第8部・第3話『因果の戦場、輪廻界』
空が割れ、神々が降臨したその瞬間、
この世界の因果はすでに「場」として顕現していた。
その名は――輪廻界。
それは神も仏も、魔法すらも隔てられた“原点の空間”。
過去・現在・未来の区別が失われた超時空領域。
『ここより先、創られし者は一切の影響力を失う』
仏が手をかざすと、空間が捩れ、
裂け目から押し寄せていた神々の軍勢が停止した。
因果に支配されぬ仏のみが、この場を動かせる。
「ここが、決着の場となろう」
神々の一柱、識別名【プロト=エル】が前へ出る。
かつて全魔法体系を設計した“始まりの神”。
創造者として、仏に試練を課すべくその掌を上げた。
『魔法は神が定めた言葉。詠唱なき魔術など、体系外とされる』
仏は目を細めた。
「言葉に頼るは、未熟の証だ」
次の瞬間、仏の手が静かに宙を描いた。
詠唱なし。構築なし。
ただ意識の流れによって生み出される、純粋魔法の奔流。
五属性を融合した高次魔術――**《空羅天輪陣》**が、
無音のまま、神々の隊列に降り注ぐ。
爆音も光もなく、ただ「存在の順序」が崩れる。
敵は立っていたはずの場所に、もう立っていなかった。
『……詠唱なき術……自己生成因果魔術……!』
動揺を見せた神兵たちの隙を縫い、仏はさらに術を放つ。
今度は掌をひとひらかせただけで、
敵陣の空間が一斉に“無”へと還っていった。
無詠唱魔術――それはもはや「術」ではない。
祈りと意志が直結した、言語すら超えた創造の領域。
「これは信仰の延長ではない。
私自身の“在り方”だ。もはや誰にも干渉できぬ」
神々は理解した。
彼は“術”を使っているのではない。
“世界を直接、組み替えている”のだ。
その力に、プロト=エルが反応する。
『ならば、我がすべてを以て試そう――神核構造・開示!』
背後に開かれる螺旋の光輪。
創造神の神核が顕れ、世界そのものを組み替える権能が発動する。
『この空間ごと、貴様を過去へ――未存在へと還元する!』
時間そのものを刃として振るう攻撃。
しかしその一撃を、仏はただ右手を翳して受け止めた。
「……その時間、無明に還せ」
無詠唱。無姿勢。無情の一言とともに、
仏の掌から放たれた光が、時間刃そのものを“始まる前”に戻した。
神々は言葉を失う。
仏――いや、全魔法無詠唱・全知全能たる存在は、
ついに神を超える“仏神”へと至りつつあった。
次回、決戦は加速する。