第4話『金剛と黒刃(こくじん)の激突』
大地が唸り、空が裂けた。
黄金に輝く仏の姿、《ルシフェル・アストライア》。
その全身から放たれる神気は、ただそこに立っているだけで、空間を圧倒する。
対峙するのは、黒鎧の騎士《黒の処刑人》。
剣を抜くことすらせず、彼は静かに言った。
「この力……やはり“あの神”が言っていた通り。お前は、災いそのものだ」
「……だったら確かめろ。俺が災いか、希望かをな!」
ルシフェルの声が天を打ち鳴らし、足元の地が砕けた。
瞬間、彼は閃光のように飛び出し、金色の拳を叩きつける。
「《仏拳・破邪羅刹砕》!!」
その一撃が空気を押し裂き、黒の処刑人へと突き刺さる——が。
「……遅い」
黒の処刑人が右腕を振るだけで、空間が裂け、ルシフェルの拳は寸前で止められる。
一瞬の沈黙ののち、二人の間に衝撃波が炸裂した。
爆風が森を薙ぎ、周囲の木々をなぎ倒していく。
「ルシフェル!」
リュミエが叫び、すぐに治癒魔法を展開するが、彼にはまだ傷一つない。
「俺は大丈夫だ。それより、こいつ……ただの騎士じゃない」
「当然だ。私は神の直系、“黒の執行者”」
処刑人は初めて剣を抜いた。それは、漆黒の光を放つ“因果律破断剣”。
「この剣に切れぬものはない。神さえも、運命さえもな」
「試してみろよ」
ルシフェルは再び構え、魔法と肉体の融合を試みる。
「《金剛陣・顕現》!」
仏像の後光のような六枚の光輪が、彼の背に展開された。
同時に足元から天までの光柱が走る。
リシュアが後方から叫ぶ。
「ルシフェル! あなたの魔力、まだ安定してない! 無理しないで!」
「やらなきゃならない時がある。守りたい人がいるからだ!」
彼の声が空を揺らし、空間が弾けた。
瞬間、ルシフェルの拳に宿ったのは――六属性複合魔法。
「《六道金剛撃・無詠唱展開》!」
火、水、雷、風、光、闇――六つの属性が回転しながら拳に集中し、
拳が放たれると同時に、地形ごと敵を飲み込むほどのエネルギーが放出された。
「喰らええええええッ!!」
咆哮とともに、天地を割るような一撃が黒の処刑人を襲う。
しかし。
「……ならば、こちらも応えよう」
処刑人は一歩も引かず、ただ静かに剣を横に振る。
「《因果切断・零式:反転世界》」
その一閃が全てを切り裂いた。
地、空、魔法、そして因果すら断ち切る剣――。
光と闇が正面から激突した。
——その瞬間。
リュミエが飛び出した。「《生命結界・緋》!」
リシュアが叫ぶ。「《双極障壁!》」
ナヤが精霊を展開する。「《精霊陣形・守護結界》!」
セリアが時間をずらす。「《時間遅延領域!》」
四人の魔法が、同時にルシフェルを包み込む。
瞬間、処刑人の斬撃は彼らの複合結界によって寸断された。
「……助かった」
ルシフェルが微笑む。だが彼の目は、まだ燃えていた。
「これが俺の力じゃない。俺たちの力だ」
黒の処刑人の兜の中で、初めて動揺が走る。
「仲間か……神に最も忌み嫌われる存在だ」
「そうか。なら、神に嫌われようと構わねぇよ。俺は——この世界に生きる!」
ルシフェルが右腕を掲げると、空間が震え始めた。
「《大仏奥義・真なる無詠唱魔術——創界咆哮》!」
空に円陣が浮かび、天地の法則が書き換わる。
黄金の仏の姿が天空に巨大化し、まるで神そのもののような“超大仏”が天を覆う。
その咆哮が、森中の魔物を震え上がらせ、処刑人すら膝をつかせた。
「こ、これは……次元そのものを震わせる魔法……っ!」
「《浄滅光輪・天照十方陣》、発動ッッ!」
轟音とともに、十方からの光が黒の処刑人を包み込む。
叫びもなく、処刑人の姿は消滅した。
……静寂。
風が戻り、森に再び木々のざわめきが戻る。
「……やったの?」
リュミエがおそるおそる言った。
「いや、奴はまだ死んでない」
ルシフェルは人間の姿に戻りながら言う。
「たぶん、“次の段階”へ行っただけだ」
「次……って?」
リシュアが眉をしかめる。
「俺たちの敵は、もっと……でかいものだ。世界の理そのものかもしれない」
ナヤが小さく頷く。
「……でも、私たちがいる。どんな敵が来ても、あなたを支えるよ」
セリアが笑った。
「時間を操作してでも、あなたを守るわ」
ルシフェルは一歩、みんなの前へ進み出た。
そして、笑う。
「なら、俺は負けない。……この世界を、ちゃんと生きてやるさ」
焚火の向こうで、4人の少女がうなずいた。
彼と共に歩むと、もう決めていたのだ。
神に抗おうとも、この大仏の生き様を信じて。
【第4話 完】




