表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セレニアの物語  作者: 和州さなか
第1章 アルソリオのトゥヴァリ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/58

才女オーレリー(第1章21年後)

 ハーヴァが息を引き取った。


 勝手だと思いながらも、家族の元に帰してやりたい。彼女の部屋の写真立てから推測するに、家があったのは欧州のどこか。写っている公園は、私の記憶にあるような観光地ではなかった。


 精霊王セレニアは、この世界には留まらなかった。当然だ。神には神の世界があり、だからこそ、神なのだ。私は今現れている、大精霊ナランサに尋ねた。


『この場所の外は、荒れている。その場所自体がないかもしれない』


 ナランサは私を草色の背に乗せて、空を駆けた。

 意味は、すぐにわかった。雲の流れも、海の波も、アルソリオがある大きな島とその近辺を避けている。三百年もの間、嵐や天災がない地域だと思ってはいたが、こういったカラクリがあったのだ。


「隔絶されていたのか、これは大精霊の力で?」


『そうだ。セレニアは人間が生きる環境を整えている』


「なんということだ……」


 私の目から、涙が溢れた。神の絶大さと、偉大さに。

 これに比べたら、個人的な願望など瑣末(さまつ)なものだ。セレニアの不在を嘆いていた自分を恥じる。


 その代わり他の場所はナランサが言った通り、ひどいことになっていた。例えばあの島一帯にも影響を及ぼすはずの気候や、おそらく地殻変動のエネルギーも、すべてが他にまわされているのだろう。ただし、ひどいというのは私の感性で“人間の作ったものが崩壊している”という状態を表現したに過ぎない。


「確かに、これではハーヴァが住んでいた町も家族の墓も見つからない」


 私は、勝手なお節介を諦めることになった。

 ハーヴァの遺体は西の森に埋め、小さな墓を作った。




 

「アイピレイス様ー」


 呼ばれて、海に出かけると彼らが手を振っていた。

 レニスとラナの息子オルマと、トゥヴァリとペルシュの娘シロンの夫婦だ。


 コカトの森から海へ流れる川。その横の崖の上に、彼らの小さな家があった。だが、様子はずいぶん変わっていた。

 小さかった家は、以前より大きくなっている。


「人が来るので、大きくしたんです」


 崖の下にも、たくさんの家がある。

 少し離れた場所に牛や羊がいるのは、フェールとミオナの娘ロットの家だろう。


「この町の名前を、オルミスにするかシロニアにするか揉めてて」


 オルマがため息をつき、シロンが口を尖らせる。


「うーん。シロン、私が思うにはね。精霊にとって、オルマには“新しい”という意味があって、シロンは“娘”と言う意味だそうだ。オルミスの方が町の名前には相応しいのではないかと思うよ」


「もう、なんでそんな名前なの! 父さんのバカ」


 シロンはふてくされて、崖っぷちへ走っていって座り込んだ。


「大丈夫ですよ。なにか別のものにシロンの名前を使います。なにか、機嫌が治りそうな」


「英雄の娘じゃなくて、自分が英雄になりたい」と言うシロンは少々危なっかしいところがあるが、オルマがいるので安心だ。


 ウェリーとハイエルの娘オーレリーがやって来た。


「あ! アイピレイス様、こんにちは。オルマ、ケレンが勝手にイースの物を使ったからって、喧嘩になっているの。どうにかしてくれる?」


「わかったよ」


「ありがとう。私が言ってもだめだけれど、オルマの言うことなら聞くわ、みんな。あら、シロンはどうしてあんなところにいるのかしら」


「町の名前がオルミスになったんだ」


「じゃあ、この前言ってた花の名前をシロンにしたらいいんじゃない?」


「ああ、それだ。きっとシロンも気にいるよ。ちょっと行ってくる」

 

 オルマは崖の下へと降りていった。

 オーレリーは、私に言う。


「アイピレイス様、家を用意するので、しばらくこちらにいてくれませんか。人が多くなってきたら、困ったことがたくさんあるんです。オルマが大変でしょう。本当はシロンと家にいたいのに、そんな暇がないのですって。シロンがわざわざオルマと揉めるのは、それが原因だと思うんです」


「うーん、なるほど」


 アルソリオの人々にとって、精霊の導きがあった相手と時間を過ごすこと――性交渉を行うことは、彼らに与えられた少ない活動の中の一つだった。大精霊セレニアは人々に殖えることを求めたので、アルソリオはそれが行えるように家をたくさん並べたのだ。オーウェン風に言うと“飼育下繁殖”であり、私は勝手にその血統の管理を己の役目としていた。名前と家族を維持することで、せめてもの人間性が保たれるのではないかと思ってのことだった。


 そういうわけで、彼らにとってはその時間は重要な、必要な、そして当然のものであり、私が元々生を受けた文明よりも開放的だ。

 

「うーん、私はあまり、この世界に干渉したくないのだけれどね」


「どうしてですか? アイピレイス様だって、私たちと一緒に生きていますのに」

 

「私は本当はここにいるべきではないからね」


 人間は、もっと文明的な生活を取り戻すべきなのかもしれない。

 私の知識でできる限りの道具や機械、技術を再現し、便利で豊かな暮らしに戻す。完全にではなくとも、ある程度できるだろう。精霊は存在する物を移動させることは簡単にできるようなので、あのごみの集積所のような旧文明の残骸から、材料は集められるはずだ。

 しかしアルソリオの無垢な人々を見ていると、人間はまたここからやり直した方がいいのではないか、と思う。旧文明の歴史をたどるようなことをしなくても、再び何かを作り出すだろう。ましてやこの世界には、神たる存在、精霊王と魔法が作用しているのだから。


「アイピレイス様、おいくつになられたんですか?」


「341才だね」


「私は22才ですよ。アイピレイス様は、長生きされているだけで同じ人間ではないんですか?」


 オーレリーは微笑んだ。

 いつしか賢人を不死の化け物と思っていた私を、ただの人間だと自覚させる。

 彼女は祖父のサキタリによく似ている。彼も賢く、好奇心旺盛な子だった。


「どうだろうね」

 

 このまま老いて死ぬことでようやく、人間に戻れるのではないかと思っている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ