第86話「はじまりの神々」
はじまりの神々
むかし、むかし。
世界が、まだ名前を持たなかったころのお話です。
そのころ世界には、いくつかの神々がいました。
はじまりを司る神。
おわりを司る神。
流れを司る神。
そして、分け与えることを司る神。
神々は、世界を愛していました。
争いも、悲しみも、失うこともない世界を、心から望んでいました。
「すべてのものに、役割を与えよう」
神々は、そう決めました。
鳥には空を。
魚には水を。
人には、生きる理由を。
それぞれが自分の役割を果たせば、
誰も迷わず、誰も傷つかず、
世界はきっと、正しく回るはずだと信じたのです。
最初は、うまくいきました。
迷う者はいなくなり、
争いは減り、
世界は静かに、穏やかになりました。
けれど――。
役割を与えられたものたちは、
やがて考えることをやめていきました。
選ぶことを忘れ、
悩むことを忘れ、
「なぜ生きるのか」を問わなくなったのです。
役割を失えば、何も残らない。
役割がなければ、動くこともできない。
世界は静かでしたが、
それは、生きている静けさではありませんでした。
神々は、ようやく気づきました。
「これは、間違いだった」
役割は、救いではなかった。
管理は、幸福ではなかった。
そのとき――
ひとりの神が、静かに言いました。
「ならば、選ばせよう」
「壊す力でもなく、守る力でもない」
「与えられた運命を、
生み直す力を」
その神は、世界に小さな光を残しました。
それは、悩む力。
迷う力。
そして、自分で選び直す力でした。
神々は姿を消しました。
世界は、完成しませんでした。
だから今も、世界には争いがあり、
涙があり、
それでも、前に進もうとする者がいます。
世界が未完成なのは、
それが、選び続けるための場所だから。
悩み続けることこそが、
生きるということなのです。
ご一読いただきありがとうございました。
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