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魔法大国の花嫁様!?  作者: ルナ
陰謀に巻き込まれる少女
19/29

第十七話 ~困惑する少女~

 「ど、どうして、どうしてあなたが!?」

 美冬は驚いたように黒い瞳を見開いていた。

それを見返すのは、無表情でこちらを見つめる少女。

 その目にも何の感情もない。

「さあね」

 やっと話したその声にも、いつもとは違って

感情が込められていない。否、押し殺しているのだろうと思わせた。

「私はあなたを迎えに来た。それだけよ」

 力強い手が彼女の腕を掴む。美冬は悲鳴を

上げることもできないまま、朝からの行動を思い出していた。 


 相沢美冬あいざわみふゆは一日休んだ後、

カインと共に再び仕事に戻った。

 エルダはまだ心配そうだったが、今度は

追い払いもせずに仕事を始めていた。

 カインはもうエルダを拒絶しなかった。

完全にわだかまりが消えた訳ではなさそうだったが、

それでも訳もなく声を荒らげたり嫌な顔をしたりは

しなくなった。エルダもニコニコとしたように

彼に対応していた。けれど、カインは何故か

不安が襲うのを美冬には話さなかった。

 どうしても気になってしまう。

だけど、彼女が悲しむだろうから言わない。

「カイン!! こっちを手伝っとくれ!!」

「あ、はいっ!!」

 おかみさんに声をかけられ、カインは慌てて

そこに向かった。料理はしたことがないので

不安な気持ちになるが、それは杞憂だった。

 彼女が頼んだのは力仕事である。

ケーキを作る際のかき混ぜる作業には

かなりの力がいるので、エルダや美冬ではなく

彼が狩りだされたのである。

 カインは魔術で少し力を上げながら

見事なめらかな舌触りのクリームを

作ることができたという。

 おかみさんは味見と称して

ちびケーキを三人にくれたので、

彼らは笑顔で口々においしいと言いながら食べた。

 騒動が起こったのは、仕事が終わってからのことだった。

おかみさんに頼まれてカインが買い物で外に出ていた時だった。

 美冬はエルダに呼び出され、彼女の部屋で一人待っていた。

彼女が読んでいてと渡した本を読みながらベッドに腰かけている。

「遅いわね、エルダ。どうしたのかしら……」

 急に強い風が吹いてきた。美冬は寒くなり、窓に近づいて

しめようとする。と、黒いマントが視界を覆った。

 悲鳴を上げる間もなく手を掴まれる。

恐怖のあまり美冬は暴れ、たまたま手がフードつきマントの

フードにあたり、それが外れた。

 美冬はぎょっとなって立ち尽くす。

「える……だ……!?」

 その顔は明らかにエルダだった。信じていたのに。

絶対に彼女ではないと思っていたのに。

「ど、どうして、どうしてあなたが!?」

 驚いたように彼女が言っても、エルダの表情は変わらなかった。

黒い目を見張った美冬とは正反対に、彼女の顔はひどく冷たい。

「さあね」

 押し殺したような声が美冬の耳に響く。

「私はあなたを迎えに来た。それだけよ」

 美冬はどうしたらいいのか分からず頭が混乱した。

 

 それで今に至る。

美冬を昨日誘拐しようとしたのは、心配してくれていた

はずのエルダだった。

 騙されていたのだ、美冬は。

だが、彼女は信じたくなかった。

 信じられるはずがなかった。

「嘘でしょう、エルダ。ふざけているのよね?

 あなたが私を攫う訳ないわよね?」

「甘いわね、お姫様。それとも、いじめられっ子の美冬と

言った方がいい?」

 さあっ、と背筋が寒くなった。彼女は知っている。

話したこともないはずのことまで知っているのだ。

「騙していたの?」

 黒い目からとめどなく涙があふれた。

くすり、とエルダの口元が笑う。

「騙した? 人聞きが悪いわね。嘘なんか

ついてないわよ。私は姫巫女っていうのは本当。

あ、ついていたわね。利害が一致したからあなたを

ここに連れて来たのよ」

 あくまで淡々とした声でエルダは語る。

美冬はショックを受け、そのまま下がろうとしたけれど、

手を握られたままなのでできなかった。

「いいこと教えてあげるわ。あの男の子、私が雇ったの。

おかみさんもね。ここは宿屋っていうのは本当だけどね」

「放して……」

「いやよ。やっと捕まえたんだから、私の救世主。

死にたいんでしょう、あなた。

じゃあ死んでもらいましょうか」

「放して!!」

「きゃあああっ!!」

 美冬が叫んだ瞬間、氷のつぶてが彼女を襲った。

もちろんやったのは彼女ではない。

 帰ってきたカインだった。

憎々しげに瞳が輝く。舌打ちしてエルダは

肩から流れる血をぬぐった。

「やっぱりお前が、ミフユを攫おうとしたんだな!!

 ミフユを放せ!! 彼女に触るな!!」

「くっ!! ……しゃべり、すぎたか……。

 サフェナ!!」

 ガツンッ、という鈍い音がした。

エルダの指示を聞いて、いつの間にかいた

あの時の少年がカインを棒で殴ったのだ。

「カイン!!」

「ちく……しょう……!!」

「サフェナ!! そいつを縛っておいて!!」

「了解です、姫様!!」

「カイン!! カインーーーー!!」

 エルダは軽々と美冬を担ぎあげた。

涙を浮かべながら美冬が悲鳴を上げる。

 パチンッ、とエルダが指を鳴らすと、

二人の姿はそこから消え去ったーー。

美冬が攫われてしまいました。

犯人はエルダです。

次回はカインが活躍します。

フィレンカたちも再登場ですので、

次回もよろしくお願いします。

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