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 俺はしばらく息を整え、落ち着いてから建物の中に入った。

 体育館とほとんど変わらないその建物の中には、既にたくさんの生徒や一般人が避難していた。


「ようフーガ遅かったな、心配したぞ。何かあったのか?」

 入口のすぐ横で座っていたテッタに声をかけられる。


「悪い、ちょっとな……」

 そう言って俺もテッタの横に座り込む。


「ちょっとってお前、怪我してんじゃねえか」

 テッタは訝しげに俺の顔と手を見つめた。


「そんなことより、どうして結界内にアンクルが現れたんだ?」

 さっき放送が入っていたような気がするが、正気じゃなかった俺には、聞く余裕などなかった。


「なんでも、手違いで結界が解けちまったんだと」

「手違い?」

「そう、それで、結界のせいで入れなくて、溜まっていたアンクルがドバっと」

 テッタは両腕を高く掲げて円を描いた。


「でもいつもの結界は解けてなかったからな、幸い入って来たのは弱いアンクルだけだったみたいだぞ」

 俺は辺りを見渡したが、そこに永久之とわのの姿は見えなかった、きっとグラウンドで戦っているのだろう。

 しかし彼女の代わりに俺の視界に入る人影が三つ。


「よう火守ひのもりじゃねえか」

 それは3人とも同じ髪型をした、よく俺に絡んでくる例の3人組だった。

 お行儀よく横一列に並んで、この建物の中を足を広げて歩き回っているのである。

 パトロールでもしているのだろうか、そうだとしたらご苦労なことだ。


「ホントだ火守だ」

「お前また逃げてきたのかよ」


「「「ダッセー」」」

 3人は一斉に、まるで打ち合わせでもしていたかのようにそう言った。


「……」

 俺はいつも通り何も言わずに睨みつける。


「なんだよまた無視かよ」

「お高くとまっちゃって」

「仕方ないって、なんたってあのお方の息子なんだから」

 そう言って彼らは手を叩き笑い出す。


「お前らだって逃げてるじゃねえか」

 いつまでも何も言わない俺の代わりに、テッタが声を上げた。

 そんなテッタの言葉に笑うのをやめた3人。


「俺たちはいいんだよ、まだ3年だし、普通の親から生まれたからな」

「そうそう、それに俺たちには伸びしろがあるけど、そいつまず魔力ないじゃん」

「ホント、世界最強の息子がこれなんて、とんだ笑いものだぜ」

 より一層馬鹿にするような口調で、そう言う彼ら。


 そんな言葉を聞いても俺は何も言わない、だたひたすらに睨みつけるだけ。

 俺は分かっている、こういう奴らには何を言っても無駄だということを。

 だが隣の親友は違った。


「お前ら言わせておけば!!」

 その声には凄まじい怒気が孕んでいた。

 そしてテッタは真っ赤な魔力の炎をその身にまとい、立ち上がろうとする。


「待てテッタ」

 俺はそんなテッタの腕をつかみ、彼を止める。


「止めんな!」

 しかしテッタは振り返ることもせず完全に腰を浮かせ、3人に殴りかかろうとする。


「落ち着け」

 俺も立ち上がり、テッタの腕を必死で押さえつけた。


「ここまで言われて落ち着いてられるかよ!」

 しかしさらに魔力の炎を放出し、俺の手を振り払おうとするテッタ。


「おいテッタ!」

「なんで止めるんだよ!」

 テッタは俺に向かってそう叫んだ。

 きっと彼は、3人組にも怒っているのだろうが、何も言わない俺にも怒っているのだろう。


「好きに言わせておけばいい」

 俺は大きく深呼吸をして、振り返るテッタにそう言った。

 その瞬間テッタは魔力の放出をやめた、そしてその目は怒りではなく、悲しみの色に変わった。


「言わせておけばいいってお前……ここまで言われて悔しくないのかよ」

 俺は無言で首を振る。

 他人に何か言われることには、とうの昔にもう慣れた。

 何か言われて、怒ったり、悲しんだり、悔しがったりするのはもうやめたんだ。


「な、なんだよお前ら二人でカッコつけやがって」

「おおお、俺らは別にやってもいいんだぜ、なあ?」

「ええ!? 俺? ま、まあやるって言うんならやっても……」

 辺りを見渡すと、避難していた他の人たちもこの騒ぎに気付いたらしく、こちらに視線を向けている。


 建物の中は静まり返っていた。

 そんな小さな足音でさえも聞こえそうな中に、スピーカーのノイズ音が投げ込まれる。


 そして、校長のものだろうか、男の少ししゃがれた声で放送が流れる。

 内容は、アンクルをすべて討伐したこと、結界をはり直したこと、競技を再開するのでグラウンドに集れということなどだった。

 その放送を聞いて3人はこの期を逃すまいと、素早く立ち去った。






 この後は予定通りの進行が進み、普通に競技が行われた。

 俺は大縄を飛んだし、永久之はリレーに出た、テッタも午後からは休む暇もなく競技に出場していた。


 幸い今回のことでけが人はなく、怖がって帰るものもいたが、一般の観客数はほとんど変わりなかった。


 テッタにはせっかくの体育祭なので、避難場所での出来事は忘れて楽しんでくれと頼んだ。

 彼は渋々だったが、お前が言うなら仕方がないと了承してくれた。

 テッタはその後、本当に何事もなかったかのようにはしゃぎ、楽しんでいた。

 俺も普段ではありえないくらい笑い、楽しんでいたと思う。


 そうして何事もなくすべての競技が終わり、結果俺たち黄チームは見事優勝をした。

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