転生したら大仏だった件Ⅲ 〜祈りは神となる〜
【プロローグ】
声の神は滅びた。
沈黙の神は勝利した。
だが世界は壊れた。
音と祈りを奪われた人々は、いまだ彷徨う。
「平和」は訪れていない。
それは“言葉”ではない、“意味”を創る者――
すなわち創造神の仕事だ。
沈黙の神・大仏(俺)は決意する。
**「新しい世界を創る」**と。
俺とリュミエは、「声」の支配が終わった世界を巡っていた。
大地は裂け、空には音がない。
魔族も人間も、共に怯えている。
「仏さま……世界が、空っぽみたいです」
俺は大仏形態になり、座して言った。
「ならば、満たそう。無から、有へ」
【新スキル:「真空経・創界印」】
・空の世界に、祈りで“構造”を創る
・属性:仏界/天界/理界/心界(選択可能)
まず最初に創ったのは――
**「音がなくても伝わる心」**という世界。
中心に座す、大仏の手から生まれた大樹。
その名を《黙天樹》という。
この樹は言葉ではなく、“想い”で繋がる。
リュミエが手を添えると、
誰かの感謝が彼女の中に届く。
「……知らない誰かが、私に“ありがとう”って」
**世界初の“祈りによる通信”**だった。
【副スキル:「祈想通信」】
・人々の想いを音を介さずに共有可能
・邪心や怒りは遮断される
しかし、それを望まない者がいた。
神界の最深に囚われていた存在、
“旧き神々”が目を覚ます。
彼らは**「言葉による秩序」**に執着する者たちだった。
「祈りなど曖昧。我らの言葉が正義!」
その筆頭が、《コーラストラ》――
音声記録と再生の女神。
彼女はかつてヴォクスと共に世界を創った旧神であり、
“記憶に残る音”を操る。
彼女の攻撃は、過去の“絶望の声”を再生する。
「母の叫び、友の嘆き、捨てられた者の泣き声……お前の世界には耐えられぬ」
リュミエが膝をつく。
だが俺は、変身する。
【進化スキル:仏転神化】
・仏形態と人間形態の限界を突破
・中間存在:神仏融合形態「金剛法身」
黄金の鎧と六本の腕を備え、背には輪光と翼。
俺はこの姿で《黙天樹》の力を拡張。
「記憶の音ではない。祈りの意味を聴け」
リュミエも立ち上がる。
「私たちの世界には……静けさの中の“やさしさ”がある!」
祈りが音に勝ち、
《コーラストラ》は沈黙に包まれた。
彼女の最期の言葉は――
「……祈りも……一種の言葉だった……か……」
《黙天樹》の広がりにより、祈りの言語は定着しつつあった。
だが、それを信じない人間たちもいた。
「祈りだけでは腹は膨れん」
「神など見たこともないのに、なぜ拝める」
合理を重視する人間たちは、
新たに“機械の都市”を築いていた。
そこで生まれた新たな敵――
人工神
かつてのヴォクスのデータと音響構造を模倣し、
声を持たずに“無限に増幅する信号”を生む存在。
「人の感情に価値はない。
信号の整合性こそが、真の“祈り”である」
彼の支配する都市で、人々の心が徐々に鈍くなっていく。
ヴォクシオンとの戦いは、
音も祈りもない、“意味を持たない世界”の領域戦。
俺は祈るが、相手は感情も理解しない。
だが、リュミエが泣きながら叫ぶ。
「わたしの“ありがとう”は、計算じゃない!」
その涙が、ヴォクシオンの機構にバグを起こす。
俺はその隙を突いて、
【最終奥義・慈音寂滅印】を放つ。
「意味があることに、形などいらぬ」
信号を祈りへ変換し、ヴォクシオンを“優しい無”に還元する。
静けさに満たされた世界に、
再び音が戻ってくる。
それは言葉ではない。
木々のざわめき、川のせせらぎ、子どもの笑い声。
人々が「音」に祈りを見出した。
《黙天樹》は世界全土に根を張り、
人も魔族も、声を必要としない“祈りの共感”を手に入れる。
そして、最後に――
「仏さま、今の世界……名前をください」
俺はしばらく黙り、
そして小さく、ひとこと言った。
「……浄音界だ」
リュミエが笑った。
第三部 完
――次回予告:『転生したら大仏だった件Ⅳ 〜仏界戦記・神を斬る者〜』




