12.手料理4
先ずは、チキンブイヨンを作りながら他の料理に取り掛かるとしましょう。
鶏ガラの内蔵を取り除いて洗い深鍋に入れ、鶏ガラが浸る位に水を入れて強火で沸騰するまで待つ。
沸騰するのを待っている間に川魚は腑を取り除いて頭を取り、三枚に下ろして捌いておき、今日使わない切り身は冷室に入れて保存しておく。
牛肉の固まりをフォークで数ヶ所刺して味を染み込みやすくしてから濃いめの塩水につけておく。
そうしている間に鍋が沸騰したので火を弱めて、灰汁を取り除いて玉ねぎは皮を剥いて丸ごと・セロリ・パセリの茎・にんにく・ローリエ・人参などの香味野菜を入れて、鍋底から静かに沸き上がってくる程度に火を調節し、塩を一摘み入れ、浮いてくる灰汁をこまめに取り除きながら一時間半位煮出していく。
鍋の様子を見ながら、牛肉を塩水から引き上げて水気を布で包んで拭き取り、胡椒・摺り下ろしたにんにく・ハーブを擦り込むように塗り、フライパンで全面に軽く焼き目をつけてから、天板にのせ竈で10〜20分焼く。焼いた後は串で中が程良く焼けているか確認し、焼いて出た肉の煮汁は小鍋に取り置きして、焼いた肉はそのまま余熱で更に火を通す。
ブイヨンを一時間半煮出したら、ボールの上に目の細かい網に布を被せてその濾し器に煮出したスープを濾過させて、黄金色の澄んだブイヨンスープが完成した。
スープが完成すると外はすっかり日が傾き、もうすぐ夕焼け空に染まる頃になっていたので、慌てて洗濯物を取り込む。
洗濯物を畳んでそれぞれの部屋に運び、夕食の支度を再開した。
次は、ベーコンとトマト・玉ねぎ・人参・キャベツ・ジャガイモ等の野菜を1〜2センチ位の賽の目状に切り、にんにくはみじん切りにしておく。鍋にオリーブオイルをひき、香りが出るまでにんにくを炒めたら、ベーコンをカリカリ手前まで炒め、ジャガイモ以外の野菜を入れてしんなりしたら、ジャガイモ・ブイヨンスープを入れて蓋をして弱火〜中火で15〜20分煮る。ジャガイモに火が通ったら火を止め、塩胡椒で味を整えるとミネストローネが出来上がった。
冷ました牛肉は薄くスライスして皿に盛り付け、肉の煮汁を入れていた小鍋に赤ワインを入れて火にかけ、アルコールを飛ばす。そして、蜂蜜・ウースターソース・酢・トマトソースを加えて更に火にかけ、それを盛り付けた牛肉にかける。
捌いて置いた川魚に塩胡椒をふり、フライパンで焼いたら取り出して身を解しておく。
玉ねぎを半分にして輪切りにし、茸は石突きをとって小房に分けて洗う。
そして、フライパンでそれを炒めようとした時、家の扉を数回叩く音と呼び声が聞こえたので、調理を一時中断して玄関先に向かう事にした。
玄関の扉を開けると、外は夕闇に包まれつつあり、其処には色とりどりの花束を抱えたブランの姿があった。
「こんばんわ、レティシア。今日は御馳走になります。この花束は私の為に手料理を振る舞ってくれる君への感謝の気持ちなんだけど、受け取ってくれる?」
ブランはそう言うと花束を私に差し出して来た。色彩豊かな美しい花々は目を楽しませるだけでなく、甘くとても良い薫りがしてくる。
しかし、助けてくれた御礼に手料理を御馳走する事になったのだから受け取る理由がない。こんなに綺麗な花束を理由もなしに受け取ってしまっていいのだろうか?
レティシアは、花束を受け取る事を躊躇っていた。
「折角こんなに美しい花が、誰にも愛でられることなく枯れてしまうのは勿体無いと思わない? 私では直ぐに枯らしてしまうよ。そうだね、今朝怒らせてしまったお詫びだと思って、ね?」
躊躇う彼女の様子を見かねたブランは、こう言って片目を瞑り微笑んで見せる。
確かにそういうことなら受け取ってもいいだろう。花束を受け取らないという事は、悪人ならばともかく、許しを請う者の謝罪を受け取らない事は、レティシアにしてみれば有り得ない事だった。それに、花に罪はない。折角こんなに美しく咲いたのだ。世話もされずに直ぐ枯らしてしまうのは惜しい。
そうブランに上手く言いくるめられたことには気付かず、レティシアはその花束を受け取る事にする。
「そういうことなら受け取るわ。有り難う、後でお部屋に飾らせて貰うわね」
そうして、ブランを家の中へと招いた。
「まだもう少し時間がかかるから、椅子にでもかけていて。そろそろお婆ちゃんも仕事を終わらせてくる頃だから、二人で話でもして待っていてね」
そう言い終えると丁度、祖母が来たので後の事は任せることにする。
私は、受け取った花束をきちんと飾るのは食事の後にすることにして、花瓶に水を入れてそのまま差し私の部屋へと運んだ。
その後、台所に戻って調理を再開した。
フライパンにバターを溶かし、玉ねぎと茸を炒める。火が通ってきたらブイヨンスープを入れ、其処に乾燥したままのパスタを投入する。水分が少なくなり、パスタは芯が少し残る位までそのまま煮込んだら、火を弱めて小麦粉を入れて混ぜ合わせる。牛乳と焼いて解しておいた川魚を入れて少し火を強めて、とろりとなったら塩胡椒を加えて好みの味に仕上げる。
スープとパスタをそれぞれの器に盛り付けて、夕食が出来上がった。
盛り付けた物を食卓に運ぶと、既に席についていた二人は談笑に興じていた。
「お待たせしました。飲み物は何にする?」
そう談笑している二人に問い掛けると、昨日でお酒は懲りたのか、それとも流石に二日連続で飲み明かすのは拙いと思ったのか、二人共「水で」と答えたので、コップに水差しから水を注いでから、私も食卓についた。
食事の前に、今日一日の無事と大地の恵みに感謝する祈りを捧げ、それから食事を開始した。
食卓を彩るのは燭台の蝋燭の炎と日が暮れて少し冷えてきたので、薪を焼べられた暖炉の灯りのみ。
魔法で光球を作り出したり魔法石によって明るくする事も出来るが、魔法は多少なりとも魔力を消費し魔法石は希少なので、普段は極力使わない。夜間の部屋ではランプを使用している。
ブランは満足してくれたようで始終にこやかに食事をしていた。
私も祖母も普段はもっと質素な食事で、今日は御礼な為もあり、いつもより豪勢な食事を充分に堪能したのだった。
夕食を食べ終わり、食器を下げ、食後の紅茶と共に先程密かに焼いておいたパンプキンパイを切り分けて出す。
かぼちゃそのもののほんのりとした優しい甘み、パイのサクサクとした食感と香ばしさは私の大好物であったりする。
大好物を食べながら、朝や先程の夕食の際にも気付いていたが、ブランのテーブルマナーは優雅さを感じさせる程丁寧なものである。一体何処でそんなことを覚えたのだろうか?と、少し疑問には思ったが口に出しはしなかった。
そうして、いつもより豪勢な食事とデザートを食べ終わると、彼が帰るので見送りに玄関先へと共に向かう。
玄関の扉を開け、彼は笑顔を浮かべて此方へと振り返る。
「今日は御馳走様でした。とても美味しかったです。レティシアはいいお嫁さんになるね。じゃあ、また明日」
そう言って、不意に私の左頬に軽く口付けをして彼は手を振りながら去って行く。その顔には、とても満ち足りた笑顔が浮かんでいた。
不意を衝かれた私は、暫し唖然とし、気付いた時には彼の姿はかなり遠ざかっていた。
「ちょっ、調子にのるんじゃないわよー!」
既に遠ざかっていた彼の背中にかけた私の非難の声は、ただ虚しく夜空に消え行くのみであった。
調理内容の説明は不要かと思いつつも変な拘りで書くことにしましたが、くどいでしょうかね?
拙い作品ではありますが、読んで下さった皆様、お気に入り並び評価して下さった方々、誠に有り難う御座いました。




