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セレニアの物語  作者: 和州さなか
第1章 アルソリオのトゥヴァリ

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ファルトーソーとカフェトー(第1章101年後)


 元より、意見は様々だった。


 例えば、メイノーシュ。ミルシュカとゲイノーの長女。彼女は宮殿の崩壊時、八歳だった。

「私、前の方が良かった! トゥヴァリおじさんったら、余計なことをしてくれたわ」


 メイノーシュの弟のレシェノは、

「僕は今の方が楽しいよ。英雄トゥヴァリの森に住むんだ! ルードミリスと約束したんだよ」



 ファルトーソーの祖母レーンは、よく働いたものだった。

「とても楽しいわ。仕上がった服に文句を言う人さえいなかったら」




 

 年数が経つにつれ、意見は増えていった。

 

「最近、目が見えなくなってきた」


「本当に嫌な人。どうしたらいなくなってくれるのかしら」


「これ以上、体が醜くなるのに耐えられない……」


「俺たちばかり働いて、あいつは何も出来やしない」


「トゥヴァリは俺たちから精霊を奪い、自分だけのものにした! その意志を継ぐオルマとシロンから、精霊とアルソリオを取り戻そう!」



 鳥の大精霊カヴマイラは言った。


『見ろ。だから、人間を再び繁栄させるのは間違いじゃないかと言ったんだ』


 

 ▪︎


 

 人々が集まっているのは、崖の上に立つオルミス城。

 赤い布地の中心に一つ、大きな白い輝き。精霊王セレニアを示すオルミスの旗が城壁に垂れ下がり、城門を覆っている。

 城門前の広場に、祭壇が置かれている。

 百歳を迎えたオルマ王と、九十七歳のシロン女王が現れた。妻が夫の手を引き、祭壇の上に登る。オルマ国王は、白い布をかけられた祭壇の上に横たわり、シロンと夫妻の子や孫が祭壇を囲む。

 集まった人々は、願った。

 星の輝く夜空を見上げる者。胸に手を当てうつむく者。祭壇を凝視する者。思い思いに――王の死を。


「ありがとうシロン、オルマ」「王様、さようなら」「良き眠りを……」


「まだ死なないで」という小さな願いが、彼らの選択を邪魔しないように。

 

 昔、賢人アイピレイスが、皆に死に方の手本を示した。年老いた者は精霊に最後の生気を捧げ、後の人々の平和を願う。人々は、精霊が死にゆく人に安らかな眠りをもたらすことを願う。

 町中から、淡い光の球が浮き上がる。風に吹かれてか、吸い寄せられてか、祭壇の方へ漂っていく。

 夜空は精霊王セレニアの髪。

 儀式は満点の星空が現れる黄昏に行われる。人々の背後の空が、橙色から薄紫色に染まり、星々がひとつ、またひとつと現れ、夜が訪れる――“セレニアに(いだ)かれる”とは、葬儀の時に夜空が降りてくるこの瞬間のことを意味する言葉だ。


「何で王様たち、死んじゃったの?」


 涙声が、家路につく人々の足元から聞こえた。


「疲れたんだろうな。色んなことを自分でやった人たちだから」


 答えたのは、小さな弟を見失わないように言いつけられた兄。名はカフェトーと言った。


「疲れると死んじゃうの?」


「あのさ、お前だって面倒なことは早く終われって思うだろ。人生だって同じさ。もう終わりにしたいって思うときが来るんだよ。まっ、俺はいつも思ってるけど」


「兄ちゃん、死んじゃうの?」


 幼い顔が、悲しそうに兄を見上げた。

 カフェトーに与えられた面倒ごとのひとつ――弟、ファルトーソーの世話。

 

 だが、この仕事には、死ななくても終わりがくる。

 

「……ま、しばらく先だよ」


 ファルトーソーが成長したら、面倒な日々は終わるのだろうか。

 カフェトーは柄にもなく、少しだけ将来のことを考えた。



 

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