表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法大国の花嫁様!?  作者: ルナ
生神となる少女
26/29

第二十四話 ~魔法大国の王子と巫女~

 エルダは彼に事情を話していた。

彼には自分を知る権利がある。

 本当は語りたくなかったけれど、

エルダはすべてを彼に明かした。

 カインは黙ってそれを聞いていた。

話し終えた時、エルダは彼が怒るだろうと

思ったけれどそんなことはなかった。

 彼は一切怒ることはなく、それどころか

同情したような瞳をエルダに向けたのだった。

「大変だったんだね、君も」

 エルダは責められる当てがなくなって焦った。

恥ずかしさのあまり死にたくなった。

 どうして、こんな人達を騙したのだろう。

彼らは、優しい純粋な心を持っているのにーー。

 でも、後悔したってそれはもう取り戻す

ことのできないことだ。

「責めないの? 私は、あなたの大切な

女性を誘拐し、なおかつ犠牲にしようとしているのよ」

「僕だけが、正義ではないから」

 再び飲み物に手を出した彼の言葉は簡潔だった。

エルダもまた飲み物を飲みながら彼の言葉を待つ。

「村の人達には村の人達の正義が、君には君の正義が、

ちゃんとあるよね。だから、責めたりしない。

だからって、このままミフユを犠牲にさせたりはしないけどね」

「私、まだ、迷っているのよ」

「迷っている?」

 カインの言葉はどこまでも穏やかで、エルダは彼にずっと

思い悩んでいたことまで打ち明けていた。

「私は、できればミフユを犠牲にしたくなんてないの。

だけど、村を捨てることもできない。

私の帰る場所は、ここしかないの。

それに、村にはまだ未来のある子供たちもいる」

 エルダは飲み物を置くと、膝を抱えるようにして

座りなおした。小さい頃からの癖だが、自分自身では

気づいていなかったりする。

 深く考える時の彼女の癖だった。

「巫女様!!」

 悲鳴のような声が聞こえたのはそのすぐ後だった。

エルダもカインも驚き話をやめる。

 叫んでいたのは、美冬の世話をしていた少女だった。

「大変です、巫女様!! 生神様が、生神様が、

村の大人たちに連れて行かれてしまったんです!!」

 少女の紅い頬には、殴られた後さえあった。

彼女を守ろうとして殴られたのであろう。

「まだ私は指示をしていないのに」

 エルダは苛立たしげに爪を噛みながら呻いた。

自分で自分を責め立てたい気持ちに駆られていた。

 村人の不満がたまっていたことを、エルダは知っていた。

知っていて、何もしなかった。

 だが、その結果がこれだ。

「ミフユ!!」

 カインが血相を変えて走り出した。

エルダも、少女に「ここにいて」と指示を出して

走り出す。両方に共通する思いは、ミフユが

無事でいることだったーー。


 美冬は考え事をしながらベッドに横になっていた。

思いだした初日はショックのあまり茫然としたものの、

しばらくするうちに記憶はなじんできて、嫌な気持ちは

するものの気持ちが悪くなったりはしなくなっていた。

 ただ、記憶のはしに何かがひっかかっている

感じがして、思い出せない歯がゆいことがある。

 自分に優しく声をかける相手の言葉が浮かんだのに、

彼の顔と名前がどうしても思い出せない。

 思い出さなきゃいけない気がするのに。

彼は、一体誰なのだろうか。

「ボクは君がすきなんだ!!」

「ボクのことが嫌いでもいい!! この世界が

好きじゃなくていい!! 元の世界で幸せに

なれないなら、ずっとここにいてよ!!」

 言葉の数々に、真摯さとミフユに対する愛情が感じられる。

自分も、彼のことを好きだったのだろうか。

 分からない。思いだせない。

だけど、思い出さなくちゃと言う気持ちが

少しずつ強くなっていった。

「生神様、お食事をお持ちしました!!」

 そこにやってきたのは、美冬の世話係として

働いている少女だった。

 美冬は体を起こして微笑むを浮かべる。

「ありがとう」

「一人で食べられますか?」

「ええ、大丈夫よ」

「あの、これもあたしが焼いたんです。

よかったら食べてください、元気が出ますよ」

 焼き菓子のようなものが並べられた皿と、

りんごのおかゆのようなものを置くと少女は部屋を出て行った。

 りんごのおかゆもどきを口にした美冬は、ひねくれた言動を

するけど仲良くしてくれた人魚の少女、アクアのことを

思いだした。他にも、この焼き菓子〝クルリア〝を食べ、

かかっている星の粒のこと、テレーズ、フィレンカ、シーレーン、

ルー、オリヴィア、ミステル、マリオン、出会った女性や男の子の

名前と顔が次々に浮かんできた。

 美冬は思わず流れ出た涙をぬぐうことなくお菓子をかじる。

どうして、忘れていたのだろう。

 優しくしてくれた彼女達、愛してくれた彼女達、

それを、自分はどうして忘れたりなんてしたのか。

 だけど、彼女はどうしても愛をささやく男の子の

顔と名前だけが思い出せないのだった。

 とーー。

「お待ちください!! 生神様は今具合が悪くて

ふせっている最中です!!」

「うるさい!! 何が生神様だ!!

 そこをどけ!!」

「嫌です!!」

 世話係の少女と、男性の声が聞こえてきた。

続いて、少女の悲鳴と何かがはじけたような音。

 少女が殴られたのだと気づいた美冬はベッド

から離れてすぐに部屋から出ようとした。

 しかし、男たちが部屋を乱暴に開け放つのが先だった。

「あんたには罪はないが、来てもらおうか。

俺たちはもう限界だ。あんたみたいな小娘に

貢ぐ料理の材料だってもうそこをつきそうなんだよ」

 にやにやと笑う男の一人が美冬の腕を取ろうとした。

世話係の少女がぶつかるようにしてそれを止める。

「生神様に触らないで!!」

「うるせえ!! もう一度殴られたいか!!」

「やめて!! その子に手を出さないで。

私が、行けばいいのでしょう?」

 美冬は本能的に自分に死が迫っていると気がついていた。

この男たちは、自分を殺すつもりだ、と。

 止めようとする少女に優しく笑いかけると、美冬は

男の手を振り払って彼についていった。

 美冬はきづいていなかったが、彼らは罪もない

少女を殺すことに喜びさえ感じていた。

 彼らが殺人者と言う訳ではない、この娘が生贄になる、

神様への供物をささげるのだという正当性が彼らの

罪悪感を消失させていた。

 やがて、美冬の体にぐるぐるとなわが渡されていった。

美冬は祭壇の柱にくくりつけられ、身動きが取れなくなる。

 彼のことを思い出せないまま死ぬのかと思うと、

悲しかったが自分に優しくしてくれた少女を、

これ以上傷つけたくなかったのだった。

 火が放たれた。パチパチと火花が散る音が聞こえてくる。

それは美冬のはかされた靴を少しずつ焦がしていた。

 その時ーー。

「ミフユーーッ!!」

 飛び出してきたのはカインだった。止めようとする男たちを

投げ飛ばし、彼女の前にやってくる。

 後ろにはエルダがいて、青ざめた顔でそれを見守っていた。

……あつい。炎はとうとう美冬の足まで到達した。

 だが、美冬は彼の顔を見たとたん、そんなことはすぐに忘れた。

バラバラになったピースがかちりとうまくはまった時みたいに、

彼の顔と名前が浮かんできた。

 美冬はようやく思いだせたことに涙がこぼれる。

「かい……ん……カイン!!」

「ミフユ!!」

 だけど、もう間に合わない。自分は死ぬのだ。

それでも美冬は幸せな気持ちでいっぱいだった。

 死ぬ前に、彼のことを思い出せたのだ。

「カイン、やっと思い出せた。

さようなら……大好き……」

 炎がすそにまとわりつく。カインが彼女に

手を伸ばそうとした瞬間、炎がさらに猛り狂って大きくなった。

 カインの悲鳴のような声が、炎の音にかき消される。

「いや、嫌よ、美冬!! まだ、あんたに謝ってないのに、

話たいことだって、たくさんあったのに!!」

 エルダの絶叫がその場に響き渡ったーー。



今回も遅れてしまい、見てくださっていた方

まことに申し訳ございません。

 後二話で魔法大国の花嫁様!?は完結いたします。

小説家になろうサイトで初めての完結作品になります。

次回もよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ