第二十話 ~神の村ですごす少女~
相沢美冬は果物を食べながら椅子に座っていた。
果物はどんどん並べられていく。
頭がぼうっ、としていたけれど、彼女は何も考えずに
果物を次から次へと口に運んでいた。
おいしいともまずいとも感じない。
ただ、命じられたかのように口に運ぶだけだった。
みずみずしい果物はとてもおいしい。
「生神様、お腹ははりましたか?」
と、一人の少女が声をかけてきた。
美冬はその少女の名前が思い出せない。
だけど、お腹はいっぱいなので頷いた。
「そうですか、それはよかったです」
「生神様って私のことなの?」
「そうです。あなたは、この世に並ぶものがいない、
神聖な生神様なのです!!」
少女がそう言うと、他の者たちも「生神様!! 生神様!!」
と敬うように美冬に言い始めた。
美冬はいい気分になり、にっこりと笑う。
良く分からないけれど、いいものなのは確かだ。
美冬はあまり深く考えることがなくなっていた。
考えようとすると、頭がひどくぼうっとなってしまうから、
考えることができないのだ。
だけど、心の奥でこれでいいという声もする。
このままで幸せになれるのなら、もういいじゃないか、と。
思い出せないことも何もかも捨てて、ただ言うがままに
過ごしていれば美冬は幸せになれる。
それは甘美な誘惑だった。
少女の顔がひどく悲しげになったのにも気づかず、
彼女はにこにことしながら部屋に連れて行かれた。
彼女は何も覚えていない。生神の意味さえ知らない。
楽しいものの後に待っている恐怖さえ、何も
知らずにそこにいるのだったーー。
エルダは悲しげな想いで美冬を見つめていた。
美冬の記憶消し、思考能力を低下させたのは
彼女の仕業である。村のためだったとはいえ、
ひどいことをしたという免罪符にはならない。
幸せだった彼女を不幸に陥らせたのは
エルダだ。そのことを、エルダはごまかすつもりも、
正当化する気にもならなかった。
もし、すべてが明かされた時、美冬やカインが
自分を裁くのならばあえて罰は受けよう。
それが私の使命だ。
エルダはそれ以上は何も言わず、美冬の手を取って
部屋に案内した。こぢんまりとしていながらも、
きれいに飾られた部屋だった。
この村では一番に上等なものである。
最初村人は反対したけれど、エルダと村長が
言い含めて了解させたのだった。
彼女は死ななくてはいけないのだから、
それまで思い出作りをさせてあげて、と。
村人はそれ以上の文句を言うこともなく、
黙って従ってくれていた。
美冬はただにこにことしているだけで、
それがエルダの心を痛ませる。
だけど、エルダはそんなことを想っては
いけないと自分をいさめた。自分のせいなのに、
そんなことを想ってはならない。
「美冬……?」
ためらいながらも、エルダは声をかけてみた。
ぼうっ、とした目が彼女を見る。
「なあに?」
美冬は明らかに様子がいつもとは違っていたので、
エルダは悲しげな顔をすると、「何でもない」と
返して部屋を退出した。
もう後戻りはできない。
村のためにも、彼女は死ななくてはならないのだ。
「ごめんね……ごめんね……、美冬ッ……」
目からぼろぼろと涙をこぼしながら、エルダは
美冬が来世は幸せになれるようにと祈るのだったーー。
美冬は記憶をなくして神の村で
過ごしています。美冬の状態とその後に、
胸を痛ませるエルダ。
美冬は本当に人柱にされてしまうのか!?
次回もよろしくお願いします。