26
あれから2日経った日曜日の早朝、俺はいつものように起きるとまずカーテンを開け、大きく伸びをする。
隣の家に永久之が引っ越してきて一時期は中断していた日課だったこれ、結局今では普通に行っているのだ。
「にゃ~ん」
「おはおよう、夜彦さん」
階段を降りリビングへ行くと夜彦さんが顔を上げた。
身だしなみを整え朝食の用意をする、今日も今日とて、メニューはトーストにバターそれと牛乳。
今日はいい感じにトーストが焼けたなと、そんなことを考えながら一口かじる。
昨日俺は、結局本当に何も手伝うことはなかった。
俺が起きたときには永久之は既に家を出ていたらしい、母さんが朝早くに出て行くのを見たと言っていた。
「あれ? フーちゃんおはよう」
「おはよう」
俺がトーストを食べ終わる頃、母がズルズルとスリッパを引きずりながら、眠たそうな顔をして起きてきた。
「今日は早いね」
時計を見るとまだ7時の10分前、休日だというのに平日よりも起きるのが早い。
「ちょっと用事があってな」
「へぇ~」
母は目を鋭く光らせ、何かとてもうれしそうにニヤニヤしながら俺を見つめる。
「なんだよ」
「怪しいな~と思って」
面倒くさいな……いつもなら寝起きは弱いくせに。
だいたい休日に用もなくこんなに早く起きる母さんの方が怪しい。
《ピーンポーン》
そんなどうしようもなかった俺に、助け舟が出されるようにナイスタイミングでインターホンが鳴る。
「あ、誰か来た」
「それじゃあ行ってきます!」
俺は母さんから逃げるようにしてリビングを飛び出した。
「にゃ~ん」
「行ってらっしゃーい」
玄関を出るとそこに待っていたのはもちろん永久之。
「おはよ」
永久之の声で、まだ少し寝ぼけ気味だった俺の意識に思いっきり冷水がかけられる。
「お、おはよう」
俺は目の前にたたずむ彼女の姿に思わず見とれてしまう。
胸元に小さな青いリボンのついた、真っ白のワンピース。
その下にはいた七分丈のデニム。
手には麦わらで編まれたカバンを持っていた。
俺が見とれてしまった理由それは永久之の髪の毛、いつもきれいに整えられえいるが今日は一段ときれいだった。
蜂蜜色でツヤツヤの髪の毛先は、いつもはストレートだが今日はゆるくパーマがかかっている。
「髪どうしたんだ?」
「えっああちょっとね」
そう言って少し恥ずかしそうにモジモジする永久之。
彼女がそうやって少し動くだけで、そして軽く風が吹くだけでもその髪はフワフワと揺れるのだ。
そして髪が揺れ動くたびにほのかに香る永久之の香りは、せっかく覚醒した意識をぼやかしてゆく。
「……きれいだな」
「もー何言ってるのよフーガ君! 恥ずかしい!」
永久之は平手で何度も俺の肩を叩く。
「おい、ちょっ、痛い、痛い」
「にゃ~ん」
「え? 今ニャンニャンの声しなかった?」
確かにした、猫の声というか夜彦さんの鳴き声が。
「にゃお~ん」
「ほら、どこ? ニャンニャンどこ?」
永久之は目をギラギラに輝かせ必死で猫を探している。
夜彦さんが出てこられそうな場所といえば……
「あっいたよ、おーい夜彦さんちゃーん」
「にゃ~ん」
案の定、夜彦さんは家のベランダのふちに座って、俺達を見下ろしていた。
しかし夜彦さんちゃんってどうなんだ。
まあそれはそれでいいとしてだ、夜彦さんがベランダに出てこられるのは窓の開いているとき、つまり母さんが洗濯物を干しているとき、それか誰かが開けてくれたくれたとき。
おかしいと思い俺は、ベランダにつながる窓をじっと見つめた。
すると少し開けられた窓になにやら人影が、その人影は俺と目が合うとあわてて顔を引っ込めた。
「くそ、母さんめ……永久之電車の時間に間に合わなくなる、もう行くぞ」
「え、もうそんな時間? ごめんね夜彦さんちゃん、またねー」
「にゃ~ん」
俺は母さんの影をにらみつつ、永久之は夜彦さんに手を振りながら、徒歩10分程度の駅へと向かった。




