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魔法大国の花嫁様!?  作者: ルナ
惑う少女
2/29

第一幕 ~召喚された少女~

 ここは、魔法大国フランジェール。

 今まさに、秘儀が開始されようとしていた。

 魔法大国の王族が、一生に一回だけしか使えない

秘術をもちいたものだ。

儀式の中心にいるのは、五男のカイン・ルク・

フランジェールだった。年は十五。

十人兄妹の中で一番の美形といわれて、

国民から人気がある。

 灰金色アッシュブロンドの肩までの髪、

いつもきらきらとまたたく金の瞳。

顔はどちらかというと中性的だった。

髪をのばせば、女にも見えるだろう。



 王子は美しい声で呪文を唱え始めた。

 妹姫・フィレンカ・ルア・フランジェール

が、目をきらきらさせて未来の姉の登場

を今か今かと待っていた。

彼女は五女であった。

 この儀式は、異世界から花嫁を召喚する、

というものだった。

 はるか昔から、ここではこの秘儀のもと、

王族は娘と結ばれるのである。



 しばらくののち、呪文は終わった。

 王子が立っている台座が、虹色のきらめきを見せる。

 やがて、一人の少女がふわり、とその場に現れた。

 美しい娘だ。その美貌は、全員が息を飲むくらいだった。

自分は美しいと自負する侍女や、姫君方も、その美しさ

に見とれていた。が、悪いところが無い訳ではない。

 少女の肌にはところどころあざがあったし、

美しい黒髪はほつれていて、服はボロボロだった。

 王子は、少女の様子を悲しく思うのと同時に、

愛しさがこみあげてきた。

 この少女を、王子は瞬時に愛してしまったのだった。




 相沢美冬あいざわみふゆは、いいかおりで目覚めた。

頭がぼうっとしていた。立ち上がりかけ、痛みで

呻く。ここはどこ? 天国? それとも、痛みが

あるから、地獄? でも、地獄ってこんないいかおり

がするのかしら。

 美冬は訳が分からなかった。今彼女が寝ているのは、

バラの香りの香水がしみこませてある、ふかふかの

寝台だった。服も、着ていたはずのものではなく、

真っ白くて薄い、ワンピースのようなものだった。

 今までとは、全然違う目覚め方だ。

 美冬は、いつも子供たちに起こされるのが定説だった。

 いつも堅い床の上に、どこかから取ってきたダンボール

をしいて寝ていた。なのに、これは一体どういうことだろう。

 と、いきなりノックの音とともに、扉が開いた。



 扉を開いた人物は、びっくりしたように目を見開いていた。

美冬の家に元はいた使用人と、こちらの方が衣装は高級そう

だが、だいたい同じような格好だった。

 美冬は思わず身構えた。彼女は天使かもしれないと思ったのだ。

「あらあら、お譲さん、どうしたんですか? 傷は痛みますか?」

 美冬は体から力を抜いた。彼女は、どことなく、雰囲気が育ての親

に似ていたのだった。

 そして、自分の体を見てみると、包帯がぐるぐると巻いてあった。

肩や腕、頭にもまいてある。ミイラとはいかないが、もう少しで

ミイラ風になるところだった。

「傷を癒してさしあげたかったんですが、昨日は医療班が

いなかったんですよ。今日は癒せますよ」

「ここ、どこなの?」

 かたい声が彼女の口からもれた。

ああ、と四十代くらいの女性は頷いた。

「ここは魔法大国フランジェールの離宮ですよ。フィレンカ様

と、カイン様と、王妃様がお住みになっています。

私は、メイド頭のミステルと申しますわ」

「ミステル!!」

 美しい声が聞こえるとともに、高級そうなドアが吹き飛んだ。

美冬の目が、こぼれおちそうなくらい大きく見開かれていた。

 飛んできた破片が、美冬の肌に傷を刻む。

美冬は衝撃を感じて黙り込んだ。ここは死の世界ではない。

傷を負うのだから、どこか別の世界である。 

「カイン王子!! 魔術は控えなさいと言っているでしょう!!

 お譲さんがびっくりしているじゃありませんか!!」

「ごめん、ミステル!! と、そこの黒髪の君。驚かした?」

「ここは、天国でも地獄でもないの?」

「え、違うけど……」

「なんで余計なことしたのよ!!」

 いきなり怒鳴られ、カインは目を見開いた。

「あたしは、もう生きていたくなんかなかったのに!! 

やっと、あんなつらい人生に終止符がうたれたのに!! 

なんで、なんで、余計なこと!!」

 言ってから、美冬は身構えた。殴られるだろうか。

それとも、中傷を投げられるのだろうか。

 が、王子は、美冬が考えたことはしなかった。

ただ、悲しそうな顔をしていた。

 ふわり、と王子に抱き寄せられた。

 美冬は目を見開いた。今まで、男にそんなことをされた

ことはなかった。彼らは怒鳴り、中傷をし、暴力を

ふるうばかりだった。

「辛い目にあってきたんだね、でももう大丈夫だよ。

ボクが君を愛するから。大事な、かわいい、ボクの花嫁」

「花嫁!?」

「ミステル、彼女に話していないの?」

「今話しますわ。古来より、ここの国では、花嫁を

異世界から召喚する風習があるのです。それによって、

召喚されたのが、あなたなのですよ」

 美冬は首を振った。どんっ、と王子を突き放した。

王子は首をかしげて、なぜこんなことをされたのか

分からない様子である。

美冬はキッと彼を睨んで叫んだ。

「このあたしが花嫁!? 信じないわ!! 信じて

たまるものですか!! どうせまた、だますのでしょう!?」

「だますってなんのこと」

「あたしはもう、誰も信じないって誓ったのよ!!」

 美冬だって、おとぎばなしを読んでもらったりして、

いつかは自分にも王子さまが迎えに来てくれる、と

本気で思っていた時期があった。

 ラブレターをもらい、うかれて書かれていた場所に行った。

が、いつもでまっても誰も来なかった。

あとで、村の子供たちにだまされていたのだと知った。

 お前なんかに、王子さまが来る訳ないだろ、とからかわれた。

幼かった美冬は、かなり傷ついたのだった。

すっかり心を閉ざしたような様子の少女に、

カインは困ったような顔をするだけだったーー。

ついに美冬が召喚されました。五男の王子の花嫁に抜擢です。

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