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セレニアの物語  作者: 和州さなか
第2章 オルミスの三人

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22 トガの実事件(後編)

「ヘイス?」


「トガの実じゃない。エキの根を使うな! 使えば船長は死ぬぞ」


 ヘイスは大きな声で叫んだ。全員が静まり、視線をヘイスに向ける。


「エキの根は万病の薬とも言われる。症状が似ているのだから、仮に違っても効かないということはあるまい。助けられると困るのではあるまいな?」


 コートナーの疑いの目が、ヘイスを標的にした。


「待ってくれ。ヘイスの話を聞こう」

 

 エッカーナが、前に歩み出る。

 すると、


「やはり、ずいぶんその青年にご執心のようですね。エスラ船長夫人?」


 グィオが、彼女に対峙した。


「何度か二人で居るところを見かけましたよ。……まさか、夫が邪魔になって……」


「わたくしが……だと……?」


 エッカーナの体がわなわなと震え出す。切れ長の大きな目は、更に大きく見開かれていた。

 グィオの背後で、アキリが出て行こうとするのをワイロフが止めていた。


「疑いは平等にされるべきでしょう。あなたがどれほど高貴な出自かは知りませんが、船長夫人というだけでは、俺たちの指揮を取る権限はない」


「わたくしは……わたくしは、オルミスの――」


「エスラ!」


 正体を明かそうとしたことを察し、ヘイスは怒鳴った。エッカーナは驚いて、ヘイスを見る。


(あの顔……状況理解が追いついていない)


 なぜ止められたのか。

 なぜヘイスが声を上げたのか。

 誰を信じ、何を疑えば良いのか、どう振る舞えば良いのか――エッカーナの顔には、困惑の色がまざまざと浮かんでいた。

 仕方なく、ヘイスは言った。


「隠すのはやめよう。()()()()()()は」

 

 今、エッカーナの正体が露見するくらいなら、関係を疑われている方がずっといい。

 

「だが、今はそれどころじゃない……トガの実では発疹は起きない。あれはヨハナの毒だ。エキの根を使うと症状は悪化する。治すには、精霊に願うしかない」


「ヨハナの毒? そんなもの、聞いたことがありませんよ」


 ヘイスは、一度ゆっくり深呼吸をする。全員の視線を受け、慎重に。

 

「……北の町で使われる毒だからな」


 しかし、覚悟を決めて言った。


「なら、お前しかいないではないか! ヘイス・カフェトー!」


 コートナーが厳しい表情で指を突きつける。


「カフェトー、ですって? 彼が?」


 グィオが驚いて目を丸くする。


「待て! カフェトー家は、オルミスの同志だ。彼は保護しなければならない!」


 エッカーナがコートナーを止めようとしたため、アキリとワイロフの注意がそちらに向いた。

 ドラギエルがうまい具合に、入り口で呆然と突っ立っていた。


「逃げるぞカラット。ついて来い」


 喧騒の一瞬、ヘイスは小声で囁く。カラットは自分が関係ないときも周囲の話を耳聡く聞いているので、顔を向けなくても一度で聞き取ると信じた。


「逃……え?」


 アキリが先に動き、ワイロフの足が上がった瞬間――


「来い!」


 ヘイスはベルトを引っ掴み、揉めている三人の横を走り抜け、入り口のワイロフを彼らに向かって力いっぱい押し倒した。「行け!」とカラットに言いながら、咄嗟に身構えたアキリの側頭部に蹴りを入れる。


「な……っ!」


 アキリとともに椅子が床に倒れ、大きな物音が響いた。

 唖然としているドラギエルに向かって、「お前も来い!」と背中を蹴った。転びかけたドラギエルの服を引っ掴んで立たせると、甲板へ駆け上がった。


「二人とも、小舟に向かえ!」


 有無を言わさず、船尾に向かって走らせる。

 カラットとドラギエルは追っ手を見てその形相に、足を速めた。

 

 小舟を下ろしている時間はない。吊られている小舟へ二人を飛び込ませた。ドラギエルが乗り込んだとき、重量が一気にかかりロープが悲鳴を上げた。大きく揺れる小舟に飛び乗り、ヘイスはつかんでいたベルトからナイフを抜いた。


「……ヘイス! なぜだ!」


 エッカーナの声が響き渡る。


「しっかりつかまっていろ!」


 ヘイスは一本目のロープを切った。


「なぜ逃げるんだ! 堂々と、身の潔白を……」

「待て!」

「やめろ、その舟は……っ!」


 手を止めることなく次々とロープを切っていき、小舟は大きく揺られ傾いた。

 グィオとコートナーが船尾から身を乗り出し、残ったロープをつかむ。

 ヘイスが最後のロープを、切った。

 

 

 闇の中に落ちていく。

 

 海面に打ち付けられた船首から、ドラギエルが海に転がり落ちた。必死にしがみついていたカラットは縁に頭を強く打ち付け、意識をなくして倒れた。

 ヘイスは水音を頼りにドラギエルの重たい服をつかみ、舟の動きに合わせて大きな体を小舟の上に引きずりあげた。


「はぁ、はぁ……」

 

 小舟を奪ることには、成功した。

 船から叫び声が聞こえている。あちらからは、影になってほとんど何も見えないだろう。


 まだ生きている。

 三人とも生きている。


「はぁ……」


 近くに浮いていた櫂を拾い上げ、漕ぎ出す。

 離れた船を一度振り向き、つぶやいた。


「……」


「げほっ……げほ、……エ……エッカーナ?」


 塩辛い水に咳き込みながら、ドラギエルが聞き返した。

 

「……エッカーナ号と、言っただけだ」


 ヘイスが困ったような顔をしているのを、ドラギエルは初めて見た。



挿絵(By みてみん)


挿絵はAI生成で出来るだけイメージに近づけたものです。

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