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セレニアの物語  作者: 和州さなか
第2章 オルミスの三人

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12 舳の怪


「えっと……あの……だから……」


 エッカーナたちが甲板に上がると、男が二人いた。そのうち一人は、エッカーナが船に乗せたあの大男だった。

 

「だから何だ! その次を早く言え!」


 もう一人の男は大男を怒鳴りつけている。止めるべき甲板長の姿は、辺りになかった。


「だから……あ、船長!」


 甲板員はオーネットに気付き、即座に姿勢を正した。


「まあ、そう騒ぐものじゃない。私が話を聞こう」


「う……」

 

 大男は真っ青な顔で、今にも吐きそうだ。甲板掃除用のブラシを握っている。既に吐いた後なのかもしれなかった。


「船酔いだな。大丈夫か?」


 大男の視線は落ち着かない様子でオーネットとエッカーナを行ったり来たりしていたが、視線を落とした瞬間に、緊張が解けたような表情をした。

 エッカーナとオーネットが視線を追うと、そこにいたのはヘイスだった。

 

「……何かあったのか? ドラギエル」


 二人の後ろからヘイスが出て行って尋ねた。大男は何度もうなずいた。彼らは知り合い、というよりも親しい友人同士のように見えた。

 エッカーナは、彼とカラットとヘイスが一緒にいたのを思い出した。

 大男が落ち着いた様子だったので、エッカーナは声をかけた。

 

「ドラギエル。問題がある場所に私たちを案内するんだ」


「はい! 船長!」


 ドラギエルは即座に返答し、船首に向かって歩き出した。船の揺れに足を取られ、たどたどしく歩を進める。

 それについて行くと――。

 エッカーナたちの目にも、彼が報告しようとしたものが見えてきた。


 波を越えるたび上下に動く船首の先に、柔らかく光るものがある。


(精霊? いや……)

 

 それは、人の姿をしていた。

 水のように揺らめく体を通して、空と海、近づいてきたルワリ島が見えていた。

 幼子のような顔。

 エッカーナと目が合い――キラキラと飛沫のような光を残し、消えた。

 


「今のは一体……」


「人の姿をしているのは、精霊王セレニアか精霊ルヨでは?」


「しかし、伝えられる姿とまったく違ったな。あれこそ海の大精霊ファムレではないだろうか……」


 (へさき)に集まっていた一同は、呆然と立ち尽くした。


(あれは……わたくしに付いていた精霊……?)


 エッカーナは、確かにそう感じた。が、水のように揺らぐ幼子は、エッカーナに向かってにやりと笑いかけた――そのように、見えた。


「……あ……」

 

「どうした? ドラギエル」


「……いや、……」


 そう言ったきり、ドラギエルは話すのをやめてしまった。


(怒鳴りつける気持ちも、わからなくはないな)


 エッカーナは自分が揉め事を起こさないよう、追及しないことにした。


「もういい。少し休んでろ」

 

 ヘイスが言った。ドラギエルが持っていたブラシを受け取り、帆柱の方へ連れて行く。

 その様子は、エッカーナの目には、友人を優しく介抱しているように映った。


(オルミス人として、生きたい……)


 ヘイスが、その言葉だけ口に出すのを躊躇していたことを思い出す。


「例の報告と、整合性は取れている。完全に信用したわけではないが。彼は私が監視する」


 二人の後ろ姿を見ながら、オーネットはエッカーナに言った。


(つまり、受け入れたフリ……)


 上衣を脱ぎ傷を見せたヘイスの方が、よほど誠実なのではないか。

 第三王女エッカーナは船長夫人エスラと偽り、誠実と評判のオーネットは信用を騙っている。


(どちらが、真にオルミス人として在るべきなのか――)


 無表情なヘイスの目の中で、携帯灯の火を映して揺れる、灰色の瞳。彼の持つ全てに反して切実に訴えるようなその視線は、今もエッカーナを捉え続けているように感じられた。



 

 エッカーナ号は一刻ほど経って、二番目(ルワリ)島の船着場に到着した。

 オーネットの腹心、アンデロス・ルペッサン、トムス・ルペッサンの兄弟がいた。エッカーナ王女を知っている二人には、この航海では船長夫人として扱うように言い渡した。

 兄弟はそれぞれ【右腕号】、【左腕号】という中型船を指揮し、エッカーナ号に先行する。海底の深度を調査し、航海可能ならエッカーナ号を進行させる。すぐに陸地が見えない場合、ルワリ島に戻り補給を行う。


「なんだ。見果てぬ地へ大冒険、というわけでもないんだな」


 オーネットの説明に、エッカーナはがっかりしたように言った。船長室。大きな机の上に、海図が広げられている。


「成功には地道な努力が必要です。過去に沈没した船もある。しかし、そのおかげで私たちは岩礁を避けられる。この【エッカーナ号】が成功をつかむか、礎となるか……どちらにせよ、オルミスの大きな一歩です」


「成功させよう、必ず」


 エッカーナの言葉に、オーネットは笑ってうなずいた。

 

 エッカーナは、机の上に置かれたナイフを見る。

 ヘイスがオーネットに預けているものだ。エッカーナの視線に気付き、オーネットがナイフを手に取った。


「使い込まれ、よく手入れされている。ナイフがないと船乗りとしても仕事が限られてしまうが、まあしばらくは預かっておきましょう」


 ここで話を聞いた後、オーネットはヘイスを見張り台に上らせた。

 軽々とロープを上って行ったのを見ると、船に長けているというのは本当のようだった。

 見張り台にいれば、舵取り場からもよく見える。ロベリタスには事情を話し、ヘイスに不審な動きがあれば報告するよう言った。


 エッカーナは船長室の窓から海を眺める。


(北の狼、謎の精霊、嘘つき王女……なんだかおかしな航海になってしまったな)


挿絵(By みてみん)


挿絵はAI生成で出来るだけイメージに近づけたものです。

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