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セレニアの物語  作者: 和州さなか
第2章 オルミスの三人

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21 トガの実事件(前編)

「お前も来い。逃がさないからな」


 アキリに言われ、ヘイスも船長室に向かった。

 一瞬、視線を船尾に向ける。問題はなさそうだった。


 扉は開け放たれていた。

  

 床には食べ物が散乱している。

 エッカーナは部屋の中に踏み込んでいく。横たわっているオーネットの口から、泡を吹いているのが見えた。そばには船医のライザスがついている。

 ワイロフがバケツで水を運んできた。治療をするのに十分とは言えない量だ――真水も、もう底をつく。

 机の上に広げられた海図は、オーネットの吐瀉物で汚れてしまっていた。

 部屋の端には、真っ青な顔をしたカラットが震えながら立っている。その近くにある小棚の上には、オーネットに預けていたヘイスのナイフとベルトがあった。


(……)


 オーネットの体が激しく痙攣し、のたうつ音がした。手や足に、ぶつぶつと赤い小さな斑点が出ている。


「オーネット殿!」


 エッカーナが何度も呼ぶ声に、反応する様子はない。


「カラット、何があった?」


 ヘイスはカラットの隣に立ち、小声で話しかけた。


「お……俺が扉を叩いたときには、まだ話し合いをしてた。たぶん、揉めてたんだ。……船長が俺を見て、一度、食事にしようと言って……みんな賛成して、甲板長たちが出て行こうとしたんだ。そうしたら、急に船長が……!」


「食事はどこから持ってきた?」


「……ナバルがいた。船長の食事を頼まれたって言ったら……良かったなって、言ってくれたんだ……」


 料理長と甲板長の姿が見えないのは、調理場と、他の乗組員の確認に行っているのだろう。

 ヘイスは入り口を見た。アキリとワイロフが道を塞ぐように立っている。


(……王女の関係者はあの二人)


 彼らも、ヘイスと同じように神経を尖らせている。


(病気。食中毒。栄養失調……違う。そのどれでもない、これは……)


「毒の症状です」


 船医のライザスが言った。


「他の乗組員で症状が出た者は?」


 問いかけに、ワイロフが「いいえ」と答える。部屋にいる全員が、表情を引き締める。カラットにも、わかったらしい。

 

船長(オーネット)を殺そうとした者がいる。


「君たち、退きたまえ」


 入り口の二人の後ろから、しわがれた声がする。部屋に入ってきたのは、料理長のコートナーだ。


「ライザス、どうだ。必要な物は」


「コートナー、毒です」


「毒?」


 船医の言葉に、料理長の顔がみるみる真っ赤に染まっていく。


「また、私の料理に何かを入れた奴がいるのか!」


 部屋の外まで響く怒りの声。

 コートナーは携帯灯をかざし、海図を汚した吐瀉物をじっくりと見つめ、食器がひっくり返って割れた床に這いつくばった。

 散乱する食べ物の中から、何かの欠片を摘み出す。周りの色を指で落とし、小指の爪ほどの大きさの、黄色い表面をこすり出した。

 匂いを嗅ぐ。

 

「ライザス、これを見ろ」


「トガの実……? なぜこんなものが!」


「もちろん、食材としてあり得ない。誰かが持ち込んだのだろう……コカト出身の者がいたな? 彼を、ここに呼びたまえ」

 

 コートナーが、アキリたちに向かって言った。


(まずいな)


 ヘイスは、ドラギエルが表に立たされるとは思っていなかった。すごく嫌な予感がする。


「トガの実って、コカトの森にしかないっていう……?」


 カラットが、ヘイスにしか聞こえないくらいの小声で呟く。

 

「それと、すぐにエキの根を持って来て下さい。調理場から、急いで」


 ライザスが言い、エッカーナが動いた。ワイロフがついていく。


「……違う」


 ヘイスの呟きに、カラットは振り向く。しかし、ヘイスはそれっきり黙っていた。

 ドラギエルがグィオ甲板長とともに部屋に入ってきた。

 ヘイスとカラットを不思議そうに見つめ、吐瀉物の臭いに顔をしかめる。オーネットを見て愕然とし、後ずさる。

 しかし、逃げ道は既に塞がれていた。


「君はコカトの出身か」


「は……はい……」


「オーネット君は誰かに毒を盛られたらしい。トガの実はコカトの森にしか生っていないものだ」


 コートナーは静かに、ドラギエルに言った。


「は、はい……あの……そうだったと、お、思います」


「この毒を船内に持ち込んだのは君か?」


「え!?」


「私の料理に、このトガの実を混入したのは君かと聞いてるんだ!」


 すっかり萎縮しているドラギエルに、コートナーは追い打ちをかける。

 しかし、おろおろするドラギエルの肩を、グィオが庇うように叩いた。


「コートナー、すまないがこの青年の身の潔白は俺が保証します。彼はこんな大それたことは、とても出来ない性格です」


 それよりも、と。グィオの赤い瞳は、カラットを睨む。


「船長に食事を運んできたのは、そっちの青年でしょう。あなたのところにいた……」


「彼はロット農場の出身だ。食べ物を扱ってきた者が料理に毒を入れるなんてことは、絶対にない」


「そんなのは、わからないでしょう」


 二人が言い争いを始めたところに、エッカーナが戻ってきた。手には、橙色をしたエキの根を握っている。

 エッカーナの手から、ライザスへ渡される。


(くそ、オルミス人は誰も知らないのか!)


 ヘイスは躊躇したものの――

 

「これは、トガの毒の症状じゃない」


 ついに決心して、声を上げた。

 何者かの強い意志が、自分を捕えようとしている。そんな恐れを、抱きながら。



挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


挿絵はAI生成で出来るだけイメージに近づけたものです。

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