしれない。
でも明日からは気を付けないといけない。
俺はカーテンを勢いよく閉めると、薄暗くなってしまった部屋を飛び出した。
朝の用意を全て終え、カバンを持ちリビングを出て行く。
「にゃ~」
「行ってきます」
今日の見送りは夜彦さんだけだ。
母さんは俺が起きると、ソファーの上で<教会>からの手紙を大事そうに抱いて寝ていた。
あの男から手紙が来たのだろう、また母さんの心をかき乱しやがって。
俺は奥歯を強く噛み締め、玄関のドアを開けた。
「おはよ~」
外に出ると、なぜか家の前には永久之が立っていた。
「お前何でこんなところにいるんだよ」
「せっかくだし、一緒に行こうと思って」
そう言って俺の前を歩き始める永久之。
「好きにしてくれ」
今日は髪を編んでおらず、前髪をひとつに束ねているだけである。
今はそれが歩くたびにピョコピョコと動くのですごく気になる、身長差があるのでちょうどそのしっぽが視界に入りやすいのだ。
「あんなところに窓があると思わなかったにゃん」
……ん? 今こいつ『にゃん』って言ったか、いや聞き間違い、それとも噛んだのか?
「朝からビックリしたにゃん」
これは聞き間違いでも、噛んだわけでもなさそうだぞ。
「おい、そのにゃんってなんだ?」
俺は思わずそう聞いてしまった。
「え? わんの方がよかった?」
「いやいや……そういう訳じゃなくて」
どうしたんだこいつ、急に頭がおかしくなったのか。
「早く仲良くなろうと思って、だから語尾に何か付けたら親しみやすいかなって」
永久之は真剣な顔でそんなことを言う。
「だからにゃんなのか?」
「そうだよ、朝からいっぱい考えたんだから」
腰に手を当て威張る少女。
忘れてた、こいつは単純馬鹿なのだ、この女の行動にいちいち意味を付けようとした俺がバカだった。
「どう、えらい?」
「ああ、えらいえらい」
俺が投げやりにそう言うと、笑顔になる少女。
「いっぱい考えたって、他にも候補があったのか?」
「聞きたい?」
いつの間にか永久之のペースに巻き込まれてしまったようだ。
いつもならこんなことはスルーするのに……仕方ない自分で言ってしまったことだ。
「聞きたい、聞きたい」
「えっと……パオーンでしょヒヒーンでしょ――」
少女は俺の前で指折り数えながら、いろんな動物の鳴き声ブツブツと真似し始めた。
最近あれだけうるさかった蝉の声、今日はどこか遠く感じた。




