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「おかえり、遅かったね」
「ただいま」
家に帰ると母がソファーで夜彦さんを抱いて、テレビを見ていた。
「ご飯温めなおすから、手洗っておいで」
母はそう言ってパタパタとスリッパを鳴らしキッチンへ向かう。
見栄を張って大人用のスリッパを買うからだ、子供用でちょうどいいのに。
「ただいま、夜彦さん」
「にゃ~」
俺は夜彦さんに挨拶をして、ポケットの中にあったおにぎりをテーブルの上に置き手を洗いに行った。
「は~い今日はお父さんの大好物だよ」
しばらくテーブルに座って待っていると出てきたのは、ケチャップでハートの書かれたオムライス、それと付け合せのサラダだった。
「大好物ってあいつ何食べても表情変えないじゃないか」
そうあの男は、何が出てきても文句は言わない代わりに何を食べても表情一つ変えないのだ。
まずいともなんとも言わない、ただ母さんの「おいしい?」という言葉に、おいしいと答えるだけである。
「こら親に向かってあいつなんて言ったらダメ。それにそれが好きかどうか、美味しかったかどうか、私にははっきりわかるもん」
母さんはいつもそう言う。
「じゃあどこが変わるんだよ」
「ちょっと失敗した時とかは顔が変わるし、好きなものが出てくれば食べるペースが早まるもん。言葉に出さない代わりに、はっきり態度にでてるんだから」
どうだと言わんばかりに胸をそらす母。
これは母にしか分からない基準なので、俺はどうにも言えない。
俺にはどこからどう見ても同じにしか思えないのだ。
俺は自分から話を振っておいて、どうでもよくなりご飯に手をつけ始める。
母さんはとても料理上手だ、今回のオムライスも実に美味しい。
「これなに?」
母さんが手に持っていたのはおにぎりだった、貰っていたのをすっかり忘れていた。
「ああ、さっき貰ったんだ」
「食べないの?」
そう言って包んであったラップをはがし始める母。
「人の作ったものはちょっと抵抗が……」
「そういうところヤトにそっくりだね」
あんな奴と同じと言われてしまった。
やはり俺が望まなくても、あの男とは親子らしい。
「じゃあ私が食べていい?」
「別にいいよ」
そして母はその小さなおにぎりを、同じく小さな口で頬張った。
しばらく無言で咀嚼する母。
「何か不思議な味だね……」
食べなくてよかった、どんな味がするんだ、おにぎりなんてどんな奴が作ろうとほとんど味は変わらないはずなんだが。
「これは……お塩とお砂糖を間違えちゃったのかな? 食後のデザートみたいで美味しい」
本当に食べなくてよかった、そんな甘いおにぎり絶対に食べたくない。
それに米をデザートに昇華させるほどに砂糖を使っているのか、ある意味これが塩じゃなくてよかった。
俺は就寝前、ベッドの上に寝転がりながら、天井を眺め考え事をしていた。
今日はいきなり現れた女、永久之にさんざん振り回された。
時間割を教え、職員室まで連れて行かされ、挙げ句の果てには引越しの手伝いだ。
ただでさえ今朝は遅刻気味のせいでイライラしていたのに、大嫌いな女の相手などさせられて……
それにあの男を、父をたおすなんて本当にできるんだろうか、俺なんかの力で。
今日の出来事が、頭の中を駆け巡る。
俺はそろそろ寝ようと、体を起こし電気を消した。
カーテンを少し開けると、向かいの部屋の窓から少し漏れている。
俺は大きくため息をつき、乱暴に枕へ顔をうずめた。
どうしてだろう……永久之には、俺がいつも感じる胸のモヤモヤを感じなかったような。
気づかなかっただけだろうか、それとも今日は実は機嫌が良かったのだろうか。
「……あーっもう」
俺は頭をかきむしり、逃げるように夢の中へと駆け込んだ。




