第十一幕 ~愛を手に入れる少女~
「バカじゃないの!?」
いきなり怒鳴られ、美冬は言い返せない。
少女が泣きながら、怒鳴りつけてきた。
「なんで、あたしの言ったこと負け惜しみ
だって思わないのよ! なんで、死にそうに
なるまで考えてるのよ! あんたが死んだら
、私のせいみたいじゃない!!」
頭がくらくらしていた。訳がわからない。
何故彼女が怒ってるのか、意味が分からなかった。
「訳わかんないと思うけど、これだけは聞いてよね!!」
ようやく美冬の対応に気付いた少女が叫ぶ。
「カインが倒れたのよ!!」
頭が真っ白になった。カインが、倒れた!?
あんなに元気だったのに……。
「嘘……!!」
美冬は思わず呟いていた。嘘だと思いたかった。
「なんであたしがあんたなんかに、嘘つかなきゃ
ならないのよっ!! あんたのせいよ!!
あんたの……あたしのせいでもあるけど!!」
自分でも人魚は何を言っているのか分かっていなかった。
泣きじゃくりながら、思いついたままに叫び、怒鳴っている。
美冬は嘘ではないと知り、慌てて部屋を飛び出そうとした。
体が勝手に動いていた。くらり、となり、人魚が受け止める。
「バカじゃないの!! 何日も食べてないのに、いきなり
動けるはずないでしょっ!!」
人魚の腕をかいくぐって逃げようとする美冬に、
人魚は苛立ちの声を上げた。空間転移術を使い、
リンゴのおかゆみたいなものを取り出す。
「食べなさいよ」
「早くカインに会いに行かなくちゃ!!」
「いいから食べろってのよ!!」
一喝すると、大人しく美冬は食べ始めた。命令され続けた
習慣は、なかなか抜けない。味なんてしなかったけれど、
美冬は必死にすすっていた。
人魚は美冬をささえたまま、いろいろなことを話した。
「カインは、あんたに嫌われたって思って寝込んじゃったのよ。
……あたしじゃ、立ち直ってくれなかった」
「嫌いじゃ、ないの。でも、好きってよくわからないの」
「あたしだって分かんないわよ!! あんなバカのどこが
好きなのか、分かんない!! 」
人魚は叫びながら、昨日のことを思い出していた。
昨日、寝込んでいたカインのもとへ、彼女はやってきた。
「アクア……」
カインは前より少し痩せていた。水分をとってはいるが、
最近はおかゆのようなものしか食べていないらしい。
「カイン、そんなにあの子が好きなの?」
「うん……」
照れながら言われ、アクアは眉をひそめた。
ミフユ。異世界からやってきた、カインの花嫁。
カインとの結婚を約束された、娘。
自分とは正反対の、おとなしそうで優しそうな女の子。
「ミフユのどこがいいの?」
「あの子、いろいろ苦労してるらしいんだよね。
前の世界で、いじめられてたって。
来た時も怪我しててね、守ってあげなくちゃって思ったんだ」
アクアは黙っていた。……勝てない。
あの子には、絶対に勝てない。
だけど……」
「好き……」
「え!?」
「あんたが好きだって言ったの!!」
カインは驚いたように目を見張っていた。
それは無理のないことだった。
カインとアクアは幼馴染で、友達だった。
小さい時から、あまり女性として見たことはない。
それはアクアも分かっていた。分かっていたけれど、
言っておきたかった。勝てなくても、想いだけは伝えたい。
「あたしじゃ、駄目なの? あたしだって、カインの
ことが好きなのに!! 駄目なの!?」
「ごめん……」
「わかってたわ、あんたが私のこと女として見てないって
事わ、ね。そこで待ってなさいよ、引きずってでも、
あの子連れてくるから!!」
その後で、アクアは寝込んでいる美冬を見つけたのだった。
水分も何もとっていないで考え込んでいるのを見たら、
何故か苛立って、怒鳴りつけていた。アクアが水の力
を使えなかったら、本当に死んでいたかもしれなかっのだ。
あの子は、ミフユは、カインに好かれているのに。
カインと、結婚できるのに。
アクアは美冬を支えるようにして歩いていた。
美冬は青ざめていたが、もう逃げようとはしていない。
「ねえ、あなた、名前は?」
「アクアよ」
いきなり名前を聞かれ、アクアはつっけんどんに応えた。
それなのに、美冬は楽しそうに彼女の名前を呼んでいる。
少し明るくなったようだった。
「アクア、好きってどんな気持ちなの?」
「だから、そう簡単にわかるものじゃないんだってば!!
あんた、トロいわねっ!! 簡単にいえば、その人が
死にそうになったら困るとかそういうことよっ!!」
「じゃあ、私は、カインのことが、好き!?」
「知らないわよっ!!」
アクアはなんでこんなに苛立っているのか、気づいた。
美冬はほうっておけないタイプである。
誰かに、守ってあげなくちゃ、と思わせるような、
そんな魅力がある。小さな動物のような。
だから、それに魅かれてしまっているから、
アクアは美冬に苛立つのである。
ライバルなのに。こんな子嫌いなのに。
「ついたわよ」
ドンッとつきとばすように、アクアは彼女を中に入れた。
とたんに、カインの青ざめていた頬に血の色がさした。
倒れ掛かるように、美冬に抱きつく。
美冬は自分でも気付かないうちに、泣いていた。
温かい体を、失わないでよかったという安堵と、
カインにようやく会えたという嬉しさと、
彼を好きだと思う気持ちが、いりまじって
ぐちゃぐちゃになっていた。
この人が好き。失いたくなんか、決してない。
ようやく想いに気付いた美冬は、
泣きながらカインの背中に手を回したーー。
美冬が想いに気付きます。
友達もできましたし(本人は
認めないと思うけど)、
美冬にはどんどん幸せに
なってもらいます。
次回もみてください。