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セレニアの物語  作者: さなか
第2章 オルミスの三人

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エルレアの旅立ち(第2章11年後)

 エルレアには、兄が二人いた。

 一人はレシオン。頭が良く穏やかで、家の後継としてみんなに慕われている。

 もう一人は、エルレアが幼い頃に家を出たっきり、一度も帰ってこない。みんなに聞いても、決まって「長兄のことは忘れなさい」と言われる。そのうちに、口に出してはいけないのだと理解した。

 きっと、オルミスの町の方へ行って自由に暮らしているのだろう。兄が家を出て行った頃には、新しい町が次々と出来ていた。港町、東の町、ルワレーリオ諸島。その上ファルトーソーとの戦争があって人が動いたので、どこに行ったかわからなくなったのだとレシオンは言う。


「名前」


「……」


「だから、なーまーえ!」


 エルレアが聞いているのに、レシオンは黙っている。畑の見回りに忙しい振りをしている。


「レシオン、絶対覚えてるでしょ? 私は小さかったから、忘れちゃったの!」


「……僕も小さかったから覚えていないよ」


「レシオンは十五歳だった。私は四歳! 私は今十五歳。誰かが出て行ったとして、その名前を忘れちゃうなんてありえない。私が町に行ったら、五年もしないうちに、忘れちゃうわけ? レシオンの薄情者、嘘つき!」


 すると、レシオンが振り向き、エルレアを睨んだ。ほとんど怒らない兄がそんな表情をするのは珍しく、エルレアはびくりと立ち止まった。


「探しに行こうとしてるのか?」


「ううん……旅に出るから、そのついで。もしかしたらあちこち行っているうちに、どこかで会えたりするかもしれないし……」


「……」


「だって私、その人のことが大好きだったなってことだけ覚えているんだよ。もし会えたら会いたいなって、思ったっていいでしょう」


 エルレアは、世界を見て回る旅に出る。オルミスの国が大きくなったので、今の農場だけでは食料を賄いきれない。もうすぐエッカーナ王女とヘイス様、五人の御子様たちが巨大大陸(サルト=カティス)へ向かうというし、どこかにもう一つ農場を作る必要がある。

 はじめは両親が、レシオンに家を継がせて二人で行こうかと話していたのだが、エルレアが志願した。精霊の導き、結婚相手も探さなければならないから、と。


「わかったよ。でもその代わり何かわかったとき、旅が終わったとき、戻ってきて僕に教えてくれ」


「なんで。レシオンは、その人の名前もどんな人だったかも忘れちゃったんでしょ。それって、興味がないってことじゃん。そんな人に教えるために、なんで私がわざわざ戻ってこなきゃいけないの? 誰かいい人がいたら、いい場所で農場を作っちゃおうと思ってるんだから。手紙くらいなら書いてあげてもいいけど?」


「……じゃあ、いいよ。勝手にすれば」


 レシオンがこんなふうに突き放すことを言うのも、その人の話題を口にしたときだけだった。


(家を出るときに、こんな話をするんじゃなかったな)


 エルレアは、少し後悔する。

 とぼとぼと荷物を取りに家に向かうと、


「待って、エルレア」


 とレシオンが追いかけて来た。


「ごめん、ちゃんと見送るよ。家を出るときは、喧嘩なんかしちゃいけない。……無事を願わないと」


「……」


 まだ仲直りをする気がないエルレアにレシオンは困った顔をして、やがて根負けして、言った。


「……カラットだよ」


「え?」


「兄さんの名前」


「レシオン」


 エルレアは、すごく驚いた顔をした。


「わかったら、手紙でもいいから。僕にも教えて……他のみんなには、内緒で」


「わかった! ありがと、レシオンも大好き!」


 元気に走っていく妹に、レシオンは手を振る。


「……気をつけて」


 あのときも、こうして声をかければよかったと思いながら。


挿絵(By みてみん)














 ▪︎




『どうですか、人間たちは』


 久しぶりにセレニアが様子を見に現れた。


『生息域が広がって、数が殖えたよ。生気も前より量が多いし、質も良いし。たまに人間同士で数を減らすから、びっくりしたけどさ』


 ルヨは答える。


『でもそれは人間の習性の一つだって、言ってたよね。それより、精霊が人格を持ち始めたんだけど何でかな?』


『精霊がどういうものかを、私たちは知りませんからね。人間のことはこの五百年あまりで何世代か見てきましたけど、私たちは私たちが変化するものなのかということすら、わかりませんから』


高慢(タタディア)なんかうるさいんだ、前のように生気が食いたいって。共生(コカト)は人間を育ててくれるからいいけどさ。喧嘩するから、人間に任せることにしたよ? すごく強い願いには惹かれてしまうけどね』


『それで良いですよ。生気が枯渇する状況にさえならなければ。じゃあ、精霊の記録もちゃんと取っておいてくださいね』

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