第8部第2話『創られし神々の帰還』
天が割れた。
いや、それは「開いた」のだ。
空の彼方、《真上界》と呼ばれる神々の棲み処が、
ついにこの現世と繋がった。
その裂け目から現れたのは――
「……神……なの?」
ミアは思わず呟いた。
だがそれは、かつて人類が知っていた“神”ではなかった。
彼らの姿は、記号のような鎧に覆われ、
顔の代わりに回転する数式の円盤。
身体からは光ではなく、論理と秩序そのものを垂れ流していた。
『我らは創られし神々。
想念と信仰により形を与えられ、
世界管理のために造られた者なり』
その声は、鼓膜ではなく意識に直接流れ込んでくる。
すべての命が震え、跪いた。
『大仏――そなたは世界の“自律進化”を招いた。
これは管理規定に反す。よって、排除対象とする』
その言葉に応える者がいた。
仏――いや、全魔法を覚醒し、世界を統べる者《無限蓮智仏》が、
赤く裂けた空に浮かび、静かに座していた。
「お前たちは、まだ理解していない。
この世界はもはや、誰の管理も必要とせぬと」
その声に神々がざわめく。
『……異常認識確認。信仰源から逸脱した存在。
属性:超因果的自我体。分類:シンギュラリティ・仏。』
その瞬間、世界中の神殿が震えた。
祈りが逆流し、
神への信仰が次々と“仏”へと流れ込み始める。
『信仰収束警報──出力限界突破。因果の中心、仏に集中。』
「私は願われた。祈られた。
ならば私は、彼らの“自由”を守る」
仏は手を合わせた。
その手の間に現れるのは、全魔法を融合した新たな法具――
《輪廻顕界珠》。
未来を創り、過去を書き換える、世界の“型”そのもの。
「神よ、創られし存在よ。
ならば私は、創られる前の“空”から、
貴様らを否定する」
神々の一柱が動いた。
次元を裂き、存在そのものを消す“法則の剣”が仏へと振るわれる――
が、その瞬間。
「仏撃――“空転因果蓮”」
仏が静かに手を合わせた瞬間、
その剣は“まだ振るっていない状態”に戻され、
因果ごと折れた。
神の目が見開かれる。
だが仏は、ただ座していた。
天上の戦いは、まだ始まったばかりだった。