第十六話 ~帰りたい少女~
今日は美冬たちはお休みだった。
昨日のことを聞いたおかみさんが、
今日は休んだらどうかと言ってくれた
のである。
美冬はカインと一緒に町を歩いていた。
おかみさんが渡してくれたお駄賃を
もって嬉しそうな顔である。
旅行をしていた時よりも、
その顔は楽しそうだった。
カインも最近では珍しく笑顔を浮かべていた。
エルダは今日はそばにはいない。
そのことも、彼にとっては笑顔になった
原因だったかもしれない。
美冬はそのことに気が付いていないので、
カインに文句を言うことはなかった。
「ミフユ、今日はどこに行く?」
カインにそう聞かれ、美冬は笑顔で
振り向いた。眩しいほどの笑顔である。
「またこの前食べたお菓子食べたいの。いい?」
「もちろんだよ!! 早速行こうね!!」
さりげなく美冬と手をつなぎ、紅くなる
彼女に笑いかけながらカインは歩き出した。
紅くなりながらも、美冬は手を振りはらったりしない。
ただ黙って歩いている。
と、彼女が急に口を開いた。
「カイン、あの、ね……」
「どうしたの、ミフユ?」
「こんなこと言いたくないんだけど、
どうしてカインはエルダに辛く当たるの?」
カインは瞬時に機嫌を悪くし、幾分
乱暴に美冬の手を放した。
睨むように見られ、美冬は怯えたような
視線を彼に向ける。
カインは息を吐くと表情を少し和らげ、
迷うように目を泳がせたが、やがて
口を開いた。
「似てるんだよ、あの子は」
「え?」
美冬は戸惑ったような顔の後、
しっかりとカインを見つめてきた。
カインも見つめ返し、二人の目が合う。
「君には言ってないし、分からないと思うから
言うね。君、城にいたころも攫われそうに
なっていたんだよ」
そんなことは初耳だった。
美冬は目を見開き、言葉も発せないほどの
驚きに心底困惑する。
「その時は、部屋に入る前に僕とフィレンカで
その子を撃退しちゃったけどね。
……かなり強かったよ。護衛が歯も立たないくらいね」
その時のことを思い出したのだろう、カインの顔
には苦々しいものが広がっていた。
彼曰く、その時の少女とエルダが似ていたらしい。
だが、本人だと言う保障はないし、それだけの
ことで拒絶されるエルダも迷惑だろう。
「でも、まだ、本人だって分かってないんでしょう?」
「うん……。その子の名前も知らないからね」
美冬は悲しげな顔になると、言い聞かせるように
カインに言った。
「私、エルダの友達だから、カインが彼女と
ケンカしているのを見ると辛いのよ。
仲良くしてくれないかしら?」
「ミフユが……そういうなら」
カインはまだ警戒しているらしいが、
とりあえずは提案をはねのけたりしなかった。
再び彼女の手を取り、この前お菓子を食べた
屋台に行く。二人分を買うには足りなかったので、
一つのものを二人で分けた。
一個ずつ買って食べた時よりも、
何故か分け合って食べた時の方がおいしく感じた。
そして、二人は店に戻ることにした。
心配そうな顔で迎えたのは、エルダだった。
「もう帰って来たの? まだいいのに」
「でも、仕事たくさんあるでしょう?」
「いいからもう少し外にいてよ」
店には戻ったものの、追い出されるようにして
外に戻されてしまった。かなり忙しいそうな
様子だったが、エルダはまだ美冬が心配らしい。
仕方なく、二人はふらふらと通りを歩くことにした。
お金は使い切ってしまったので、いろいろなものを
眺めて過ごす。飴を売っている露天を通りがかると、
店のお姉さんが一つずつ飴玉をくれた。
あまい飴玉を舌で転がしながら二人は笑顔になる。
「フィレンカたち、どうしてるかな……」
「元気にしてくれているとは思うけれど……」
ふと、二人は城に置いてきたものたちの
ことを思い出した。心配しているかもしれない。
ずっと城へは帰っていないのだから。
城に帰るにもお金はないし、旅券も何もかも
ないから関所も通れない。
ここで働いてお金をためて旅券も
購入するしかなかった。
フィレンカ・ミステル・ルー・シーレーン、
そしてメイドたち……。
しばらく会っていないものたちの顔が
次々と浮かんできた。
二人の目には涙がにじみ、いつ帰れるのかと
帰郷の念が増すばかりだったーー。
二人がいつ城に帰れるかはまだ
決まっていません。大事なもの
たちのことを考える二人。
次回もよろしくお願いします。