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9.手料理1

 魔物騒動から一夜明けて翌日。村の中は、昨日の喧噪が嘘であるかのように静けさに包まれている。


 昨夜は疲れもあって、酒を酌み交わす祖母やブラン・村人達を置き去りにして早々と就寝したレティシアは、夜明けと共に目を覚ました。

 朝方の程良く冷えた空気が部屋の中を満たしている。レティシアはベッドから身体を起こすと、少し肌寒さを感じながらも欠伸をしながら身体を伸ばす。

 寝間着から動きやすい濃い赤紫色(ワインレッド)のズボンと薄桃色のフレアシャツを着た普段着姿に着替えを済ませる。外で作業をする際はこれに若草色の前掛けをし、スカートといった年頃の女の子が着るような服装は、普段は動き辛いのであまり好んで着はしない。

 閉じていた窓を開け、外の様子を窺えば、家の外は朝霧が立ち込めていてぼんやりとした村の風景が広がっていた。

 今日もいい天気になりそうだ。そう思いながら、今日は患者さんもいる事だしいつもよりは忙しくなりそうな一日の始まりを開始するべく、先ずは身嗜みを整えることにした。


 近くにある小さな鏡の備え付けられているテーブルの椅子に腰掛け、櫛で髪を梳き、いつものように後頭部の頂きでその髪を髪紐で一つに纏める。

 洗面桶に水を張って顔を洗うと、身が引き締まるような思いになり、未だ覚醒には至っていなかった頭が目を覚ました。

 そうして身嗜みを整えると、本格的に朝日が昇り、霧の掛かっていた外は少しずつ靄が晴れていき、煌々と日の光を注ぐ眩しい太陽が辺りを照らし始めていた。


 先ずは、昨晩酒盛りが行われていた居間の後片付けだ。

 酒を注いでいた木製のコップを台所へ片付け、テーブルを拭き、箒と雑巾で床を掃除する。それが終わったら、台所に持っていったコップを洗い、逆様にして置き水を切る。


 昨晩の後片付けを終えると、朝食用のパン生地をこねて暫く寝かせておくことにする。

 生地を寝かしている間に、畑の野菜を収穫したり水遣りを行い、鶏の卵を収穫したり、牛から手搾りで乳を搾っておく。収穫した野菜は汚れを落とす為、軽く水洗いしてざるに上げて水切りをした後、お裾分け用と朝に使う物は別にして、卵や牛乳と共に直ぐに使わない物は、台所の一室にある冷却魔法陣が描かれ物を一定の温度に冷やすことの出来る室に入れて保存する。

 この冷室は、どこの一般家庭にでも在る訳ではなく、冒険者をしている両親が諸国を巡り身につけた知識を基にして作ってくれた物だ。加工して保存する事も可能ではあるが、牛乳そのものや卵といった生物はそのままにしておけば傷み易いので、長期保存の出来る冷室はとても重宝している。


 そうこうしている間に、寝かしていたパン生地が程良く膨らんだので、ガス抜きをして少し置いた後、焼き上げる形にパンを成形して天板の上に置き、固く絞った濡れ布巾を被せて少し膨らむまでまた暫く置いておく。


 今度は、お裾分け用の野菜や卵・バター等の加工製品を手提げ籠につめて、ご近所さんに持って行き、その代わりに別な食べ物と交換し、其処でたわいない会話をしたりして少しの間過ごす。

 このような小さな村でのご近所付き合いというのはとても大切な事で、私達は日々こうやって、お互いには無い物を交換し合い補い合って生活している。たまには喧嘩をする事もあるが、まるで村全体が一つの家族のようなものなのだ。

 だから、昨日のような騒ぎがあれば皆が心配したり、喜びを分かち合ってくれる。


 お裾分けという物々交換が終了して家に戻ると、朝食の準備に取り掛かる。

 被せていた布巾を取り去り、多少膨らみを帯びたパン生地に卵を溶いた物を表面に塗り、火をくべた竈に天板ごと入れ焼く。

 パンを焼いている間に、おかずの準備をする。

 洗ったリーフレタスを手で千切り皿に盛る。

 次に、ボールに卵二個を割り入れ、砂糖・塩・牛乳を加えて溶きほぐす。フライパンを熱して、バターを溶かしながら溶きほぐした卵をそこに入れ、半熟状になるまでかき混ぜていき、半熟状になったら手前に折るようにしながら木の葉の形にまとめて、皿に盛りつければふわとろプレーンオムレツの完成。

 更に、先程戴いた豚肉を塩漬けにして燻製にした物(=ベーコン)をフライパンでさっと焼き、先程の皿に盛り付ける。

 そうして、人数分のおかずを同じように作って行く。

 パンが焼き上がり竈から出すと、芳ばしい香りが広がって辺りに漂い、その匂いに釣られたのか祖母とブランの二人が起きてきた。


 今日の祖母の目覚めは、昨晩お酒を飲んだ為か何時もより遅い。祖母のデボラは、赤茶色の癖のある髪を左肩で緩く束ねて、まだ眠そうな新緑色の眼を擦りながら「おはよう」と声をかけてきた。

 濃紺色のズボンに緑色のシャツをその身に纏い、此方も動きやすさ重視のスタイルだ。私の服のセンスは祖母に似たのかもしれない。そんな祖母デボラの外見は、もう60歳を越えたというのに、まだ40歳代後半に見える若々しさを保っており、姉御肌のすらっとした美人で知らない人が見れば親子と間違われそうである。

 一方、ブランはというと、いつもは其れなりに整えている身嗜みを着崩し、シャツの胸元をはだけさせ、その隙間から肌が見え隠れしている様は、だらしがないというよりも……大人の色気みたいのを醸し出していて何だか艶めかしい。

 ……何なんですかね、その女顔負けの無駄な色気は! と、悔しさを噛み締めつつも、そのさらさらなストレートの白銀の髪は寝癖で跳ねている箇所が所々あり、ちょっぴり可愛らしくも思える。

 そして、ブランも祖母と同様少し眠そうな顔をしながらも満面の笑みでもって朝の挨拶をしてきた。


「おはよう、レティシア、デボラさん」


 そんな二人に応えるように、私も笑顔でこう返す。


「おはよう。もうすぐ朝食が出来上がるから顔を洗って来てね」


 そうして二人が顔を洗いに行っている間に、パンを籠に載せ、オムレツには少し酸味の効いたトマトソースをかけ、木製のコップに朝方搾ったばかりの牛乳を注いで、ナイフとフォークをそれぞれテーブルに置けば準備完了です。


 朝食の準備が整うと、丁度二人が戻ってきたので、ちょっと遅めではありますが早速朝食にしましょう。



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