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 電車に揺られること十数分、駅二つ分の隣町へはあっという間に到着した。

 まだ朝早くなのと休日ということもあり、特に混んでるということもなかった。


 目的のケーキ屋は探すまでもなく、すぐに見つかった。

 なにせ改札を出た目の前に店を構えているのだ。

 加えて店の前には開店祝いの大きな花がたくさん飾られている、これで見つけられなければ笑いものだ。


「わ~かわいいお店だね」

 全体的に白を基調とした外観、よく見ると壁は木のようなデザインで、でこぼこがある。

 その壁を伝うようにして生える葉が、店の雰囲気を引き立てている。

 そして何より外から店内が見渡せるような、大きなガラス窓がはめ込まれていて、それによってなんとも入りやすい雰囲気を醸し出していた。


「で、開店は何時からだ?」

 店の前にはまだ<準備中>というプレートがぶら下がっている。


「10時だよ」

「……」

 10時? おいおい今何時だと思ってるんだ。

 腕時計で時間を確認すると、針は8時の少し前を示していた。


 ということは、今から2時間後の開店時間まで待ってろってことか。

 他の店に行って時間を潰そうにも、他の店も大概が10時開店だろう。

 永久之とわのに詳しい時間を聞いたときは特に疑問を抱かなかったのだが……


「じゃあなんでこんな朝早くに来たんだよ」

「だって昨日店の前にいっぱい人が並んでるの見た……じゃなくて聞いたの! 店内で食べようと思ったら早く来て並ばないと、お持ち帰りしかできなくなるでしょ!」

 そう言われてみると俺達が来たときには、既に店前には数人の人がいた。


 まあ確かにせっかく隣町まで来たのに、ケーキだけ買って帰って食べるのも味気ないか。

 そうこうしているうちにも、振り返れば俺達の後ろには結構の人が集まり始めている。

 ゆっくり来て結局長い列に並ぶことを考えたら、朝早くに並んだほうが確実かつストレスもたまらず済むか。


「楽しみだねフーガ君、どんなケーキがあるのかな」

 何よりこうやって永久之と一緒に話しながら並ぶというのも悪くない。


「食いすぎて腹こわすなよ」

 今日の一日は、まだ長い。


 俺達が店の前に並んで何事もないくだらない話をしているうちに、後ろを振り返れば長蛇の列ができていた。

 そのあまりの多さに店は開店時間を大幅に前倒し、8時半になる頃には店のプレートはひっくり返され<オープン>になった。






「あ~どれにしよ~、迷うな~。定番の苺のショートケーキ、チョコケーキにチーズケーキ、あれもこれも……」

 この店はプレートとトングを持ち横にスライドして、並べられたケーキの中から欲しい物を取るという形式であった。

 なので今、永久之の目の前には無防備にさらされた宝石たちが、両手を挙げて誘惑しているのである。


「ミルフィーユにモンブラン、あっタルトなんかもある」

「……おいそんなに買って大丈夫なのか?」

 永久之のプレートには瞬く間にケーキの山ができていた。


「大丈夫だよ、お金はたくさん持ってきたから!」

 いやお金のことじゃなくて、腹の心配をしてるんだが。

 そもそもそんなに食べられるのか?

 そんなことを思っているうちにも、彼女は新たなケーキをその手に掴み取ろうとするのであった。


「お買い上げありがとうございます、ケーキとご一緒にお飲み物はいかがですか?」

 女性店員のよく通った声とともに、営業スマイルが永久之に放たれる。


「あ、大丈夫です」

 永久之、お前はその量のケーキを飲み物なしで食おうと言うのか。


「今なら数量限定で、こちらのマグカップをお付けしますが」

「……う」

 そう言って永久之の目の前に差し出されたのは一つのマグカップ、そのマグカップを見て永久之は固まってしまった。

 なぜならそのマグカップの絵柄が、大好きな猫の絵だったからだ。


「どうした永久之、飲みもの注文しないのか?」

 早くしないと他のお客さんも待っている。


「うぅ……欲しいけど、ケーキでお金なくなっちゃうし……また今度……で」

「期間限定ですがよろしかったですか?」

 なんだよこの店員、せっかく永久之が諦めかけてたのに。


「う~」

「はぁ、じゃあ俺にコーヒー1つください」

 仕方ない俺が飲みもの買って、マグカップをやればいいか。


「これでいいか?」

「いいの? フーガ君」

 たった百数十円で喜んでくれるなら、安すぎる買い物だ。


「ありがとうございます、ではマグカップの種類をA・B・Cからお選びください」

「「え?」」

 再び店員が俺達の前に差し出したのは、3つのマグカップ。

 それはどれも色が違い、絵柄が違った……


「ど、どうしようフーガ君」

 そこでまた永久之は悩んで動かなくなる。

 この店員、わざとじゃないだろうな。


「あぁぁっもう! じゃあコーヒー2つと紅茶1つください!」

「えっ! フーガ君、私そんなにお金持ってないし、そんなに飲めないよ!?」

 何を言ってるんだこいつは……


「俺が金払うし、俺が飲むんだ!」

「お買い上げありがとうございまーす」






 会計を終えた俺達は、店内に備え付けられたテーブルへ腰を落ち着けた。

「ん~おいし~!!」

 永久之は山盛りのケーキをこれでもかというくらい、口いっぱいに頬張った。

 そして目からはビームが出るかというほど輝きを放ち。

 うれしそうに、見てて気持ちいいくらいに、本当においしそうに食べる。


「それはよかったな」

 俺は甘いものがあまり好きではないので、甘さ控えめののチョコケーキを1つだけ買った。

 それを食べるのも忘れ、ついつい永久之に見とれてしまっていた。


「あ、あげないよ!?」

「誰もとらないよ……」

 その小さな体のどこにそんな量が入るのかという量のケーキを、永久之は瞬く間に吸収していった。

 デザートは別腹と聞いたことはあったが、別の腹にも限度というものがあるだろうに。


「永久之、俺こんなに飲み物いらないから、紅茶やるよ」

 俺は永久之の前に紅茶の入ったカップを滑らす。


「いいふぉ?」

 ハムスターみたいにケーキを頬に溜め込み、口の周りにはクリームをいっぱい付けて。


「ああ、いいからもうちょっと落ち着いて食え」

「うん、ありがとう」

 そう言って永久之は一口紅茶に手を付ける。


「苦い……フーガ君、これ砂糖が足りないよ」

「はいはい」

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