転生したら大仏だった件Ⅳ 〜仏界戦記・神を斬る者〜
――すべての神を越えろ、沈黙の仏よ。
【序章】
静寂は訪れた。
《黙天樹》が満ちた世界《浄音界》。
人も魔族も、祈りで通じ合える世界。
だが、外界がそれを許さなかった。
遥か天上、宇宙の果てに、神々の連合国家《天機殿》が存在していた。
そこでは無数の神々が「信仰」「力」「秩序」「戦争」を司っている。
彼らにとって、《沈黙》は“信仰喪失”と同義だった。
「無音の仏が神々のバランスを壊した。
ならば――抹消するまでだ」
**神殺し戦争(ラグナ=ディヴァイン)**が始まる。
《黙天樹》が空に裂け、神々が侵攻を開始する。
最初に現れたのは【剣神カルヴァトラ】。
巨大な光の剣を操る、武の象徴たる神。
彼の斬撃は、言葉すら切断する。
「黙って座す神よ――俺に“語れる力”などない。
だから剣で話す!」
仏は人間形態で迎え撃つ。
だが剣神の力は想像以上。
リュミエが叫ぶ。
「仏さまが……傷ついた……!」
その瞬間、仏の中の何かが目覚める。
【進化スキル獲得:「輪廻再臨・六道顕現」】
・かつての六つの生を思い出し、超覚醒
・六形態:天人/阿修羅/人間/畜生/餓鬼/地獄
・各形態で異なる戦闘能力と人格特性を発揮可能
剣神の斬撃を、阿修羅形態が受け止める。
「剣で語る? ……ならば、我が拳で返そう」
修羅の炎に包まれ、仏が暴れる。
その一撃で、神の剣が砕け散る。
剣神は敗れ、静かに笑って消える。
「ああ……沈黙って、すげぇな……」
天機殿の主神たちは仏の覚醒に戦慄する。
「あれは……ただの座す神ではない。
“創造者そのもの”になりかけている」
主神議会が決議を下す。
「仏は、世界を作る存在――我々を超える可能性がある。
ならば、この宇宙から抹消するしかない」
その命を受けて動いたのは、
全神を統括する最上位神。
彼女は宇宙そのものと一体化しており、
時間・因果・空間を司る絶対存在。
戦いの合間、リュミエが倒れる。
彼女の体に刻まれていた“声の呪い”が、かつての戦いの残響で再発したのだ。
「わたし……もう、祈れなくなるかも……」
仏は何も言わず、そっとリュミエの手を取る。
彼女の中に、自らの“心音”を分け与える。
【ユニットリンク:心輪共鳴】
・仏と少女が心臓の鼓動を共有
・一体化することで“無音”の中に“生命の音”を宿す
リュミエが立ち上がる。
「わたし、もう泣きません。
仏さまの静けさが、ちゃんと生きてるから」
メタトラクシアとの戦いは、
物理すら超越した、“神の概念”のぶつかり合い。
仏の六道は、次々と打ち砕かれる。
空間が壊れ、時間が逆行し、記憶すら削除される。
それでも仏は言う。
「……沈黙は、消えない。
言葉が消えても……祈りは、心に残る」
【最終覚醒:「原初仏身・黙示胎蔵」】
・宇宙以前の仏の姿
・沈黙そのもので構成された完全存在
・一切の概念干渉を無効化
リュミエが“祈りの矢”を放つ。
仏が“無音の剣”で穿つ。
――神の玉座が、静かに崩れた。
宇宙の中心に、大仏が再び座した。
その周囲を、無数の世界が旋回する。
「創造は、言葉でも、力でもない。
……沈黙の中で願う心、それが始まりだ」
リュミエが隣に立ち、新たな祈りを捧げる。
そして、ふたりでこう名付けた。
「この宇宙を――《浄寂界》と呼ぼう」
第四部 完
――次回予告:『転生したら大仏だった件Ⅴ ~仏、神界を去る~』
静寂の創造神、大いなる別れと再誕へ。