第十二幕 ~旅をする少女~
相沢美冬は、ミステルたちに
囲まれてだんだん元気になってきていた。
拗ねたような顔をしつつも、アクアも
通ってきている。特に、カインは仕事の合間を
縫って毎日やってきた。彼の方も、顔色はだいぶ良く、
もう仕事をやっているのだ。
「ねえ、旅行しない?」
そうカインに言われたのは、美冬が普通に食事を
出来るようになってから、かなり経った頃だった。
「旅行?」
美冬はお菓子をつまみながら言った。今はお茶の時間である。
お茶受けは、クッキーのようなビスケットのようなお菓子、
〝クルリア〝だった。お茶は甘い香りのする、美冬の世界の
アップルティーである。
「うん!! ミステルが、婚約旅行に行ってきたらどうかって!!」
「えーと、それって、二人だけって……こと、かしら?」
美冬の白い顔がみるみるうちに赤くなっていった。
婚約して、思いが通じ合ったとはいえ、まだまだ初々しい二人だ。
カインも同じように赤くなっていた。
「ええええ、あたしも行きたい~~」
「バカ!! 婚約旅行だぞ!? ちょっとは無い頭で
考えろよなっ」
「なんですって!! ちびっこのくせに!!」
「誰がチビだ!!」
頬を膨らませてフィレンカが文句を言ってくる。ルーに額を
小突かれ、口ゲンカをしていた。シーレーンは今日はお休みだ。
「そうだけど……駄目?」
「駄目じゃないわ……」
見つめ合う二人を、尋常じゃない目でアクアが見ていた。
このバカップルが!! その目は確実にそう言っていた。
メイド三人がお茶を飲ませてなぐさめている。
まだ心の整理はついていないらしい。あきらめるのも、
好きだと気づく以上に難しいことではある。
「行きましょう、カイン」
「行こう、ミフユ!!」
こうして二人は旅費の入ったサイフと
旅券だけを持って旅行に行ったーー。
「うわあ、私、旅行って初めて!!」
美冬は馬車から身を乗り出して窓の外を見ていた。
その黒い目は、きらきらと子供のように輝いている。
美冬は旅行に行くのが初めてなのだ。
両親と一緒だった頃は、当然一緒にいかせては
くれなかった。村の外にすら行かせてもらえなかったのである。
美冬がとてもうれしそうなので、カインはさらに嬉しくなった。
そうしているうちに、最初の目的地、都市ガザールへとたどり着いた。
馬車を降りて金を払い、軽い食事をとることにする。
「ミフユ、何食べたい?」
「どうしようかしら……」
都市ガザールは露店が多かった。あたりを探していると、
誘拐されたときに食べたおいしい食べ物、〝ショコルーン〝が
売られている屋台があったので、それを買ってもらい、
美冬は笑顔で頬ぼった。チョレートに似た味は、やはり
最高のお味である。旅を楽しみながら、美冬はカインに
笑顔を向け、カインもまた笑顔を浮かべるのだったーー。
美冬とカインが婚約旅行に出かけます。
新キャラも登場し、また美冬たちに
試練がふりかかりますが、ぜひ
次回もみてください。