第十九話 ~神の村の巫女~
神の村、セレンディス。
それがエルダの故郷だった。
エルダは神の愛し子、村の巫女姫であった。
彼女は生まれつき巫女だった。
だが、彼女にはその代わり友がいなかった。
〝巫女〝として必要とされても、一人の少女として、
〝エルダ〝として必要とはされなかった。
それでもエルダは村人を愛し、彼らのために
出来る限りのことをやり、村を守った。
そんな彼女が出会ったのが、相沢美冬だった。
エルダは最初彼女を〝生贄〝としてしか見ていなかった。
最初に見た時は、ボロボロの恰好で儚げで、
死にたいと心から願っているような状態だった。
エルダは同情する半面、苛立つような気持ちさえも
抱いていた。何故やりかえさないのだ、この娘は。
やりかえして、同じことをやって、苦しめてやればいいのに。
美冬は一向にやりかえす気配もなく、ただ逃げて悲しんで
世界と自分の運命を呪うばかりだった。
しかし、その目も心もきれいなままだった。
そのことがさらにエルダの心を騒がせた。
巫女として生きていても、エルダの心はいつでもざわざわと
騒いでいる。誰にも相談することができず、エルダは
いつしか心に闇を抱くようになっていった。
彼女だってもっと汚れればいい。生きているのに、
死にたいと願うなんて許さない。こんなにきれいなまま
で死にたいなんて許さない。
だから、エルダは美冬を召喚しようとした。
死にたいのなら生贄として使ってやろうと思ったのだ。
ふつうは清らかな乙女、巫女がなるのが普通だったし、
エルダも幼いころからその覚悟だけはしてきたのだが、
彼女には後任がいなかった。妹も親もすでになく、
村の人間にも資格を持った者がいない。
エルダを失うということは、神の加護、村の後ろ盾を
失くすると言うことだ。猛反対に遭い、彼女は生贄に
なることができなかった。そこで目を付けたのが、
他の清らかなる乙女を代わりに生贄にするという手である。
生きる意志をなくし、かつ清らかな心を持つ乙女。
相沢美冬は資格も条件も申し分なかった。
召喚しようとしたけれど、彼女は別のものに召喚されていた。
魔法大国フランジェールの、第五王子カイン。
彼が彼女を召喚したのだ。ボロボロの恰好で現れた少女に
彼は同情し、いつの日か愛し、彼女を自分の花嫁として
扱うことに決めていた。何故エルダが知っているのかというと、
こっそりと様子をうかがっていたからだ。
美冬はしだいに彼に心を開き、友達もでき、明るくなっていった。
もう死にたいなどと思いもしないだろう。
エルダはゆがんだ想いで彼女を見つめていた。
幸せになった彼女を嬉しく思う反面、何故かひどいめにあわせたいと
思ってしまうのだった。エルダは心をおさめようと努力をした。
そんなこと思ってはいけないと、彼女以外のものを生贄に
しなければならないと。だけれど、他には条件にあてはまるものは
一人もいなかった。生贄は一人でなくてはいけない。
たった一人、清らかなる乙女を生贄にしなくてはいけない。
困ったエルダは、心を押し殺して美冬に近づいた。
協力者を雇い、美冬たちを働かざる状況まで追い込み、
彼女の親友という役割を手に入れた。
そして、彼女の信頼をもっとも得た頃に、
彼女は美冬を攫ったのだった。彼女はエルダを責め、泣いた。
心が痛まなかった訳ではない。でも、村のためと割り切り、
エルダは彼女を村に連れて行ったのだったーー。
すみません、今回もカインの活躍が
書けませんでした。いつ書けるかはわからないので、
まだ未定にしておきます。でも、絶対に書きあげるので。
次回は美冬の新たなる生活編です。