第6話 『創神を創った“無”の王と、三つの縁(えにし)』
世界が止まった。
否、因果の流れが一瞬だけ静止したのだ。
天上、神々の上位存在すら届かぬ“無因界”。
そこから現れた者――それは仏ですら感知できなかった“存在の外”にいた者。
『観測された。不要な存在が、目を向けた。』
低い、重く鈍い声。
仏は人間の姿のまま、その声の主を見上げた。
黄金の僧衣を纏いながらも、瞳に燃える炎を宿した青年。
それが今の彼の“常の姿”だった。
「……あれが、“創神の創造主”……」
その名は、無。
名も姿も持たぬ存在。あらゆる神話の起点にして終点。
この世界を創った“創神たち”すら、この存在により“生まされた”だけに過ぎない。
だが仏は、怯まない。
その背後に、三人の少女が立つ。
ひとりは、魔導を極めた炎の姫・リシュア。
ひとりは、獣と契約する大精霊使い・ナヤ。
そして最後に、未来を視る巫女、時の子・セリア。
彼女たちは、仏と共に歩んできた“魂の縁”を持つ者。
そして仏にとって、ただのヒロインではない。
彼が人間であり続けるための、三本の柱だった。
セリア「仏様……あれ、止められるんですか?」
リシュア「無詠唱じゃなきゃもう遅いよ」
ナヤ「でも、あんたならやれる……」
仏は微笑んだ。
「この命、この魂、祈りと共に――魔法と化す」
彼は静かに右手をかざす。
詠唱は要らない。構築すらいらない。
思考と感情が、そのまま“術”となって溢れ出す。
「《蓮界結晶陣・無限式》」
虚空に咲いた一万の蓮。
そのすべてが魔法陣と化し、仏の意志で自在に構成されていく。
無詠唱・無限結晶式。
これは彼にしか扱えぬ究極の魔法領域。
その瞬間、無が動いた。
言葉も、表情もなく、
ただその存在が“世界を消す”命令として放たれる。
だが仏は、人間の姿のまま踏み出した。
「変化せよ――真形・大仏顕現」
彼の姿が金光に包まれ、
背に千の光輪を持つ、戦神の仏形態が現れる。
変身は瞬間。だがその一歩で、
因果律が“仏”へと収束し、世界の構造すら彼の一存で動く。
「お前に創られた者を、私は超えた。
お前の外に立つ存在として――
“無”よ、私が終わらせよう」
次回、決戦が始まる。
仏と“無”との、因果の彼岸を超えた戦い。
次回:第7話『無の王 vs 仏神変生』