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 どこからともなく、爆音が。

 そして、とてつもない爆風とともに黒い刃の閃光がやってくる。


 その刃は永久之とわのを見上げるアンクルを襲う。

 腕を吹き飛ばし、首を撥ね、胴を切り裂いていく。

 アンクルは突如現れた謎の光によって瞬殺され、霧散していった。


 その光景を唖然としてみているとフードをかぶった誰かが、落下し続ける永久之の体を空中で受け止めた。

 永久之を抱いたその人は着地すると、いまだに何が起きたのか分からずうずくまって固まる俺の方へ近づいてくる。

 そして俺の隣に永久之をそっと寝かせた。


「よう、元気か息子」

 そういいながらフードを取ったその人。


「な……おまっ」

 そこにいたのはなんと、紛れもなくあの男。

 世界最強、<絶対>の名を冠するナンバーズNo.Ⅰ。

 父だった。


「よく頑張ったな」

 父はそう言って少し微笑んだ。


 よく頑張っただと?

 何をどう見てそうなったんだ……

 俺は結局何もできなかった。

 結局……


「一瞬止めることしかできなかったんだ!!」



「……風雅、その一瞬がなかったら俺は間に合わなかった。お前が一瞬あいつの動きを止めたから俺の攻撃は間にあったんだ。だからお前はこの子を助けたんだ、だから笑え」


「笑えるか」

 何もできなかったんだ。

 自分の一部を、大切なものを、欠けてはいけないものを、失ってはいけないものを、この手で守ることはできなかった。


 俺は結局何もできない。

 俺に力はない。

 やっと見つけた光さえこの手にはできない。


「俺は弱い」

「……風雅、お前はこの子のために命を懸けられるか?」


 永久之のために命を懸ける。

 そんなことは俺には無理だ。

 今回だって目の前であれだけ永久之が傷付いているにもかかわらず、怖くて怖くて仕方なくて。

 そして逃げた。


 俺はゆっくり首を横に振った。

 それを見て父はフッと笑みをこぼした。

 笑いたければ好きなだけ笑えばいい。

 自分でも分かっている、笑えるくらいに情けない。


「それでいいんだ風雅」

 しかし予想に反して父はそう言った。


「その人のために命を賭して戦い、その末に死ぬなんてものは覚悟でもなければ、強さでもない。

 命を懸けて守ってもらった相手はどう思う?

 誰かのために戦い死ぬっていうのはな、お前が死んだ後の悲しみや苦しみ、すべての責任を背負わせて逃げることと同じなんだ。

 死ぬのは容易い、だが生きることは果てしなく難しい。

 俺がお前と同じくらいの年の時にはそれが分からなかった。

 でもお前は違うだろ、お前は死ぬことの怖さを知っている、命の大切さを、尊さを知っている。

 だからお前は弱くなんかない、お前は強い」






「だから笑え」

 父はそう言って泣き出しそうになった俺の頭をくしゃくしゃになでる。


 俺はこの瞬間悟った。

 俺は父のようになりたかったのだと。

 でもそれがかなわないと思ったから、自分を保つために父をたおしたいと、父が憎いとそう思い込んだのだ。

 母を泣かせるから、なんていうのは後付の体のいい大義名分でしかなかったのである。


「う、うぅ……ん」

「永久之大丈夫か?」

 隣で横たわっていた永久之が目を覚ます。


「ん、フーガ君……? アンクルは?」

「もう霧散した」

「そう……よかった」

 永久之はまだ意識がはっきりしていないみたいで、ぼーっと父を見始めて固まる。


「……ん? ……あれ? ……あなたは……」

 ぼそっと何かを入ったかと思うと永久之はカッと目を見開いた。


「ひ、火守ひのもりヤト!!」

 そしていきなり立ち上がり、父を指さす。

 動いて大丈夫なのだろうか……


「フーガ君ついに見つけたよ! 火守ヤト」

 知ってる、お前はそいつに助けられたんだ。


「何やってるの、早く立って!」

「お、おう」

 俺は永久之の隣に立つ。

 父を真正面で見つめるのはいつ振りだろう。


「火守ヤト! ここであったが百年目よ、私と勝負しなさい! 私が勝ったら私を世界ワールドランカーにしなさい!」

 永久之は父に向かってそう宣言すると、真っ赤な炎を身にまとい、武器である剣を形成してゆく。


「いいだろう……その代わり」

 父はサッと後退し俺達から距離をとる。


「死んでも文句は言うなよ」

 父は真っ黒な炎をその身から放つ。


 その瞬間体を押しつぶすほどの重圧が俺達の体に襲い掛かる。

 空気は一変、ねっとりとした粘り気を持ち、息苦しくなる。

 そしてとてつもない悪寒と恐怖が走る。


「……構わないわ」

 その言葉を聞いた父は少し口角をあげて笑い、少しずつ近づいてくる。

 一歩、また一歩と、距離が縮まるにつれその存在はより強大なものと化してゆく。


「くっ、なんて圧力なの」

 永久之は一歩も動き出すことができず、ただ立ち尽くす。

 彼女の足は震え、顔には玉のような汗を浮かべている。

 しかしそれでも永久之は父から目を逸らそうとしなかった。

 まっすぐに見据えて、捕らえた姿を放そうとしない。


 父は立ち止まると今以上に魔力を放出し始める。

 真っ黒な炎が燃え上がり、爆ぜる。

 凄まじい爆風、凄まじい圧力。


「うっ、く……私は」

 永久之は顔を歪めながら叫ぶ。


「私はあなたをたおす!」

 そして永久之がグッと足に力を込め曲げ、一歩を踏み出した瞬間だった。

 父は魔力の放出をやめる。

 周りの空気は正常に戻り、体は軽く、圧力もまったくなくなった。


「合格だ」

 父はそう言って笑った。


「「は?」」

 次の瞬間、気付いたときには父は永久之の隣にいた。


 そして彼女の肩に手をポンと乗せると、耳元で何かをささやいて、そのまま俺達の後ろへ抜けてゆく。


 俺はあまりの速さに驚きすぎて呆然と立ち尽くし。

 永久之は急に顔を耳まで真赤にして、頭から煙を出し始める。


「あ、あぁあぁああ、あなたに言われなくても分かってるよ!!」

 2人して振り返ったとき、そこにはもう父の姿はなかった。


「あーっ! せっかく見つけたのに取り逃がしちゃったじゃん!」

 永久之は泣きそうになりながら、悔しそうに飛び跳ねる。


「フーガ君のばかぁ」

「えっ? 俺のせいなのか?」

「……そうだよ」

「悪い」

「だからこれからも火守ヤト探し手伝ってね?」


「…………ああ」

 そういうことなら喜んで。

 遠くサイレンの音が聞こえる。

 いまさらながら騒ぎを聞きつけて魔法警察が駆けつけてきたのだ。


「さ、もう帰ろうフーガ君」

 そう言って永久之は俺に手を差し伸べる。


「……ああそうだな、帰ろう、アザカ」

 俺は差し伸べられた小さなその手を、この手でしっかりと握り締めた。

次回最終回。

最後までお付き合いいただけると幸いです。

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