第十五幕 ~攫われかける少女~
相沢美冬は、第五王子カインと働いていた。
だが、彼とは違う役職である。美冬は料理全般と皿洗い、
カインは力仕事や雑務全般だった。
「ミフユ、ここはこうやるのよ」
一緒にやるエルダと美冬はかなり仲が良くなっていた。
それを見るたびに、何故かカインは不安を隠せない。
彼女は何か隠している気がしてしょうがないのだ。
「ねえ」
「うわっ!!」
カインは声をかけられて飛び上がった。
いつの間にか、そこにはエルダがいたのである。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない……」
「何か用?」
気恥ずかしいやら苛立つやらで、
カインは思わずぶっきらぼうに言い放った。
それを見ていた美冬が、怒ったように言う。
「カイン、そんな言い方はないんじゃないかしら」
「美冬……」
カインは悲しそうに彼女を見つめると、
歩き出した。ぐいっとエルダがその腕を
掴み、睨むような視線を向ける。
「ねえ、話があるんだけど」
「早く言ってくれない? 僕も仕事があるんだけど」
カインは苛立つ気持ちを抑え込むのに大変だった。
彼女は似ている。真夜中に襲撃してきた少女
に、非常に似ているのだ。
彼女だと断定する理由も、証拠もないし、
美冬を心配させたくないから言わないけれど。
だが、それでもカインはこの少女は
あの時の子ではないかと思っていた。
だから、ついつらく当たってしまうのである。
「カインはミフユとはどういう関係?」
「なっ!? か、関係ないよ、君には!!」
「関係なくはないわ。私はミフユの友達よ」
カインは思わず舌打ちしたくなった。
美冬が見ていなかったら、きっとやっていただろう。
顔が火を噴いたと錯覚しそうなくらい熱を
持っていた。美冬の顔も同じくらい紅い。
「婚約者だよ。それが何?」
「どうもしないわ。聞いてみたかっただけよ」
にっこりとエルダは笑っている。
何故かカインにはそれが不気味な笑みに見えた。
仕事があるからと二人から離れる。
ムッとしたように、美冬はカインを睨みつけていた。
「ごめんなさいね、エルダ。カインはちょっと
疲れてるみたい……」
「私は気にしてないわよ。きっと、彼ヤキモチを
焼いているんじゃないかしら」
「ヤキモチ?」
「私たちが仲がいいからヤキモチ焼いてるのよ」
美冬の顔が再び赤らんだ。頬に手を当て、
エルダを涙目で睨みつける。
「もうっ、からかわないでよ」
「あら本気で言ったのに」
くすり、と笑った顔は、やはり美冬に
とっては安心を抱かせる笑みだった。
彼女のそばにいるとなんだか安心できる。
もちろん、カインのそばの方が心地よいけれど。
美冬には何故カインが彼女に辛く当たるのかが
分からなかった。エルダはヤキモチだと言ったけれど、
どうしてもそうとは思えない。
いつもは温厚な彼にしては、非常に珍しいことだった。
「こらっ、何さぼっているんだい!!」
「ご、ごめんなさい……」
「今やるわ、そんなに怒らないでよ」
怒鳴られたので、二人はそれ以上の会話を
続けることができなかった。
美冬は、生まれて初めて目が回るほどの
忙しさを味わい、夜寝る頃にはもうくたくただった。
エルダと同じ部屋をあてがわれたが、
彼女は買い物に行くと言うので、一人で先に
寝ることになっていた。すこやかな眠り
が彼女を支配する。
美冬は熟睡していた。揺り動かされても、
ひょっとしたら起きないかもしれない。
とーー。
「お迎えにまいりましたよ、お姫様」
美冬が寝ている部屋の窓辺に、少女が一人、
立っていた。フードと口もとのマスクで
顔を隠している。闇にまぎれられる
ような黒衣の姿だった。
「さあ、こちらに……」
少女は部屋に降り立つと、美冬を抱き上げて
また窓辺に移った。美冬は眠っていて起きない。
このまま攫われてしまうのだろうか。
その時だった。
「ミフユに何をしてるんだ!!」
そこに駆け付けたのは、カインだった。
少女は舌を打ち、一旦部屋に戻る。
カインは眠れなくて外を散歩している
最中に、彼女が誘拐されようとしている
ところを発見したのである。
窓によじのぼると、カインは部屋に入り込んだ。
「な、何!? きゃああああああっ!!」
カインの声で、ようやく美冬は目覚めて暴れ出して
しまった。再び舌打ちの音が響く。
「大人しくしろ、殺すぞ!!」
「きゃああああああっ!!」
少女は押し殺したような声で脅したが、
すっかり恐慌状態に陥っている
美冬は叫ぶばかりだった。
とりあえず美冬を下ろし、
部屋の外へと飛び出す。
その後を、カインが慌てて追っていった。
「よくも、ミフユを……!!」
「っきゃあああっ!!」
カインは巨大な炎を少女に浴びせかけた。
少女はよけたけれど、少しかすってしまったようだった。
そのまま少女は窓から落下する。
カインはぎょっとなって窓から外をのぞいたけれど、
少女の姿はそこにはなかった。
「カイン……」
「ミフユ……」
部屋に戻ると、今にも泣きそうな顔をした
美冬が抱きついてきた。カインは優しく
彼女の背に手を回す。
「怖かったね、もう大丈夫だよ」
「ありがとう……。ひどいこと言っちゃってごめんね……」
「いいんだよ……」
二人はそのまま抱きあい、エルダが帰ってくるまで
そのままでいたのだったーー。
更新が遅れてすみませんでした。
美冬がさらわれかけます。
さらった犯人は、謎の少女。
彼女の正体は!?
次回もよろしくお願いします。