表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Karmafloria(カルマフロリア)  作者: 十六夜 優
9/48

第9話 灰の蝶と旅の始まり



――七年前、魔界の外れにある小さな村。

草と石の混じる道、風にたなびく洗濯物、薪を割る音。華繰夜は、そこで平凡に、でも幸せに暮らしていた。


「……ねえ、カグヤ!そっちの木の実、ちょうだい!」


幼い子どもたちの声が響く。まだ七歳だったカグヤは、少し控えめに笑いながら、枝の先に手を伸ばして実を取った。


「……うん、どうぞ。僕、もうお腹いっぱいだから……」


みんなが笑っている。夕日が差す。その日常が、永遠に続くものだと、思っていた。


だが、その日、カグヤは“蝶”と出会った。


――それは煤けた灰のような翅をもつ、静かで不気味な蝶だった。

ふわりと漂い、何かを囁くように、カグヤの手にとまった。


「……君は、望んだんだね」


そう声が聞こえた気がした。


その夜から、カグヤの魔力は異常に膨れ上がり、次の日から村人の体調が崩れはじめた。


高熱。咳。立てなくなる者。次第に亡くなる者が出てくる。

だが――なぜかカグヤだけは、まったくの無傷だった。


「……おまえのせいだ」

「おまえが来てから、おかしくなった」


優しかった人たちの目が、凍えるような憎悪に変わっていった。

カグヤは泣きながら、村の畑に薬草を探しに行った。

誰よりも早く起きて、食事を運んだ。

それでも、誰も振り向いてはくれなかった。


そして――最後の夜。


村の灯りはすべて消え、誰もいなくなった。


誰も。


「……ごめん、なさい……」


灰の中に、紅の襟だけが鮮やかだった。

カグヤはそっと、村を離れた。ひとりで。なぜ生きているのかもわからないまま。



---


時は現在、場所は人の世界の山中。


――風がそよぎ、鳥の声がする。


「ねえ〜、もうムリ〜!休も?どっか寄ろうよ、ね?ね?」


金髪をゆらしながら、エリスが文句を言う。歩き始めて数時間、道も山道に変わり、彼女の表情は疲労でいっぱいだ。


「エリス、旅ってこんなもんでしょ……がんばって」


ユキは涼しい顔をしながらも、肩で息をしている。


「……あ。あそこに村が見えるよ。寄って休んでいこう!」


エリスが指差す先には、ぽつんと山の中に広がる集落があった。煙はない。人気もない。だが、家屋はしっかり建っており、倒壊や炎の跡もない。


「なんか……変だな」

シアは眉を寄せた。


慎重に村へと足を踏み入れる3人。だが、誰もいない。物音ひとつしない。

空き家の中には、昨日まで人が住んでいたかのような整然さがある。


「……ねえ。ここ、何か……嫌な感じがする」

ユキの声がかすかに震える。


「ここには泊まらない方がいいかも。先に進もう」


シアの提案に、ユキもエリスも無言でうなずいた。


だが――


(……なんだろう、この胸のざわつき……)


シアは後ろ髪を引かれるような違和感を覚えながら、村を後にした。


そして、それは現れる。


ガアアアアアアアアア……!!


森の中から飛び出したのは、三つ首の獣。

腐食した鱗、紫色の瘴気。魔物だ。


「来るよ、避けて!」


ユキが氷の槍を放ち、エリスが雷撃を放つ。

シアは剣を構え、風の魔法を纏って飛び込む。


「せいっ!」


だが、その瞬間。


ズドオォォォンッ!!


魔法が外れ、樹を吹き飛ばす。

敵にはかすりもせず、シアの身体がぐらつく。


「シアっ!?」

「ちょっと、だいじょ――」


言いかけたエリスの声がかき消えるように、シアの膝が崩れ、倒れた。


――視界が、暗くなる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ