第六幕 ~救出される少女~
相沢美冬は、いきなり壊された壁に
ぼうぜんとしていた。目には涙をためたまま、第五王子、
カインを見ている。カインの方は、すぐさまそこに足
を踏み入れ、彼女に抱きしめられた狼男の
少年と、泣きわめく鳥少女の少女を見ていた。
「女神の慈悲によりて、彼の者たちを癒せ……モント!!」
銀色の光が周囲にあふれていく。
みるみるうちに、彼らの傷はあとかたもなく消えていった。
コロン、と少年の体内にあったハズの銀塊が、その場に
転がって行った。
「ルー!! シーレーン!! 大丈夫!?」
「う……オレ、どうなったんだ……?」
「いたくない!! いたくないよ!!」
ルーは自分に何が起こったかわからない様子だったが、
シーレーンは治った翼でピョンピョンと跳ねまわった。
「ありがとう、カイン。二人を助けてくれて……」
「どういたしまして。……よかったよ、君が無事で」
にこりと笑われ、美冬の顔に朱が差していった。
カインが美冬の手を取り、彼女を助け起こす。
二人の距離がしだいに近づいていき、ルーが慌ててシーレーンの
目を手でふさいだ。彼女が暴れ、ルーごと空中に浮かびあがる。
と、その時。
「お姉さま、お兄様、ご無事ですの!?」
第五王女、フィレンカが部屋に飛び込んできたので、
二人は慌てて離れた。ルーが驚いて手を離してしまい、
落下して頭を強く打ちつけて涙目になる。
「ご無事のようですね、姫様方」
フィレンカの肩に乗っていた、小さな妖精の少女が
にっこりと笑った。美冬のことを報告した妖精だった。
「この子が、お姉さまがさらわれた、ってほうこくしてくれたんだよ!!」
「そうなの? ありがとう」
「礼にはおよびませんわ、未来の花嫁。……自己紹介がまだでしたわね、
フィーナと申しますわ。以後おみしりおきを」
「よろしくお願いします」
美冬はこうして王子に助けられ、離宮へと戻った。
カインとフィレンカは、公務や勉強で缶詰にされた
ので、今美冬は与えられた部屋で一人だった。
否、フィレンカの友達だという妖精、
フィーナがちょこん、と小さめのクッションに
腰かけて、ミニチュアなティーセットでお茶を
飲んでいた。王女が代理として来させたらしい。
「未来の花嫁、ご気分はいかがですか?」
「あの、美冬って呼んでもらっていい?」
「わかりました、ミフユさま」
美冬は銀のティーポットから、カップにお茶を
注いで口に運んだ。今日のお茶は、カモミールティーだった。
「「「ミフユさまっ!!」」」
と、その時だった。
美冬づきのメイド三人、マリオン・オリヴィア・テレーズが、
勢いよく扉を開けて入ってきた。
ノックのことも忘れるくらい、彼女たちは慌てていた。
「ご無事でよかったです!!」
口ぐちにそう言う彼女たちは、目に涙を浮かべていた。
美冬はいたたまれなくなり、三人に謝罪した。
「心配をかけてごめんなさい……。これからはしないわ」
「それから、その服汚れてらっしゃいますので、お召替えを
お願いいたしますわ、入浴の準備もできています」
美冬は、この前のことを思い出して赤面した。
三人がかりで脱がされ、そのままお風呂に入らされたのだ。
「あの、今日は一人で入りたいんだけど、いいかしら?」
「よろしいのではないでしょうか?」
「「マリオン!!」」
一番年下らしきマリオンが、二つの三つ編みを揺らしながら
言うと、他の二人の非難の声が上がった。
「この年の方だと、他の誰かに肌を見られるのを恥ずかしがる
傾向にありますわ、テレーズ様、オリヴィア殿」
以外に大人びた口調だった。この前はしゃいでいたようだったのは、
多少無理をしていたのかもしれない。
二人が引き下がったので、美冬は一人でお風呂に入れることになった。
何かあったら、という用心のために、三人のメイドが外で見張る。
美冬は昨日とは違う浴場に通された。かなり広く、お風呂がいくつも
ある。そこは大浴場だった。
美冬ははしゃぎ、泡風呂やら、花風呂やら、牛乳風呂にいたるまで
入りつくし、上がるころにはすっかり頬が紅潮していた。
黄色いリボンやフリルのついたドレスに着替えさせられ、再びフィーナ
と二人きりになった。他の仕事もあるとかで、三人とは別れたのだ。
美冬たちが、出されたビスケットやスコーンに手を伸ばそうとした、
その時だった。
「ミフユさまっ!!」
入ってきたのは、メイド頭のミステルである。
抱きしめられ、温かいぬくもりを感じた彼女は、
もう何があっても逃げるのはやめようと思うのだった。
ミステル・カイン・フィレンカ・テレーズ・
オリヴィア・マリオンと、自分を心配してくれる
人たちがいるのだから……。
ついに美冬が救出されました。
これからもいいことわるいこと
たくさんありますが、だんだん
彼女には強くなっていって
もらいたいと思います。