第7話 『無の王 vs 仏神変生 ―リュミエ、覚醒す―』
世界が崩れかけていた。
否、崩れていたのは“世界の定義”そのもの。
神々を生んだ創神を、さらに創った存在――“無の王”ゼロが動いたことで、
因果すら意味を持たなくなり、空も大地も、もはや概念として存在しているだけだった。
その中心で、仏は立っていた。
大仏の真形――仏神変生。
人の姿から、黄金の光背と千の手を持つ、無詠唱魔術と戦闘の両立した完全体へと変じた姿。
「すべてが無に帰るなら――私が“有”を立て直す」
だがゼロの圧力は、もはやあらゆる魔法と力の意味を無価値にしていく。
そのときだった。
空間が裂けた。
否、これは“時間の余白”――
因果の網から零れ落ちた、かつて失われた魂の記憶。
「――遅くなって、ごめんなさい」
その声は、優しくも凛としていた。
そこに立っていたのは――
青白い髪に、瞳は夜のように澄んでいる。
かつて仏と共に旅し、神々との戦いの中で命を落とした少女。
リュミエ――帰ってきた、仏の“最初のヒロイン”。
セリア「……リュミエ……!? どうして……!?」
リシュア「ありえない、あなたは……」
ナヤ「……でも、たしかに……生きてる」
仏の目に、微かに涙が滲む。
「君は……因果の外に落ちたはず……なぜ今……」
リュミエは微笑んだ。
「“無”が因果を壊してくれたから……私は帰ってこれた。
この世界に繋がるすべての魂の余白に、私はいたの。
でもあなたが、まだ“私との記憶”を忘れていなかったから……」
彼女は両手を合わせる。
その手のひらに、仏がかつて与えた“光の欠片”が再び現れた。
「あなたが私に託した魔法、ずっとここにあったのよ。
無詠唱、無制限、あなたと共にある魔術――《縁法典》」
リュミエ覚醒。
彼女の身体が光に包まれ、
過去の傷も、失われた命も、すべてが“因果の外”から戻ってくる。
彼女の魔力が、仏の背後から融合していく。
それはただの強化ではない。
「今ここに、“仏とヒロインの縁”が完成する――」
仏の光背が拡張し、彼の手が再び構えられる。
「ゼロ。貴様は確かに強大だ。
だが、“絆”は無の中にさえ、道を見出す」
「――《有縁界顕現》!」
リュミエの魔力と仏の意志が融合し、
世界の核心に“縁”という名の魔法構造が発動する。
無すら因果へと引き戻す、“存在の再定義魔術”。
『……その魔法、我には理解できぬ』
「ならば消えるがいい。お前はもう、存在の余白にすら値しない」
光が爆ぜ、音が砕ける。
“無”との決戦が、今、真に始まる。