第十四幕 ~仕事を始める少女~
結局、相沢美冬と第五王子カインは、
少女の提案に乗ることにした。
どこにも行く場所がないのは事実である。
「待っていたわよ」
少女はにっこりと、否、にやりと笑っていた。
相変わらず、謎な雰囲気である。
黒いワンピースがよく似合っていた。
「私はエルダ。エルダ=ラーシアよろしくね」
「君、なんで僕たちに仕事を紹介してくれたの?」
カインは美冬を後ろにかばいながら言った。警戒心たっぷりの口調である。
少女はただ笑っていた。それが、なおさら彼の警戒心を高める。
「理由なんてないわ。困っているみたいだったから、進めただけよ」
少女はなんでもないことのように言う。
妖しいところがないでもなかったが、二人は少女の言うとおりにするしかなかった。
「ただ利害が一致しただけよ。私は仕事先で誰か紹介してくれって言われていたし、
あなたたちは無一文で行く場所がない」
とりあえず二人は働くことになった。仕事先のおかみさんはいい人だったが、
同時に厳しくもあり、二人は目を回しそうになりながら働いた。
美冬もカインも、働くのは初めてだったのである。
休憩時間に入るころには、もう二人はへとへとだった。
「はいよ、お茶でも飲みな」
熱いお茶を出され、美冬はお礼を言ってすすった。カインも同様だ。
続いて、お菓子も出され、二人は少し元気になった。
「おいしいです、ありがとうございます!!」
「いいんだよ。……エルダあんたもお食べ!」
「はい……」
エルダが長い黒髪を揺らして美冬の隣に座った。
きらり、と緑の瞳が光る。きれいだとおもう反面、
美冬は何故か彼女に不安を抱くのだった。
お菓子は美冬の世界にある、おまんじゅうに似た
ものだった。美冬も形くらいは知っている。
よく、相沢家の両親が、お客に出すのを
指をくわえてみていたものだ。
ほんのりとした甘さで、とってもおいしかった。
「これ、なんていうんですか?」
「マンジュウっていうらしいよ。異世界の食べ物さ」
「これがオマンジュウ……」
美冬は強い感動を覚えた。小さい頃、決して食べる
ことのできなかったお菓子が、今目の前に並べられて
いるのだ。好きなだけお食べと言われ、美冬は恐縮
しながら少しだけお菓子を味わった。
カインもエルダも、笑顔で頬ぼっていた。
「あんたたちはよく働くからいいねえ。エルダ、お手柄だよ」
「ありがとうございます、おかみさん」
エルダは笑っているらしかったが、どこかその笑顔は
ぎこちなかった。カインが珍しそうにそれを見ている。
「……やっぱり似てる」
「カイン?」
きつい目になった彼に、美冬は目を丸くした。
エルダもまた、きつい目でカインを睨み返している。
ひょっとしたら見ていただけなのかも知れないけれど、
美冬にはどちらか分からなかった。
そして、三十分が経ち、仕事が始まった。最初に働いた時
よりも、幾分楽に仕事ができる。少しは仕事の内容も覚えていた。
美冬は料理全般と皿洗い、カインが雑用全般である。
カインは違ったが、美冬はいつもエルダが隣にいた。
こつややり方を教えてくれる彼女は、とてもやさしい。
美冬は不安や違和感をあまり感じなくなり、
いつしかエルダに親しみを感じるようになっていた。
それはエルダも同じなようで、美冬にだけ
重大な秘密を打ち明けてくれた。彼女は、魔法使いでは
ないのだという。ここは、魔法大国であるから、基本
魔法使いが多い。でも、彼女は違うと言った。
「私、神子なの。神子姫なのよ。回復術が得意なの」
「あっ!!」
そう言った時に、ちょうど都合がよく、美冬が
指を切った。エルダは少し笑うと、指を取って
力を使った。瞬く間に傷が消える。
「秘密にしてね、ミフユ。私、おかみさんにも
言っていないのよ。あなたが親友だから言うの」
「わかったわ、エルダ。私たち、分かれることが
あっても親友よね?」
「あたりまえじゃない」
楽しそうに話をする二人を、カインは
どこか不安そうにみていたーー。
美冬がエルダと仲が良くなります。
それがなんだか不安なカイン。
まだまだ謎な少女の目的は!?
次回は美冬たちではなく、
ルーたちで贈る番外編になります。