第8部・最終話 『因果を超える者たち』
世界は静かだった。
“無”の王ゼロが、初めて沈黙したまま、動きを止めている。
彼の前に立つのは、
一人の仏。かつて人間として転生し、数多の運命を越えてきた者。
そして彼を支える、四人のヒロインたち――
リュミエ:かつての初恋にして再生の光。
リシュア:魔導の真理を追い、戦い続ける炎の姫。
ナヤ:契約獣と生き、命を守る獣巫女。
セリア:未来を視、運命を導く時の子。
彼女たちの魔力はすでに一体。
仏の内側でひとつの“魂の光”となっている。
仏「……これが、“人間”の可能性だ」
ゼロ『人間? 神? 仏? ……全て、矮小なる断片。
存在とは虚構。お前たちは、生きていると信じているだけだ』
仏は首を横に振る。
「いいや、私たちは――信じてきたんじゃない。生きてきたんだ。
苦しみも、絶望も、愛も、すべて現実だった」
彼の瞳が開き、光が走る。
千の手が世界を抱き、千の言葉が因果そのものを語り直す。
「ならば、見せよう。存在とは何かを――
お前に、記録ではなく、経験させる!」
究極形態:
《縁界真如・解脱の光》
仏は、大仏の姿からさらに進化する。
光の輪は無限に広がり、全宇宙の魂と“共鳴”する。
リュミエたち四人の魂が、仏の中心核と一体化。
それは、もはや魔法ではない。
それは“縁”そのものの化身。
人が人として在る、魂の真理。
「行くぞ――“無”よ。これは、終焉ではなく――
始まりだ」
剣が振り下ろされる。
四諦の剣が、“無”の存在定義そのものを断つ。
ゼロは砕けた。
それは敗北ではなかった。
彼自身が気づいたのだ。
『……これが、“在る”ということ……』
最後に浮かんだその声は、温かさすらあった。
空が青に戻る。
世界が、時間が、言葉が、感情が――息を吹き返す。
仏は、人の姿へと戻っていた。
肩に手を添えるリュミエの笑顔。
涙ぐむリシュアとナヤ。微笑むセリア。
「……終わった?」
仏「ああ。だが、これは新たな始まりだ」
セリア「ねぇ、仏様。次は……何をするの?」
彼は、空を見上げた。
「――旅をしよう。また、一から。
世界がある限り、私たちの物語は、終わらない」
四人の手が、仏の手に重なる。
そして、五つの魂は、歩き出す。
「転生したら大仏だった件」第8部 完