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「悪いな、情けないところを見せてしまって」

「んーん」

 一瞬合った永久之とわのとの視線に、俺は咄嗟に目をそらした。

 ほんのわずかな明かりでもばれてしまうほど、今の自分の目は腫れ上がっていることが分かっていたからだ。


「泣くことは情けないことなんかじゃないよ。人前でそうやって感情を表に出せる人は少ない、だからそれはフーガ君のいいところだよ」

 噛み締めるように話す彼女の言葉は、流れ出て空いてしまった俺の心の穴に、ゆっくりと染み渡って行くようだった。


「やっと答えられたね、フーガ君のいいところ」

「俺のいいところ?」

 そういえば前にそんな話をしたことがあったかもしれない、夕日で真っ赤に染まった教室で、結局彼女は答えられなかった、でもあの時はなかった答えが今ここにはある。


「そう、それにね、何だかやっと心を開いてもらえたみたいですごく嬉しいんだ」

 永久之の顔には、喜びとも、切なさともとれるような表情が浮かんでいた。


 それは誤解だ、俺が開こうと思って開いたわげじゃない、永久之が強引にその身をねじ込んできただけだ。

 それを彼女自身が気付いていないのが、少しおかしかった。


「ハックシュン!」

 唐突に静けさの中に投げ込まれた、大きな音に永久之はその身をビクッと震わせた。





「……」

「ぷっ、はははは――」

 俺はそんな彼女がおかしくて、笑いがこらえきれず、思わず笑ってしまった。




「あははははは――」

 そんな俺の笑いにつられて、永久之も目尻に涙を浮かべるほど笑っていた。




「ふぅ、あーもう笑い事じゃないよ、ホントにびっくりしたんだから」

 ひとしきり二人で笑いあったあと、永久之は目を拭いながらそう言った。


「悪い悪い」

「誰かに噂でもされてるんじゃない?」

 俺の悪い噂くらいならいくらでも流れてそうだが、今日この日一番有力なのは……


「永久之、テッタはどうした」

「そうなんだよテッタ君には悪いことしちゃった、次会ったときちゃんと謝らなくちゃ」

 幸いパレードは一人でも出れるが、なにせ二人でやる予定で作ったパフォーマンスだったのだろう、何よりテッタは永久之と一緒にやりたかったのだ。


「練習頑張ったんだけどな」

 永久之は申し訳なさそうに、そして残念そうに顔を歪めた。


 そうだそれが一番もったいない、一週間のほとんどをかけて練習していたのだ、それをやらずに終わるというのは不完全燃焼もいいところだ。

 でもさすがに今から行ってももう遅いだろう、逆にテッタに迷惑がかかるかもしれない。


「そうだ!」

 俺がそんなことを考えていると、永久之が何かを思いついたようにポンっと手を打った。






「ちゃんと見ててね」

 永久之が思いついたこと、それはパレードを家の前でやるということだった。


 彼女はそれを俺に告げると、俺の言葉など一切聴かず立ち上がり、強引に俺をベットから引き起こした。

 そして俺は永久之に無理やり手を引かれ、落ちそうになりながら階段を駆け下り、靴もまともに履かないまま外に連れ出された。


 そんなこんなで今、夜になってもまだ熱気の残ったアスファルトの上に座らされている。


 見上げた夜空に煌く星たちはもう涙を流してはいないし、月が俺の心を切りつけることもなかった。


「それじゃあ、いっくよ~!」

 そう言って永久之は全身に真っ赤な炎をまとった。

 そして小さな花火みたいな爆発を無数に作り出し、指先からは大小さまざまな魔方陣を描き始める。


 辺りには色鮮やかな火花が飛び散り、魔方陣は七色の光を放ち夜空に咲き誇る。

 暗かった家の前はいっきに明るく、そして賑やかになった。


「はははっ、どうすごいでしょっ!」

 まるで幼い子供のように、楽しそうに跳んではしゃぎ、くるくるとその身を躍らせる永久之。


 俺は腫れてしまったまぶたを隠すのも忘れ、その輝きに、その姿に見入ってしまった。


 でも俺は、永久之が作り出すいくつもの炎の花や、美しい虹色の魔方陣なんてまったく目に入っていなかった。


 俺が見ていたのは、永久之の生み出した光に照らされ、いろいろな色に輝く彼女の笑顔だったからだ。


 自分でもなぜだかわからない、でも俺の視線は彼女に張り付いて離れようとしなかったのだ。


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