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魔法大国の花嫁様!?  作者: ルナ
決意する少女
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第七幕 ~告白される少女~

 相沢美冬あいざわみふゆは、スミレの香りで目覚めた。

ベッドのシーツにしみ込ませる香料は、日によって違うらしい。

「おはようございます、ミフユさま」

 にっこりと笑ってあいさつしたのは、オリヴィアだった。

「おはよう、オリヴィア。テレーズとマリオンは

今日はいないのね」

「はい、お客様がいらしているようなので、接客要員

として行ってしまったのですわ」

 オリヴィアははきはきした声で美冬に事情を話した。

話しながらも作業をしていて、朝の紅茶が乗ったトレイ

をティーテーブルに並べている。

 今日のお茶は甘いミルクティー。お茶受けは、

ごまのような粒がたくさんちりばめられた、クッキー

にもビスケットにも見えるお菓子だった。

フランジェールのお菓子らしい。

「〝クリルア〝です。とても甘いですよ。

星の粒がかかっています」

「星の粒!? 星って食べられるの!?」

「あ、ごめんなさい。星の粒っていうのは、

ミフユさまの世界で言えば、サトウですわ」

 美冬はお菓子を一つ取ると、かじってみた。

 ふわり、サクサク、カリカリ……。

 本当にふしぎなお菓子だった。中はふんわり

外はカリカリ、感触はサクサク。

 今まで食べた何よりも、甘かった。

「おいしい……」

「それはよかったです」

 もうひとつ、もうふたつ、もうみっつ、と

あまりのおいしさに、美冬はお菓子の皿を

すべてカラにしてしまった。

 しまった、と思ったが、気に入っていただけて

嬉しいです、とオリヴィアが笑っているので、

美冬はホッとした。怒られるかもしれないと

思ったのだ。美冬は、なかなかあの世界での

癖が抜けなかった。

 と、その時。

 扉がふっとんだ。文字通りふっとばされ、

壁にガツン、とぶつかったのだ。

 美冬は目を大きく見開き、オリヴィアは

呆れたように肩をすくめた。

「フィレンカ姫、おてんばもほどほどに

なさいませ。ミフユさまが驚いておられますわ」

 てへっ、と壁をふっとばした犯人である

おてんば姫は、舌を出しておどけてみせた。

「ごめんなさい、お姉さま。つい扉を壊しちゃった。

でもね、あたし、早くお姉さまとお話したかったの」

「お姉さま?」

「あなたお兄様と結婚するんでしょう? だったら

お姉さまじゃないの!!」

 親しそうな笑顔を向けられ、美冬は戸惑った。

この子の顔には、少しも邪気はない。

 本気で自分と仲良くしたいと思っているようだった。

「カインお兄様はね、とってもやさしくてカッコイイの!!

 きっと、お姉さまもすぐ好きになるわ!!

女の人で、お兄様が嫌いっていう人私知らないもの!!」

 きゃらきゃらと笑いながら、フィレンカはオリヴィア

が入れてくれたミルクティーを飲み始めた。

 かなり〝星の粒〝をカップに放り込んでいる。

 甘すぎないかしら、と美冬は思った。

 ペラペラとしゃべりまくる姫に、美冬が弱冠

引いていたその時、また来客が襲来した。

「ミフユお姉ちゃん、久しぶり~」

「ミー!! これからこの城で俺達働くことに

なったんだ!!」

 鳥少女セイレーンのシーレーンと、

狼男ウェアウルフのルーがそこにはいた。

「シーレーン!! ルー!! 会いたかったわ!!」

「あたしも会いたかったよ!!」

「でも、二人とも家に戻ったんじゃなかったの?」

「一度戻ったけど、ミーには世話になってるし、

恩を返したいと思ってここに来たんだ!!」

 四人はすっかり意気投合し、美冬は少しためらいながらも

普通に話すことができるようになっていた。

 次々とお菓子とお茶が運び込まれる。

 お菓子とお茶があらかたなくなった時、

王子づきのメイドだというナナが、美冬を訪ねてきた。

「我が主がおよびです、ミフユさま」

「王子が、私を呼んでいるの?」

「はい」

 美冬はナナに案内され、カインがいる場所へとやってきた。

 そこは、色とりどりの花が咲いた裏庭だった。

「では、私はこれで」

 ナナは帰ってしまい、二人きりになる。

「ミフユ、手、出して」

「え?」

「いいから!!」

 おずおずと美冬が手を差し出す。

カインは笑顔でその手を取り、美冬の体が宙に浮いた。

 空中にそのまま制止する。

 カインの魔法の力だった。

「すごーい、私、空に浮いてる!!

 こんなの初めてだわ!!」

「気に入ってもらえてうれしいよ」

 カインはにっこりと笑った。

美冬も笑い返す。が、次の瞬間

彼の顔が厳しいものになった。

「ミフユ。もう二度とあんなことしないでね。

君が死んだら、ボクもフィレンカも、

みんな悲しむからね!!」

「ごめんなさい……」

「なんで、君は逃げたの?」

 美冬は深呼吸をしてから、顔を上げた。

もう逃げない。そう決めた。

「私じゃ、あなたを幸せにできないって

思ったの。私より、あなたにはふさわしい

人がいるって」

「そんなことない。ボクは君が好きなんだ!!」

 カインは美冬の体を強く抱きしめた。

彼女の顔が赤く色づく。

「ボクのことが嫌いでもいい!! この世界が

好きじゃなくていい!! 元の世界で幸せに

なれないなら、ずっとここにいてよ!!」

「カイン……」

 美冬の目から真珠のような涙がこぼれる。

 彼と長い長いキスをかわしながら、

彼女はもう二度と何があってもいなくなったりはしない、

と心に誓った。




「なによ、あの女、あんなに王子にくっついて……!!」

 一人の少女が、憎々しげに彼女を見ていることに、

二人は気づいていなかった。


美冬とカインが結ばれます。

ですが、そう簡単には

幸せになりませんよ。

彼女には、まだまだ

試練が残っているので。

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