17
俺はしばらく息を整え、落ち着いてから建物の中に入った。
体育館とほとんど変わらないその建物の中には、既にたくさんの生徒や一般人が避難していた。
「ようフーガ遅かったな、心配したぞ。何かあったのか?」
入口のすぐ横で座っていたテッタに声をかけられる。
「悪い、ちょっとな……」
そう言って俺もテッタの横に座り込む。
「ちょっとってお前、怪我してんじゃねえか」
テッタは訝しげに俺の顔と手を見つめた。
「そんなことより、どうして結界内にアンクルが現れたんだ?」
さっき放送が入っていたような気がするが、正気じゃなかった俺には、聞く余裕などなかった。
「なんでも、手違いで結界が解けちまったんだと」
「手違い?」
「そう、それで、結界のせいで入れなくて、溜まっていたアンクルがドバっと」
テッタは両腕を高く掲げて円を描いた。
「でもいつもの結界は解けてなかったからな、幸い入って来たのは弱いアンクルだけだったみたいだぞ」
俺は辺りを見渡したが、そこに永久之の姿は見えなかった、きっとグラウンドで戦っているのだろう。
しかし彼女の代わりに俺の視界に入る人影が三つ。
「よう火守じゃねえか」
それは3人とも同じ髪型をした、よく俺に絡んでくる例の3人組だった。
お行儀よく横一列に並んで、この建物の中を足を広げて歩き回っているのである。
パトロールでもしているのだろうか、そうだとしたらご苦労なことだ。
「ホントだ火守だ」
「お前また逃げてきたのかよ」
「「「ダッセー」」」
3人は一斉に、まるで打ち合わせでもしていたかのようにそう言った。
「……」
俺はいつも通り何も言わずに睨みつける。
「なんだよまた無視かよ」
「お高くとまっちゃって」
「仕方ないって、なんたってあのお方の息子なんだから」
そう言って彼らは手を叩き笑い出す。
「お前らだって逃げてるじゃねえか」
いつまでも何も言わない俺の代わりに、テッタが声を上げた。
そんなテッタの言葉に笑うのをやめた3人。
「俺たちはいいんだよ、まだ3年だし、普通の親から生まれたからな」
「そうそう、それに俺たちには伸びしろがあるけど、そいつまず魔力ないじゃん」
「ホント、世界最強の息子がこれなんて、とんだ笑いものだぜ」
より一層馬鹿にするような口調で、そう言う彼ら。
そんな言葉を聞いても俺は何も言わない、だたひたすらに睨みつけるだけ。
俺は分かっている、こういう奴らには何を言っても無駄だということを。
だが隣の親友は違った。
「お前ら言わせておけば!!」
その声には凄まじい怒気が孕んでいた。
そしてテッタは真っ赤な魔力の炎をその身にまとい、立ち上がろうとする。
「待てテッタ」
俺はそんなテッタの腕をつかみ、彼を止める。
「止めんな!」
しかしテッタは振り返ることもせず完全に腰を浮かせ、3人に殴りかかろうとする。
「落ち着け」
俺も立ち上がり、テッタの腕を必死で押さえつけた。
「ここまで言われて落ち着いてられるかよ!」
しかしさらに魔力の炎を放出し、俺の手を振り払おうとするテッタ。
「おいテッタ!」
「なんで止めるんだよ!」
テッタは俺に向かってそう叫んだ。
きっと彼は、3人組にも怒っているのだろうが、何も言わない俺にも怒っているのだろう。
「好きに言わせておけばいい」
俺は大きく深呼吸をして、振り返るテッタにそう言った。
その瞬間テッタは魔力の放出をやめた、そしてその目は怒りではなく、悲しみの色に変わった。
「言わせておけばいいってお前……ここまで言われて悔しくないのかよ」
俺は無言で首を振る。
他人に何か言われることには、とうの昔にもう慣れた。
何か言われて、怒ったり、悲しんだり、悔しがったりするのはもうやめたんだ。
「な、なんだよお前ら二人でカッコつけやがって」
「おおお、俺らは別にやってもいいんだぜ、なあ?」
「ええ!? 俺? ま、まあやるって言うんならやっても……」
辺りを見渡すと、避難していた他の人たちもこの騒ぎに気付いたらしく、こちらに視線を向けている。
建物の中は静まり返っていた。
そんな小さな足音でさえも聞こえそうな中に、スピーカーのノイズ音が投げ込まれる。
そして、校長のものだろうか、男の少ししゃがれた声で放送が流れる。
内容は、アンクルをすべて討伐したこと、結界をはり直したこと、競技を再開するのでグラウンドに集れということなどだった。
その放送を聞いて3人はこの期を逃すまいと、素早く立ち去った。
この後は予定通りの進行が進み、普通に競技が行われた。
俺は大縄を飛んだし、永久之はリレーに出た、テッタも午後からは休む暇もなく競技に出場していた。
幸い今回のことでけが人はなく、怖がって帰るものもいたが、一般の観客数はほとんど変わりなかった。
テッタにはせっかくの体育祭なので、避難場所での出来事は忘れて楽しんでくれと頼んだ。
彼は渋々だったが、お前が言うなら仕方がないと了承してくれた。
テッタはその後、本当に何事もなかったかのようにはしゃぎ、楽しんでいた。
俺も普段ではありえないくらい笑い、楽しんでいたと思う。
そうして何事もなくすべての競技が終わり、結果俺たち黄チームは見事優勝をした。




