1.村娘の憂い
「レーティーシアー♪ 結婚しよう」
白銀の髪の青年は、とろけるような笑顔を少女に向け、弾む声で言った。
「……また来たんですか。お断りです」
紅の髪の少女は呆れたように素っ気ない態度で返す。
「はぁ〜、今日もつれないな〜。しかし、そんなつれない態度もたまらなく愛しい」
青年は少女の素っ気ない態度にもめげず、変わらない笑顔を振り撒いている。
「……毎日毎日、よく飽きませんね……このロリコン」
少女は残念な者を見るような目付きを青年に向け、態度は相も変わらずといったところだ。
鮮やかな紅の髪を後頭部の頂きで一つに束ね、少し吊り目がちな気の強そうに見える胡桃色の薄茶色い瞳を持つ少女レティシアは今年で13歳になる。
対する青年は、白銀の髪に紫色の瞳で色白く整った顔つきをしている。外見年齢は25歳位で、所謂白せきの美青年といったところだろうか。
大人と子供……というか幼女を口説く青年は端から見れば立派な変態、ロリコンだ。
少女が毎日というように、ここ最近この村では青年が日毎訪れ少女に求婚する様は日常的に繰り広げられ、習慣となりつつある光景であった。
このミルテ村は、大きな街へと続く街道が一本あるのみで、森に囲まれた長閑な田舎といった趣のある村である。村人達は、畑を耕して野菜を作り鶏や牛などの動物を飼ったり、森で狩りなどをして生活している。
「愛に年の差など関係ない。愛した者が偶々年若い少女だっただけで、それに私からして見れば―――」
「いい加減しつこいですよ! 私はこれから仕事で森に薬草を取りに行かなくちゃならないので、これ以上構わないで下さい」
少女は怒った顔をして青年の言葉を途中で遮る。
「怒った顔も可愛いな。お嫁さんに来れば私が養ってあげるから君は無理して働かなくてもいいんだよ。だから結婚しよう!」
しかし青年はそれには取り合わず、笑みを更に深めて尚も続けてくる。
それに少女は付き合ってられないとばかりに溜め息を吐き、踵を返そうとした。
だが、青年は少女を逃がすまいと少女の腕を掴み、己の腕の中へと引き寄せた。
「っ!? ……ちょっと! 人の話を聞いてないでしょ!」
少女は突然の抱擁に一瞬困惑するも、遣るべき事があるので青年の腕の中から抜け出そうともがく。そんな少女の耳元に青年は唇を寄せ囁いた。
「邪魔してゴメンね。でも、いくら君が竜の加護を持っているとはいえ、森の中へ一人で行くのは魔物が出る可能性もあるし危険だよ。だから、私もついて行こう……竜殺しの娘レティシアよ」
青年はそう囁くと、少女からそっと身体を離す。少女に向かい合う青年の顔には、少し意地の悪い笑みが浮かんでいた。