閉ざされた部屋(第2章...後)
もし、ファルトーソーが襲ってきたら?
もし、白い山の封印が解かれたら?
幼い頃から彼女の頭の中は、不安でいっぱいだった。なぜなら、オルミスのはじまりの王オルマが、または賢人アイピレイスが、“生き物には死があるべき”としてしまったから。
「ヴァヘライザはいつも暗い顔をしているな」
そう言って、からかってくるのは従兄弟のアケリオ。父メルキド王の妹である叔母、ケワイス・オルミスの次男。誰かが言い誤ったのをきっかけに、みんなに「アキリ」と呼ばれている。
七歳も年上なので、最初は話しかけられるのが怖かった。
アキリは護衛術を習っているし、強すぎて、眩しすぎる。姉のシルキディアも妹のエッカーナもそう。両親も、宰相のオーネットも、オルミスにいる人々はみんなみんな眩しい。
誰も、恐ろしいことが起きるかもしれないということすら考えていない。自分だけが持っている不安、それが怖かった。
「おーい、ヴァヘライザ!」
アキリは、はじめは兄のような人だった。
「これ、食ってみな。城下町で買ってきたんだ」
お土産は三姉妹全員にあったし、遊ぶ時もみんな一緒だった。
「大丈夫だよ、ヴァヘライザ。そんなに心配しなくても」
ヴァヘライザと一緒にいてくれるようになったのは、いつの頃からだっただろうか。
アキリは大人になっていた。
そしていつしか、ヴァヘライザも。
頭を撫で、頬に触れ、抱きしめる。ヴァヘライザはそのぬくもりに、寂しさを預けた。
しかし、アキリの腕の中で、ヴァヘライザは考えていた。
もし、アキリに愛想を尽かされたら?
もし、アキリがいなくなってしまったら?
その不安を知っているから、アキリはヴァヘライザに会いに来る。真面目なアキリが、名前のない関係にしてしまったことに悩んでいると、ヴァヘライザは気づいていたのに――。
「え……どうして?」
ヴァヘライザは動揺していた。アキリが、エッカーナがオーネットの船に乗ると言ったからだ。しばらくは、会えないと。
「良い子でいろよ。帰ってきたら、たくさん話を聞かせてやるから」
なぜ、帰ってくる気がないと思ってしまったのか。
外の世界を見せたいという彼の言葉を、信じなかったのか。
アキリが帰ってこないこと。
……アケリオ・ケワイスが死んだと皆が言っていること。
起きるたび、忘れてしまう。
信じられるのは、この部屋に抱かれていた記憶だけ。
挿絵はAI生成で出来るだけイメージに近づけたものです。




